第二十七話 『焔を劫火で撃ち墜として』

 地球という星を呑み込まんとする赤色巨星。

 滅びゆく恒星を、悪魔はその身に体現していた。


「識、手前エは言ったな。俺如きを倒せなければ、この時間軸は期待外れだと。ならば答えを決めよウじゃアないか、この宇宙を滅ぼすことで————!」


 遂に、街は炎に包まれ始める。

 背の高い摩天楼は基底から溶け落ちた。

 人工的な地面が抉れ、赤熱した本来の地表が姿を現す。そしてその地表すら、瞬く間に蒸発。


 世界の焼却は、既に始まっていた。


「この不滅の焔を持って、世界を焼き尽くそう。あァア、あァア! 手前共を喰らい、島を砕いて星を呑み、月界へと至りて神々をも味わい尽くそう!」


 しかし、その総てを。

 智富世はただ、眺めていた————。


「……愚かよ、あなたは」


 紫苑の少女は、白く紅い怪物へ。


 冷たい一言。冷えた視線。熱さの一つも感じさせない立ち姿。

 実際に、彼女の温度は微塵も上昇していないのだろう。


 灰色の塵が降る街で、少女の髪はなお朧げな白へと変わっていく。

 焔の粉が舞う空間で、少女の瞳はなお明るい真紅の輝きを秘める。


 俺も歩も肉体の融解に抵抗するのに限界な状況の中。

 星の終焉の輝きなど無関係だというように、智富世という存在は世界に在りつづけていた。


「貴方がそんなふうにこの物語を終わらせるのなら、私は貴方を認めない。私は貴方の存在をする」


 歩とも、悪魔とも。単存在の混じり物である俺とさえ、宇宙に存在している前提が違う。

 世界のルールとは不干渉に世界に在り続け、自らの日常を物語へと、押し付ける。

 彼女にとって、世界は常に普遍的で、世界にとって、彼女は常に非日常。


 因果の世界マリッジ・/・ユニバースのなかで、一方通行に世界へと干渉する。


 単存在とは、我儘なモノ。


 視線の前では、瞬間という言葉さえ、遅すぎた。

 ただ彼女が視ると言えば、同時に結果は叶えられる。


 宝石の眼差しは虚空から、悪魔へと。


「————」


 たった一瞥、それだけで。


 焼け焦げた向かい風が、止んだ。

 燃えゆく街の大絶叫が、静まった。

 永遠を体現する炎が、眩い姿のままで保存された。

 生きるもの。生きていないもの。そして生きていて死んでいるもの全て平等に。


 瞳に映る物語は永遠に、優しく静かな眠りについた。


「時間を————止めた?」


 静けさの訪れた世界で、初めに声を上げたのは歩。驚嘆と共にこぼれたその疑問も無理は無い。

 だって、目の前にある物質と、現象の全て。悪魔の鼓動から素粒子の振動に至るまでの行為が、停止したのだ。

 まるで時間と空間が止まったよう。


「いや、多分そうじゃない」


 けれどそれは、全くの見当違い。


 静止したのは前方の空間、智富世の視界に映っていた景色だけ。

 止まった空間を避けて、冷えた空気が流れてくる。

 今朝は誰も降りる事も乗る事も無いというのに、刻限通りの無人電車が軌条を鳴らし、空気と地面を震わせる。

 つまり、時間の運行は未だ正常。

 時の進む世界の中で、彼女の目に魅入られた景色だけが、残酷に世界の流れから取り残されていた。


「例えるなら……描写の停止?」


 俺の表現に、智富世は「変な例えね」と首を傾げながらも肯定する。


「まあ、そんなところ」


 言いながら、智富世はこちらを見やった。

 悪魔を停止させ、過去に同じ単存在である俺も呑み込まれた、紅い瞳で。


 彼女と、目が合った。


