第60話 ハーレムパーティーとか、呼ぶのやめて下さい。俺はまだ12才なんだがな

 ニューヨークファミリーのケインが、俺に気が付いた。

 ここはダンジョンだと言うのに、ケインはジーンズ風のズボンにTシャツ姿、非常に軽装だ。

 ふざけた口調で俺に言葉を投げつけて来た。


「おやおや! ヒロト大先生じゃねえか!」


 ボス部屋の中から6人の視線が俺に集まる。

 かなり厳しい敵を見る視線だ。


 戦士風の大男が俺をにらんだままケインと話す。


「なんだ、ガキじゃねえか。殺るか?」


 戦士風の大男の言葉を聞いて、背後のサクラとセレーネの気配が変わった。

 矢を弓につがえる音が聞こえる。


 6人組の方でも魔法使いの女が、魔法の詠唱を始めた。


 まずい。

 戦闘になる。

 あちらの人数が多い。


 俺は咄嗟にスキル【鑑定】を発動した。

 全員Lv40~Lv50と高レベルだった。

 正直、勝てる気がしない。


 ケインが暢気な声で、魔法使いの女を止めた。


「まあ、待て。このガキは、俺達と同類だよ。それに、この新ルートを見つけたのはコイツだ」


 俺達と『同類』と言ったな。

 って事は、こいつら全員転生者か?

 地獄帰りなのか?


 戦士風の大男が、ケインに反論する。


「なら、なおさら、ここで殺しておいた方が良い。後々、邪魔になる。オイ!」


 大男の合図を受けて、ケイン以外の全員が戦闘態勢を取る。

 ボス部屋に、殺気が充満する。


 俺もコルセアの剣を抜いた。

 勝てるとは思えないが……。

 逃げる為には、戦って隙を作らないと無理だ。


 サクラも前に出て来た。

 俺の横に並ぶ。


 ケインが大声で、充満する殺気を制した。


「まあ、待てよ! オマエら待て! 俺と大先生で話をさせろよ!」


 戦士風の大男が、ケインに反論する。


「ケイン! リーダーは俺だ! 俺は殺すと判断した!」


「おい、ガシュムド! オマエは、あくまでダンジョン探索のリーダーだ。これはビジネスの話しだ。ビジネスの仕切りは、俺がやる! 文句があるなら、ボスに言え!」


「……好きにしろ」


 ガシュムドと呼ばれた戦士風の大男が片手を上げた。

 戦闘態勢が解かれた。


 だが、殺気はこちらに向けられたままだ。

 油断は出来ない。


 ケインがこちらに1人で歩いて来る。

 定食屋に向かうような気楽な足取りだ。


「よーう、大先生! 前に話したろ? ニューヨークファミリーに入れってな」


 俺はコルセアの剣も鞘に納めながら、近づいて来るケインに返事をした。


「それは、前に断ったろ?」


 ケインは、俺の側に立つとポケットに手を突っ込み、ニヤニヤ笑った。


「なーんだよ。この前、殴った事を怒ってんのか? 悪かったよ!」


 とりあえず、コイツが話している間は安全だ。

 俺はいきなり逃走せずに、まずケインに喋らせる事にした。


「なんで俺にこだわるんだ。俺は12才のガキだよ」


 ケインは、馴れ馴れしく肩を組んで来た。

 耳元で小声で話し出す。


「あー、いいんだよ。俺たち転生者は、外見と中身の年齢が釣り合わねえ。オメエだって中身はイイ年なんだろ? そうじゃなきゃ、カワイイ女の子2人連れのハーレムパーティーなんて作らねえだろ? ウヒヒ~、もう、やったのか?」


 こっちの年齢では、俺はまだ12才なんだがな。

 ハーレムパーティーとか言われても困るんだが。


「……まだだ。女が狙いなのか?」


「そうじゃねえよ。オマエが気に入ってるのさ。新ルートを見つけたり、俺を喋りでだまして見せたり、なかなか良いぜオマエ!」


「……そいつは、どうも」


「なあ、ニューヨークファミリーに入れ。そうすりゃ、このボス部屋にも入れるぞ?」


 ボス部屋に入れる?

 俺はケインの言っている意味が、わからなかった。


「それは……、どう言う意味だ? ボス部屋には、誰でも入れるだろ?」


 ケインは、ニヤリと笑って答えた。


「いや! 今からこのボス部屋は、ニューヨークファミリーのモンだ」


「何?」


「このボス部屋は、ニューヨークファミリーが所有する。許可なく、冒険者は立ち入れないのさ」


「そんな滅茶苦茶な理屈が……」


「通るんだな~、これが! いいか? これからファミリーの援軍が、続々到着する。俺達の後ろ盾になっている、侯爵家のウォール様もやって来る。滅茶苦茶だろうと、無理難題だろうと、俺達は何でも通すぜ!」


