第44話 中途半端(2)

 公園を出てバスで駅まで戻り、昼食を終えたところで風香が提案した。

「今日はここでお開きにしましょうか」

 当初の予定ではこのあと移動して、堤防の紅葉が見頃になっている川辺へ行くことになっていた。しかし風香は八尋を気遣うように「橘くん、あんまり調子よくなさそうですから」と言ったのだった。

 八尋は、態度に出してしまった自分の未熟を恥じながら「心配かけてしまってすみません」と謝罪した。そして「実は今朝、急な仕事が入ったせいで寝不足で。そのせいかもしれません」と付け加えた。寝不足は事実だが、八尋の気分が沈んだこととは関係ない。

「全然気にしないでください。ゆっくり休んでくださいね」

 風香はあくまでも優しかった。それがかえって八尋の後ろめたさを刺激する。もちろん彼女は悪くない、問題は自分の心のほうだと八尋は自責する。

「今日はありがとうございました」

「こちらこそです。誘ってもらって本当に嬉しかったです」

 改札を抜けた先で、別れの挨拶をする風香と八尋。

「あっ、そうだ」と風香が鞄の中から封筒を出してきた。「この間の写真です」

「ありがとうございます」

「またどこか行きましょうね」

「……ええ、また。カメラも買いますよ」

「ふふ。楽しみにしてます」

 笑顔で手を振る風香に、小さく手を振り返す。自分の乗る電車のホームへ続く階段を上る彼女を見送った後、八尋も別のホームへと歩き出した。

 濁った排気ガスの中で深呼吸をしたような不快感が胸の奥にあった。自己嫌悪が湧いてくる。夜空の言う通りだ、なんて中途半端なんだ俺は、と怒りのままに自分を罵った。

 午後二時を少し回った時間、電車の車内は乗客の姿もまばらだ。八尋はロングシートに座り、頭を窓ガラスに預けるようにして天井を見上げた。

 不意に芽生えた罪悪感に、風香と過ごす時間を純粋に楽しめなくなってしまった。そのことを、彼女に見抜かれた。不安にさせて、気遣わせて、それに甘えるように嘘をつき場を切り上げた。

 衝動的に後頭部を窓ガラスに打ち付けた。鈍い音が車内に響き、幾人かの視線がこちらに注がれるのを感じる。右手で目元を覆い、深くため息をついた。

 本当に、何をやっているのかと情けなくなった。勝手に引け目を感じて、それが態度に出てしまい相手に心配をかけるくらいなら、初めから会わなければいい。

 中途半端だ、と何度も自分を罵倒する。じんじんと痛む後頭部が、情けない自分の代わりに自分を責めてくれているようで、心地よかった。

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