「智富世、その目でこっちを……っと、ん?」


 止まっていない。


 目にする世界を丸ごと凍結させる瞳で覗かれているというのに、俺は身体も意識も動かせている。

 その疑問に、思考を読んだらしい智富世が一度首を縦に振った。


「安心して。今の私は、あの時と違って止める対象を選べるから。……単存在も成長するのね」

「……そっか」


 智富世の言葉に安堵していると、痛みに堪えるように身体を抑えながら近づいてきた歩が、彼女に尋ねた。


「確認ですけど、もう一度、あの悪魔を動かすこともできるんですか? でないと、焔の壁も壊せないし、幽妃ちゃんを助けることもできないでしょう?」

「勿論よ。どうせこの力、時間稼ぎにしか役立たないし」

「時間稼ぎ……うわあっ⁉」


 歩がオウム返しに訊いたのと同時に一筋の稲妻が、彼の真後ろに迸った。


 緑色の電光が、空から地上へ一直線に急降下し、歩の背後に音もなく着地していたのだ。

 その光は、鎧に包まれた人の形をしていた。


「よ、鎧……あ、祈織……さん、でしたっけ?」

「————状況は⁉ ……あら、こんにちは、手塚君」


 智富世が待っていた相手とは、祈織のことだった。

 白い装甲————確か、プレアだったか。装甲の頭部がぐいん、とスライドするように開いて、見知った金髪の少女の顔が露になる。


 彼女は歩に返事をしつつ、ぐるりと一度、辺りを見渡した。


「あの焼き鳥を見ればわかるわね。……ごめん、智富世。あたしを待つのに、力を使わせちゃったでしょう?」


 心が読めるわけではないというのに、彼女は見渡しただけでそこまで理解が及んだらしい。


「もう一度、鋳型を作るのに手間取っちゃって……って駄目ね、言い訳は」

「大丈夫よ。連戦させてしまっているのは、事実だから」


 敵を止めているとはいえ、彼女たちの間には既に少しの余裕があった。無論、油断はそこに存在しない。


「あんたも、待っていたってことは、もうこの鋳型の解析は終わっているのよね?」

「当然。少し、貴方がこんな代物を想造したって言うのは、どうしても運命を疑わずにはいられなかったけど」

「運命? この槍とあたしが?」

「——なあ、二人とも」


 思わず、二人の会話に割って入った。


「ん?」


 気付いた二人が、そろってこちらに視線を合わせた。


 この二人は放っておくと、俺の理解の範疇を越えた話を始めてしまう。

 だが、彼女たちの口ぶりから察するに、二人の間では既に幽妃を救う方法があって、共有されているということだろうか。


「もう、フェネクスを倒す方法が決まったってことでいい……?」

「ええ、大体は」


 祈織の即答に、随分と速いと思った。


 祈織が再度到着してから作戦が決まるまで、まだ指で数えるほどの口数しか交わしていない。

 先んじて攻略法を考案していたのではと錯覚するくらいに、効率の良い議論。

 だが、それは思考や情報処理の速度、効率が生物とは桁違いである現像の種の所有者メレッドであるからこそ、加えて祈織が元々洞察力に長けていて、智富世が心を読めるからだろう。


「総汰、もう力は使える?」


 俺の状態も分かっているのだろうに、智富世は確認をとるように俺に言った。


 はっきり言えば、それは難しかった。

 肉体が力の行使を拒絶している状態ということは、それ以上の無茶は俺という個人を滅ぼしかねない危険性を常に孕んでいるということ。俗にいうリミッターのようなもので、そんな状態でさらに力を使えば、それこそ、過去の智富世が引き起こしたという災厄を再演してしまうかもしれない。


