第11話 完璧にフラグ立ったな


 放課後。

 帰る準備をしていると吉田が話しかけてきた。


「どうよ公野! ゲームの進み具合は!」


 早くも支度を済ませた吉田は、その場で小刻みにステップを踏んでいる。そのままバイト先まで走っていくつもりなのだろう。

 随分とやる気満々だが、可愛い子でもいるのだろうか?


「男爵の息子がひどい振られ方するところまで行ったぞ」

「おおー! じゃあ今日中には王家からの招待状が来るんだなー! よっしゃあー! 期待しているからなー!」

「ああ……働きすぎて身体壊すなよ?」

 

 あと勉強も怠けるなよー。


「うん! きーつけるー! じゃーなー!」


 それだけ言うと吉田は、バタバタと教室から出ていった。


――コラー! 廊下を走るなー!

――さーせーん!


 そして先生に怒られていた。



 * * *



 さて、今日も夜の8時頃にログインする。

 アルサーディアの時間は、現実世界と同期していて24時間サイクルだ。

 しかし日照時間がえらく長いらしく、3時を過ぎると明るくなって、夜の10時頃になってようやく日が暮れてくる。

 なので、夜の8時にログインしても、まだ全然明るいのだった。


「おはようございます、お嬢様」

「おはようございます、お嬢様」


 ログインすると必ず、NPCの使用人たちはそう挨拶してくる。


「おはようさんです!」


 俺は変な挨拶を返しつつ、兵舎へと向かった。

 さーて、今日は何を装備していこうかなー。

 ちなみに、いつものピンク色のドレスは修繕に出しているので、今は白シャツにドロワーズというあられもない格好だ。


――ガサゴソガサゴソ……。


「よし! これだ!」


 それは、上半身をすっぽり覆い尽くすくらいの『鉄の盾』だった。

 アイアンメイスよりも倍は重たい。

 今日はこれを両手に装備していく。


「よっしゃー! いくぞー!」


 そしてドロワーズ姿のまま、鉄の盾をぶん回しながら、城まで続く全長5kmの道を爆走するのであった。

 いいランニング日和だ!



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名前 オトハ・キミーノ

身分 公爵令嬢

職業 戦士

年齢 17

経験値 4579


【HP92→100】【MP33→35】


【腕力 20→23】【魔力 10→13】

【体幹力14→17】【精神力13→16】

【脚力 17→19】


【身長 175】 【体重 66→63】


耐性   恐怖D 刺突D

特殊能力 経営適正D 回復魔法D 宝石鑑定D

スキル 猛ダッシュ 生産(宝飾)D 



装備

 鉄の盾×2

 絹の下着

 ドロワーズ

 革のブーツ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 * * *



 なんか、ステータスの上がりが悪くなってきた気がする。

 強くなればなるほど、より強度の高い負荷が必要になるのだろうな。


 俺はドロワ姿のままお城に入る。

 衛兵の人が変な目で見てくるが、入城を断られるようなことはないようだ。


「ぬ……! 何という格好をしているのだ、オトハ!」


 おや、廊下でばったりと王太子さまと出くわしましたわ。


「セクシーだろー?」


 と言って俺は、盾を持っている両手を上げた。

 どうよ、この鍛え抜かれた上腕二頭筋……。


「し、痴れ者め……! 甚だしく目障りだ、今すぐ俺の前から消えろ!」

「んあっ?」


 どっちが痴れ者だよ、この浮気者め!

 どうやら装備品にはそれぞれ『魅力値』みたいなものが設定されているらしく、それが低いと、NPCから見下されてしまうようだ。


 宝飾品も外しちゃったしなー。

 王様にもご挨拶したけど、なんか昨日以上にそっけない態度だった。


 さて、気を取り直して婚約破棄クエストを進める。

 城の周りを歩いていると、城門近くの草むらに男爵家の息子が隠れていた。


「ふふふ……まだかなエルマ……ふふふ……」


 もう手遅れだこの人……。

 だが、正規の婚約者たる俺にとっては、彼が聖女をプスーっとやってくれれば、そんなにありがたいこともないわけで。

 俺は草むらに身を隠すクオス君を、城門の中からこっそり見守る。


 城の奥の方を見れば、さらにその俺を王太子様がコッソリ見ておられた。

 何とかして婚約破棄のネタを見つけたいんだろうな。

 イヤらしい奴!


 ちなみに、ちょっと気になって『お友達END』もについても調べてみた。

 どうやら身を挺して聖女を庇うというのがポイントのようだ。

 それが、あの聖女が心を入れ替えるきっかけになるらしい。


 もちろんここで聖女を助ければ、王太子は俺との婚約を破棄する理由を失う。その後も何かと難癖をつけて婚約破棄しようとしてくるのだが、そこは片っ端からフラグを折っていく。

