元気を出しませんか?


 蓬莱の天変地異が過ぎ、聖ブリジッタ女子学園山陽校にも日常が戻ってきました。

 何事も無く進級した京子さんでしたが、クラス替えの発表で愕然としたのです。

 

 女神と呼ばれた二人が転校したのは知っていましたが、佐田町子、大宮静子、田中美千子の三人が、転校していたのです。


「マチちゃんが……」

 一瞬泣きそうになった京子さんでした。


 折角憧れのクリームヒルトさんと同じクラスになったのですが、クリームヒルトさんが佐田さんのお友達と思うと、声をかけるのが佐田さんのお友達を奪うことになるようで、気が引けるのです。


 やはり佐田さんは、京子さんの中では親友だったのです。


 クリームヒルトさんもなんとなく元気がありません。

「クリちゃん、元気ないわね」

 と、クラスメートの間でひそひそと噂されています。


「やはりマチちゃんたちが転校したからよ、仲よかったから……」

「でも私たちもお友達のつもりなのに……なんか気が悪いわ……」

 こんな話が京子さんの耳にも入ってきました。


 京子さん、親友のつもりの佐田さんのお友達が、こんないわれ方をしてはいけないと思ったのです。

 

 ある日、教室に誰もいないことを確認した京子さんは、ついにクリームヒルトさんに声をかけました。

「吉川さん、元気がなさそうだけど、皆心配しているの」


「マチちゃんたちが転校して、さびしいのだろうと皆は思っているけど、このままではいけないわ」

「クラスの皆は吉川さんのお友達なのよ、元気を出しませんか?」


 滅多にこのようなことを云わない京子さん、おしとやかで物静か、そんな京子さんの言葉です。


 ハッとしたクリームヒルトさんでした。

「ありがとう、浮田さん、お言葉、胸にしみるわ」


「そんな大人びたこと云わなくてもいいのよ、私たちまだ若いのよ」

 とケラケラと笑った京子さん。


 クリームヒルトさんは、京子さんが自分のために似合わない事を言ってくれている。

 そんな京子さんの真心をひしひしと感じたのです。

 

「本当にそうね、ありがとう」

 ニコッと笑ったクリームヒルトさんに、ドキッとした京子さん。

 妙に照れてしまい、「じゃあ」というと、スタスタと教室を出てしまいました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る