二十七話『逃走』

 司令官邸。

 既に接敵は無く、ストレスフリーでその出口に出で立てた。


 私の体には機械兵オートマタのオイルがへばり付いている。

 くらくらとする不快感を感じ、それに対してため息が溢れ出る。


「……無駄に気怠い戦闘でしたね」

「貴方が不用意に突っ込まなければ防げた筈ですが」

「───流石に反省して居ますよ」

「本当にそうでしょうか」


 第一増援部隊は全員排除した。

 後はここから逃げればいいだけの話。


「兎に角、餞別を送らせていただきます」


 しかしアカネはそこで立ち止まり、近くに隠してあった、あるモノを取り出した。

 ゴミ箱から引っ張り出したそれは、少し汚れた紙袋であった。


「……何ですか、これ」


 さり気なく渡された紙袋。

 中を見ようと袋の中に手を入れようとしたが。

 それはアカネの剛腕によって阻止された。


「時間が押しています。余計な事をして、死ぬつもりですか」

「いや……分かりました」


 出かけた言葉を飲み込み、紙袋を手に取る。

 それに大きく被さる様に「いたぞ!」と言う怒号が遮った。


「……残兵ですか」


 アカネがため息混じりに呟き、直ぐ様兵の排除に向かう。

 その背中を見計らって、私はレネに囁く。


「レネ、どう思います?」


 ふわぁーっと。

 欠伸をかきながらレネは出現し、わざとらしく言った。


「何の事ですか?」

「……そうですか」


 不意に項垂れる首。

 その合間に、レネはアカネの事を視認したらしく。


 目を開き、元気そうに。

 兵を排除して帰ってきたアカネに抱きつこうとした。


「あ!久し振りですねアカネさん!!」


 しかし、触れられない。

 意思を持つ物体には触れられないのが、彼女の特性であるから。


「あ、触れられないんでした」


 アホの子の様にそれを悟ったレネ。

 そんな声も聞こえないアカネは、私に少し近付き、告げた。


「ではそのまま帰って下さい、死にますよ」

「……ええと、何故踵を返すんです?」


 司令官邸に戻る様に歩むアカネの仕草に、私は懐疑にした。

 しかし歩みを止めないアカネ、後に彼女は淡々と言った。


「私の最後の魔法、何か言ってませんでしたね」

「……ええ、確かに」

「私の最後の魔法は───自爆です。この基地を吹っ飛ばす程の」


 彼女が軽く首を捻り、うなじのピンを握る。

 ああ、そういう事ですか。


「代わりは?」

「そんなモノ、幾らでも居ます。という事なので、お逃げ下さい」

「───分かりました」


 振り返って、紙袋を握りしめ、その場を立ち去ろうとする。

 だがその背中を、アカネは止めた。


「ああ、そうだ」

「……?」

「もう死なないでくださいね。維持費も掛かるので」

「ふっ。……分かりました」


 これも彼女なりの応援なのだろう。

 私はそう受け取り。

 彼女がうなじのピンを抜いて……。


 ──────基地全体を覆う爆発を起こしたのを傍目に、逐電した。

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