 だから、本当は避けるべきなのだろう。


 だが。


「ああ」


 きっぱりと、肯定した。


 智富世は無理をしろ、という意味で口にしたのか、俺を気遣ってくれていたのか。後者だということは、最初から心の線で理解できた。


 だから、拒否する選択肢なんて、とっくに捨てている。


 いや、最初に危険性を警告していたのは智富世なのだから、やはり無理をしろという思惑もあるのだろう。


「君が単存在の力を使ったんだ。俺も少しは踏ん張らなければ、だ」


 そう。だから、いずれにせよ、俺は単存在の証明をする。


「なら────」


 と、同時に祈織の左手から、ずおんと重く、くぐもった電子音が響いた。

 握られていたのは、白と黒の螺旋を描いた突撃槍だった。


「話は決まったわね。総汰、手塚君?」


 ノイズの走った巨大なフォルムは、少女の体躯とは不釣り合い。しかし、大槍を悪魔へと向ける少女の立ち姿は違和感を微塵も感じさせずにはいなかった。


 智富世を儚き人形と呼ぶならば、祈織はまさに、不敵な女王。


「あんたたち、焔に突っ込む勇気はある?」




 ***




 静止した恒星の表面へと、歩と俺は飛び込んでいく。


 至近距離でさえ、焔の温度は感じられなかった。

 だがそれは、智富世の証明が解除されるまでの話。

 俺達が朱い膜に触れる直前、止まっていたはずの焔がぶわりと膨張を再開し、超高温の波動が全方向に照り付けてくる。

 智富世が停止を解除したためだ。

 しかし、それは障壁を破壊するための一瞬の事に過ぎない。間髪入れず、智富世の弓から放たれた光矢が焔を食い破り、焔の膜を打ち払った。


「見えた……!」


 明確に、フェネクスの姿が視界に映った。

 火球の障壁が霧散した隙を逃さずに、空中を蹴り、悪魔の元へ跳躍する。


 もう一度、形相の腕を届かせようと触腕を伸ばした時、熱風が吹いた。


 にぃ、と悪魔が嘲った。右腕を上げると、それだけで胸の内側から再び、焔が溢れだす。

 再び、赤色巨星が構築されてしまう。今度は眼前に飛び込んだ俺達を、炉にくべて————。


「————」


 巻き込まれる直前、焔の揺らぎが静止した。

 智富世がその深紅の瞳で再び悪魔を捕えていた。


「今だッ!」


 残りわずかだった距離を一呼吸で詰める。

 俺の手がフェネクスの胴に触れると同時に、黒白螺旋の槍が後方より飛来。


「————、ッグウウウウ⁉」


 直撃する寸前に、再び目を逸らされ動作を再開した悪魔の腹部へと、槍は深く突き刺さった。

 槍から放たれた黒い光は、急激に不滅の焔を汚染していく。

 熱を失った焔は、もう俺を灼くことはない。


 直接、低温の焔に腕を当てがい、蒼白い光、形相の腕を纏う。


 そして左手で悪魔を掴み、もう片方の右腕で掴んだのは、悪魔の焔ではなく。


「……総汰さん」


 歩の左手だった。

 呟く少年の声に驚きは含まれていない。自分が焔の中に飛び込んだ理由を、彼自身の役割を、すでに彼は理解しているようだった。


「当たり前のことだ」


 当たり前の事。

 確かに、俺が手を伸ばせば、悪魔の内側は解析出来る。少女の形を捉えることが出来る。

 でも、それでは足りない。俺では手を届かせても、幽妃という少女を、掴むことが出来ない。

 幽妃を救う資格は、最初から俺になど与えられてはいないのだ。


 何故なら、彼女はヒロインだから。


 そして彼女にとって、英雄は俺ではない。俺と少女には繋鎖と呼べるほどの奇縁は無い。


 そう、幽妃という少女にとっての主人公は————。


 純粋で、臆病で、それでも頑張り屋の男の子。


「歩!」


 ————手塚歩、君なんだ‼


 歩の左手が、俺から広がった形相の腕に覆われる。


「掴め————‼」


 少女へ伸ばす歩の腕に、紫電が迸る。

 器の種の権限と形相の腕を纏った左手が、悪魔の中へと沈み込んでいく。


「く、そ。取るか、獲るか、採るか、盗るかア!」


 悪魔が咆哮し、腹部に突き刺さったままの槍を引き抜こうと暴れ、藻掻く。


 だが、少年は悪魔を真っ直ぐに見据えて、叫んだ。


「違う。幽妃ちゃんは最初から、ボクの物でも、お前の物でもない!」


 悪魔に沈みこんだ左腕を伝って、器の種は、器の概念を定義する。

 魂の器を不死鳥から少女へ、再構成。


「幽妃ちゃんには幽妃ちゃんだけの心が、魂が、色がある!」


 形作られる。魄を造り変え、魂を掴む。


「あの子はこれから、自分の色で人生を描いていくんだ! それをお前なんかに、邪魔させるか————!」


 神の櫃から、少女の色を取り戻す————。


 ────沙蘭しゃらん、と。


 焔の中から、一縷の白い光が溢れだした。

 木漏れ日のように、優しい光が。

 星明りのように、綺麗な光が。

 光が向かう先は、歩の左腕。


 ゆっくりと、儚く、薄く、しかし力強く。

 たしかな意思を持って、光は焔から離れ、少年の方へ。


「……見つけたよ」


 歩の声は、震えている。

 

