……あぁぁぁ、いっちゃった……浮田さん……

　京子さん、シャイなのか、それからもあまり話をしません。

　京子さんの忠告を真摯に受け止めたクリームヒルトさんは、以来明るくなりました。

　多くのクラスメートとも親しくなり、いまやクリームヒルトさんの方はクラスの中心、皆からクリちゃん、クリちゃんと呼ばれています。

　京子さんの方はもともとおとなしく親切で優しい、誰からも嫌われませんが、引っ込み思案と恥ずかしがり屋が災いして、なんとなく影が薄い、それでも皆とそれなりに付き合っています。

　なにか行事などを決める時は、ないがしろには絶対にされません。

　最後の最後には、『お京ちゃん』の名前が挙がってくるのです。

　……お京ちゃん、何で親しくしてくれないのかしら……

　クリームヒルトさんとしては、気になって仕方ない京子さんですが、京子さんの方は、親友の友達を取っちゃいけないと考えているわけで、憧れているクリームヒルトさんに、本当はすりすりしたい心境なのです。

　……吉川さん……

　そんなすれ違いのような日々が過ぎて行き、そして事件が起こったのです。

　『浮田惣菜商店』が傾いたのです。

　明らかに憔悴している京子さん。

　母親の貴子さんは、一切合財の私財を処分、無一文から出直そうと覚悟、辛そうに子供たちに学費が払えないと告げたのです。

　京子さんは、

「お母さん、やり直すのでしょう、私も明子も公立に行けばいいだけよ、卒業したらすぐに私も働くことにする」

　幼い明子さんも、このときばかりはただはこねませんでした。

　京子さんも明子さんも、聖ブリジッタ女子学園を退学する事を決めたのです。

　京子さんが、

「吉川さん……私、事情があって転校するの、親しくしたかったけど、もう出来そうもないわ」

　クリームヒルトさんは憔悴した顔の京子さんを見て、すぐに調べました。

　『浮田惣菜商店』の取引先が倒産、資金不足に陥ったのです。

　銀行から融資を受けていたことも、状況悪化に拍車がかかっています。

　クリームヒルトさんが、

「宇賀さん……お友達のお家の浮田惣菜商店、なんとかなりませんか……」

「珍しいですね、でも美子様たちにどういいますか？」と宇賀さん。

「……」

　宇賀さんが、

「そうですね、『宇賀不動産開発合名会社』の子会社になっていただきましょうか、さすれば当方から資金援助が出来ます」

「しかしそれだけでは、また同じことになりますよ」

「この家には荼枳尼天（だきにてん）様が祭られていました」

「昔、佐田町子が家に行った時、庭に小さな稲荷社が有ったそうです、そこに祭られていたのが荼枳尼天（だきにてん）様でした」

　クリームヒルトさんが、

「荼枳尼天（だきにてん）様もお稲荷様、少なくとも祭っている方に、悪さはしないはずでしょう？」

　宇賀さんが、

「そうもいかないのです、荼枳尼天（だきにてん）様というのは、元々インドの女神ダーキニー様のことで、その本質は人を食らう夜叉羅刹のお仲間です」

「荼枳尼天（だきにてん）様をあがめている限り、御利益はあらたかですが、一度不義理をすると祟られるのです」

「そして浮田の家は、お友達のお父様がそれを行ってしまった、一度として拝んだことがないのでしょう」

「その結果、お友達はお父様をなくした訳です」

「佐田町子が見た荼枳尼天（だきにてん）様は、お怒りのようだったとの事です」

「その当時は、私たちでは荼枳尼天（だきにてん）様にあらがう力はありませんでした、まして佐田町子では無理です」

「私は佐田町子に近寄らないように命じました、少なくとも当時は、刺激しなければ、祟りはお父様一代で済むと思われたのです」

「では、なぜ今になって？」とクリームヒルトさん。

　宇賀さんが、

「私の見るところ、まずい事に蓬莱の天変地異で、荼枳尼天（だきにてん）様がいなくなり、というより悪霊に堕ちたようです」

「お祓いは簡単です、このぐらいの悪霊、今の私なら簡単に祓ってみせましょう」

「しかし代価が必要となるのです、これはヴィーナス・ネットワークの約束事、おいそれと破ることは出来ません」