第六章 ヴァランティーヌの物語 修学旅行
京都は呼ぶよ
吉川ヴァランティーヌさんは、聖ブリジッタ女子学園山陽校付属女子小学校の六年生です。
見てくれとは大違いのお転婆娘、毎日騒々しく日々を過ごしています。
そして付属女子小学校の六年生にも修学旅行がやってきます。
行く前から異様にテンションがアップのヴァランティーヌさん。
行先は千年の古都京都、さてどうなる事やら……
* * * * *
十月半ばともなると、いくら温暖な瀬戸内といえど多少は肌寒くなってきます。
聖ブリジッタ女子学園山陽校付属女子小学校六年の吉川ヴァランティーヌさんにそんなことは関係ないようで、毎日元気一杯お友達の明子さんと遊ぶのですが、今日は違っているようです。
宇賀ビルのいつもの喫茶ルーム、二人は真剣に相談していました。
「珍しいのね、二人がおやつを取りに来ないなんて、どうしたの?」
いつもなら油揚げ専門店コン太一号店に顔を出し、森彰子さんにお菓子をもらう二人なのです。
「あっ森さん!忘れていた!」とヴァランティーヌさん。
彰子さんが、
「待っててね、持ってきてあげるから、今日は私の作ったスコーンよ、ココアもサービスしてあげるから」
持ってきてもらったスコーンを、躊躇無くいただきながら、ヴァランティーヌさんが、
「ねぇ森さん、お願いがあるの?」
「なあに?」と彰子さん。
ヴァランティーヌさんは、
「あのね、こんど修学旅行なの、でね、ヘヤーバンドを買いに来たの、でもね、なにが似合うかわからなくて……」
彰子さんが、
「そうね、聖ブリジッタの小学校も修学旅行の季節だったわね、今年はどこへ行くの?」
「京都!」
と二人がはもっています。
彰子さんが、
「それでお洒落をしたいわけね、女の子ですものね、でもヘヤーバンドはいいの、校則うるさいでしょう?」
ヴァランティーヌさんが、
「大変なの、スカートのすそが短いとか、髪は束ねろとか、ソックスまで指定するのよ!」
「でも、ヘヤーバンドはOK!」
と明子さんがいいます。
「そこのファイブハンドレッドで買うの?」と彰子さん。
「お母さんがお小遣いの中でなら買ってもいいって、だからできるだけ安いお店がいいの!」
明子さんのお母さん、かなりしっかり躾けをしています。
彰子さんが、
「分かったわ、お姉さんが一緒に行ってあげる、いまお店、暇だから」
喜んだ二人は、彰子さんの手を引っ張ってお店に入ります。
「あら、森さま」と店員さん。
彰子さんが、
「今日は可愛い娘さんの付き添いなの、ヘヤーバンドあるかしら?」
「こちらに少しばかり置いております」と店員さん。
「これなどどうかしら?」と彰子さん。
「もっとキラキラしたのがいい!」と明子さん。
「じゃあ、これは?ビーズが一杯付いているわよ?」と彰子さん。
「色が暗いわ!」とヴァランティーヌさん。
かなりいいますよ、この二人は。
結局、細いヘヤーバンドで、ラメがあしらわれたパステルのヘヤーバンドを三本、お買い上げとなりました。
一つ百五十円、三つでお小遣いのうちに入るようです。
「三つも買ってどうするの?」と彰子さん。
ヴァランティーヌさんが、
「コーディネイトするの!二ついっぺんにつけると可愛いわ、これなら服を変えても、ヘヤーバンドの組み合わせを変えれば使えるわ」
明子さんも、
「ヴァランちゃんとおそろいで、少し違うというのがいいのよ」
頑張ったお陰で、極めて満足なお買い物が出来たようですが……
「二人とも帰らなくていいの、そろそろ五時よ」と彰子さん。
なんと一時から四時間も粘っていた二人でした。
……やれやれ、貴子さんとフランソワーズさんに、電話しといたほうがよさそうね……
しかし彰子さん、幼い二人のお買い物に付き合って、すこし癒された気分でもありました。
ヴァランティーヌさん、あわてて帰ったお陰で、なんとか夕ご飯に間に合ったようです。
このごろはフランソワーズさんは、浮田貴子さんに教えてもらったようで、料理などをしてくれます。
もっとも、浮田惣菜商店から購入したものを、温めるとか、炒めるとかするだけですけど、格段の進歩です。
ご飯を食べながらヴァランティーヌさん、購入したヘヤーバンドを持ち出し、とっかえひっかえ組み合わせを変え、クリームヒルトさんとフランソワーズさんに聞くのです。
「ねぇ、これがいい?私の髪に似合う?」
ひとしきりヘヤーバンドを見せびらかしたヴァランティーヌさん、次に大事そうに持っている紙を持ち出しました。
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