 だって、それは少女の小さな右手だった。


 彼を求めて伸ばされる華奢な腕。

 その姿を捉えようと開かれた小さな掌。


 彼は優しく、慈しむように。懐かしいその手を握り返して、少女のカタチを引き上げた。


「……やっぱり、助けてくれたね」


 くるり、くるり。


 少女は空を舞う。

 少年は彼女の両手を握って支えるだけ。


 物理の世界の常識からすれば、落ちてしまうのは必至だった。


 それなのに、幽妃という名前みたいに、ふわりと少女は青空に浮かんでいて。


 崩落した景色さえ、彼女の前では崩落世界ポストアポカリプスの原風景。


「ありがとう、歩くん」


 りん、と。


 幸せの囁きが、街中に響きわたった。


 此処に、一つ目の奇縁が結ばれた。




 ***




「あぁ、ア————」


 凄まじい胆力だ。

 核となる魂を失ってなお、悪魔は健在だった。致死の情報を与える槍すら、フェネクスは引き抜き、生き延びていた。


「手前エ達、合格だ。だがな、俺は滅びンぞ————」


 しかし、不死の焔は二度と、彼の穴の開いた腹部を再生することはなく、息も絶え絶えといった様子で、フェネクスは空に留まっていた。


 だが、このまま放っておいてしまっては、どうなるのか。


 答えは分かりきっていた。


「あんた、ここで見逃しても、また誰かを襲って、魂に巣くうんだろ?」

「あぁア、当然だ……俺に目的が無イわけじゃアないが。滅びに至る日まで、悦楽に浸り、血と号哭を貪るのは、間違いが無イな」


 どこかその言葉に、作為のようなものを感じた。

 まるで、こちらを挑発するような、そんな気配。


 とはいえ、言葉の中に、嘘は含まれていなかった。


 ————なら、俺はこの選択を、拒否しない。


 弾き飛ばされていた大槍を形相の腕を伸ばし、掴む。

 瞬間、祈織がどれだけ危険な武器を振るっていたのか、稲妻と共に迸るじかじかとした痛覚反応と情報量で理解した。

 だが、たしかにこれなら、悪魔に致命的な損傷を与えることが出来る。

 情報を崩壊させるという性質は、単存在にさえ有効であるらしいのだから。


「もう、この戦いも、仕舞いにしよう」


 後方へと飛翔したフェネクスの、心臓を目掛けて、狙いを絞る。

 再び智識の種を借りたせいで、既に限界を超えた肉体が悲鳴を上げた。


「————ぅ、つ」


 堪えて、形相の腕を投射装置バリスタへと変形させ、紅炎の激情を纏わせる。

 モノクロの螺旋を、炎の色が朱く彩った。


 ————あとは、智富世達、次第だ。


「征け————!」


 振り抜くと同時に、感情の種の炎は全身から搾り出されるように燃え尽きた。

 だがそれでも常識を容易に超越する権限は、螺旋の槍が世界をブレさせるには充分な威力を秘めていて。


 もし、悪魔が万全な状態であれば、容易に躱されていただろう。


 しかし、損傷の激しいフェネクスが選んだのは、回避ではなかった。


「————ッ。避けられないのならば、翼はくれてやる。だが俺はこの程度では‼」


 死なない。そう続くはずだった言葉は、槍を受け止めた翼の蒸発と共に断ち切られる。