 国家の安寧のためには公爵家をないがしろにできないと、国王とお妃様に認めてもらうことができれば、王太子も容易には婚約破棄ができなくなる。


 あと、王太子は基本的に面食いなので、魅力値を高めることに心血を注げば、案外簡単に愛の虜となるようだ。

 そうすれば浪費を無くさせたり、公爵家に対する税の減免を引き出したりも出来るようになるとか。


 要は、公爵令嬢としてまっとうな手段を用いて、国をあるべき方向へと導くというわけだな。

 お友達ENDとは、なかなかどうして崇高だった。


「しかーし……」


 俺はあくまでも、悪役令嬢を貫くのだ。

 じゃないと吉田に対する裏切りになっちゃうからな。


 あと、竜人の庇護を得られなくなってしまう。

 先行する他のプレイヤーの良い餌食になってしまうので、ゲーム難度が飛躍的に高まってしまう。


 一応、竜人の庇護がなくても、竜人同盟に参加することは可能であるらしいが、そこはプレイヤー本人の交渉力が問題になってくる。

 初期クエストを終えるまでに、竜人同盟の盟主さんと連絡をつけて、参加を認めてもらわなければならないのだ。

 初期クエスト中は、ゲーム内での交流が出来ないため、リアル経由でそれを行わなければならない。

 そしてそれは、なかなかに難しいことなのだそうだ。


「お、きたきた……」


 あれこれ考えているうちに、何も知らない聖女様がのこのこと歩いてやってきた。

 聖女様なのに本当に歩いてやってくるんだな。

 衣装も一張羅のようだし、子爵家は財政難なのだろうか……。


「エルマ……」

「クオス? どうしたのそんなところに隠れて。何かようかしら?」

「うふふ……エルマぁ……!」

「え?」


 なんでわざわざ、城の近くで襲いかかるのかはわからんが、立ち上がったクオス君の手には確かにナイフが握られていた。


「君は誰にも渡さない……!」

「キャー!」


 聖女の悲鳴とともに動き出す衛兵。

 しかしそれより、クオス君のナイフの方が早い――。


「ざけんなー!」

「うわー!?」


 だがなんと!

 聖女様は、ナイフの握られたクオス君の手をとると、そのまま背負投げをかましたのだ。


「ぐはー!」


 強いぞ聖女さま!

 いつのまにそんな体術身につけたんだ!?


「うふ、これはチャンス……」


 そして不敵な笑みを浮かべた聖女様は、なんと、クオス君が持っていたナイフで自らの手を切った!


「ああ痛い! 痛いわー!」


 ポタポタと血を滴らせながらその場にしゃがみ込んだ彼女は、駆けつけてきた衛兵達に向かって、渾身の媚を売る。


「どなたか、助けて下さいましぃー!」

「ああ! 聖女さま!」

「この不届き者めー!」

「うわー!」


 あっという間に取り押さえられてしまったクオス君。

 聖女の怪演技はまだまだ続く。


「これはオトハ様の差し金ですわ! クオスがこんなことするはずありませんもの! これは絶対に、オトハ様の差し金ですわあー!」


 更にワラワラと群がってくる兵士達に向かって、怒りの矛先を俺に向けるための演技をこれでもかと繰り出すのだった。


「う、うわああ……」


 兵たちの庇護欲を高めるために、聖女はあえて自らの身体を傷つけ、あまつさえ俺にその罪をなすりつけてきたのだ。

 何という執念……。

 流石に吐き気がこみ上げてきた俺は、面倒なことにならないうちにと、その場から立ち去った。

 そして一目散に、我が屋敷へと走っていった。


【ナレーション『王太子妃の座を狙う、聖女エルマの執念は凄まじいものであった。エルマは村の修道院で育てられた孤児であり、元は信仰心の厚い娘であった。やがてその美貌を認められて子爵家の養女となるが……』】


 うお! なんかナレーションが始まった!


【ナレーション『その子爵家は、暗殺や密貿易、奴隷商などで財を成した典型的な悪徳貴族であった。王室や教会との癒着も強く、その腐敗しきった環境は、聖女エルマの人生観を大きく捻じ曲げることとなる……』】


 な、なるほど……国の醜い部分をこれでもかと見て育ったんだな?


【ナレーション『綺麗事では生きられぬと知ったエルマは、成功を得るためには手段を選ばない決意をする。子爵家の暮らしと幼馴染のクオスとで、ひとまずの妥協をしていたエルマであったが、聖女の力に目覚めた後は、より高い地位を欲するようになる。やがて、王太子妃の座を奪うことに執着するようになったのである……】


 むむむ、病的なまでのエルマの行為には、そのような背景が……。

 ここでエルマに同情できるかどうかで、今後の展開が変わってくるんだろうな。

 元々は信心深い人だったのだから、更生の余地だってありそうだ。


 でもこれって結局、国を統治できずに、汚職と浪費を産みまくっている王家に問題があるんじゃないか?

 公爵家の令嬢を蔑ろにして、ますます国を混乱させようとしている王太子の責任も大きい。


「つまり……!」


 どうかんがえたって、あの王太子が悪いんだな!

 あいつが諸悪の根源だ!


 なんとかして王太子をぶっ飛ばせないものかと、俺は道すがらに考えずにはいられなかった。



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名前 オトハ・キミーノ

身分 公爵令嬢

職業 戦士

年齢 17

経験値 4579


【HP 100】【MP 35】


【腕力 23→24】   【魔力 13】

【体幹力   17】【精神力16→17】

【脚力 19→20】


【身長 175】 【体重 63→61】


耐性   恐怖D 刺突D

特殊能力 経営適正D 回復魔法D 宝石鑑定D

スキル 猛ダッシュ 生産(宝飾)D 



装備

 鉄の盾×2

 絹の下着

 ドロワーズ

 革のブーツ


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