 苦悶の声一つ漏らさずに翼を捨てた悪魔の容貌は、もはや不死鳥とは呼べない。

 しかしそこには、確かな力強さが残っていた。


 けれど、言葉は残酷に、紡がれる。


「いいえ、貴方はもう終わりよ」


 告げたのは、いつの間にか紫苑の髪を取り戻していた智富世だった。

 智識の虹弓につがえられていたのは、祈織が想造していた螺旋を描く槍。


 同じ単存在であっても、彼女は顔一つ歪めず、穏やかな瞳で槍を握っていた。──と。


「拡張」


 もう一つ、氷のように鋭く、煌めくような声が響いた。


 祈織の命令の声。同時に、白い虹弓の輪郭を、金属質の翡翠の色がすい、となぞって象った。


「今のあたしじゃ、世界樹の槍の鋳型しか作れない。けれど、智富世ならそこに読み取った槍の智識から、検索したグングニルの中身記憶域を作り出せる」


 そして、智富世と対になるように立つと、一回り程、スケールの大きくなった弓の弦とつがえた槍に手を携え、大きく構えた。


 番える弓と悪魔の間に、無数の鈍色の円が連なる。金属室で角張った飛行物体は、光を集め、強める性質を持っていた。


「狙いはあたしにまかせなさい」


 本来一人で扱う弓矢という概念も、彼女たちとっては関係の無いことらしい。

 一人で成し得ぬ芸当を、強引に二人で可能にする。まさに、子供じみた女王たちの我儘。魅力的で、暴力的な饗宴が悪魔の世界を覆い尽くす。


「ほン当に、総ての智識が圧ッっ縮されている……。在りえるのか、それじゃアまるで、折れた星界樹そのものだ‼」

「そう。……だから、貴方は、もう終わり」


 智識の種を通して情報が脳内に伝わってくる。


 ————星界樹絶槍グングニル————。


 神代、にて幾多の終末の巨人を屠り、怪神達をも滅ぼした対決戦兵装の一振り。


 旧き座天使を墜とす槍が、二人の少女の手を離れる。

 一射は、光速を超越した速度で解き放たれた。


 ————神槍は、虹の色を宿していた。


 翼を失った怪人に、もう退路は残されていなかった。


 鋳型の槍に穿たれた悪魔の元へ、神槍は景色を自らの色へと塗り替えながら、時空を呑み込み突き進む。


 巨大な光芒の前では、恒星の焔でさえも塵芥。

 強靭だった焔の怪人が、呆気なく、他愛なく、機械的に吸い込まれる。


 そして、二つの槍が交差するとき。


 富詩の焔は、無限のプリズムの中で無に帰して、


「あぁア、シキよ。まさかこいつら、


 膨大な熱量が、悪魔の肉体を呑み込んだ。


 幾千、幾万の光が飛び交う世界。

 そこには輪廻も楽園もない。

 ヘルヘイム、ニヴルヘル、奈落、泥犂、根之堅洲、黄泉、クルヌギア、シバルバー、ミクトラン、ハデス、タルタロス、ゲヘナ、シェオル。

 そこに────再生の園アアルの名は無く。


 現代に再臨した蘇生鳥が潰える、火葬の光。


「────あ、ぁア……」


 その中でフェネクスは、朦朧に呟いた。


「こいつらならば、プレーローマのユニを————」


 それきり、悪魔の言葉は再び続くことはなかった。


 太陽を、大樹が貫いた。

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