 ケインから、おどけた表情は消えた。

 悪党の威圧する顔に変わっている。


「……今日は、帰りますよ」


「そうか。いいだろう。だが、ファミリーには入れ」


「考えときます」


 俺達は、慎重に、隙を見せずに、ボス部屋から後退した。

 ボス部屋が見えなくなると、俺がセレーネをおぶって【神速】、サクラは【飛行】、高速移動で5階層を戻った。


 転移部屋から地上に戻ると、すぐにギルドへ向かい状況報告をした。


 続けて、領主館にいるエリス姫に報告へ向かった。

 確か……ウォールと言うのは、エリス姫の対抗馬だった気がする。

 エリス姫にも話しておいた方が良い。


 エリス姫と面会の約束はなかった。

 だが、顔見知りの騎士に『侯爵家のウォールが来そうだ』と話すと、すぐに取り次いでくれた。


 立派な応接室でソファに座り、俺、セレーネ、サクラの3人でエリス姫を待つ。

 30分程待たされたが、エリス姫が執事セバスチャンとやって来た。


「待たせてすまんの」


 現れたエリス姫は、12才とは思えないほど疲れて見えた。

 これからまた厄介事を俺から聞かされるのかと思うと、とても気の毒だ。


「お忙しいところ、お時間ありがとうございます」


「うむ。本当に忙しくての。だが、一定の目途が付いて来たし、王都から文官を呼び寄せておるでの。また、ヒロトたちと一緒に、ダンジョンに行けそうじゃ」


「それは、何よりです」


 エリス姫は嬉しそうに話した。

 同年代の俺たちと、ダンジョンに潜るのが楽しみらしい。


 エリス姫は続ける。


「ヒロトの幼馴染の件とセレーネのお父上の件も、調査する様に指示を出した。まだ時間が掛かりそうだが約束は守る。安心せい」


「ありがとうございます」

「ありがとうございま~す」


「して、今日はウォールの事で、話があると聞いたが?」


 エリス姫の声のトーンが下がった。

 表情も厳しい。


「はい。先ほど5階層で起きた事ですが……」


 俺たちは、ニューヨークファミリーのケインが、5階層ボス部屋をファミリーで所有すると言った事や、王都から援軍が来る事、侯爵家のウォールと言う人物が来る事を伝えた。


 エリス姫は、深くため息をついた。

 姫の隣に立つ執事セバスチャンも、沈鬱な表情をしている。

 2人とも一向に話さないので、俺から質問をしてみた。


「あの……、ウォールと言う人物が、エリス姫と王位継承を争っているのですよね?」


 エリス姫が、ハッとしてこちらを向いた。

 どうやらエリス姫は、考え事をしていたらしい。


「そうじゃ。アビン侯爵家の長男ウォール・オーランド・アビンじゃ」


 エリス姫が、そんなに考え込む程の手強い人物なのだろうか?

 ひょっとして、ウォールは強烈な対抗馬なのか?


「その競争相手の、侯爵家のウォールは、何か実績があるのですか?」


「対人の実績が豊富じゃな。盗賊狩りや他国の戦争にも参陣して、成果を出しておる」


「他国の戦争って……。それ、外交問題にならないのですか? 貴族が……、それも侯爵家の長男が、他所の国の戦争に首突っ込んだらまずいですよね?」


 エリス姫は、再び深くため息をついた。

 手を振って執事のセバスチャンに話すように促した。

 エリス姫に代わって、セバスチャンが話し出した。


「ウォール・オーランド・アビンは、冒険者ギルドを通して、傭兵の立場で他国の戦争に参加しました」


 それって良いの?

 いや、まずいよな。


 それでも、ウォールは傭兵で戦争に参加したんだ。

 俺は呆れてしまった。


「そんな、無茶苦茶な……」


「はい。性格的にもかなり無茶苦茶な男です。しかし、武勲は武勲として、ウォールを評価する声もあります」


「うーん」


 どうなんだろう?


 この世界は21世紀の日本とは違う。

 話し合いがダメなら武力で解決ってのは、国同士でも、冒険者同士でもある話だ。


 だから、王位継承争いにおいて、『対人の実績が豊富』で、『戦争で武勲がある』ウォール推しの人がいるのは、わからなくはない。


 だが、ウォールの参戦は、政治的な、外交的な配慮が欠けている。

 そんな人が王様になって、大丈夫なのだろうか?


 それに、ニューヨークファミリーを後見している。

 俺たちの王様になって欲しい人物では、なさそうだ。


「ウォールに弱点は、無いのですか?」


「ダンジョン探索や魔物討伐の実績はゼロです」


 つながったな。

 ニューヨークファミリーのケビンが、ボス部屋を私物化すると言った。

 あそこを通らなきゃ、下の階層へは進めない。


「それで、ボス部屋の私物化ですか……。ウォールにダンジョンでも、手柄を立てさせるつもりですね」


「おそらく。ただ、時間的に見て現場の独断でしょう」


「と言うと?」


「新ルートの件は、おそらく今日王都に伝わります。ウォールは、王都にいますし、ニューヨークファミリーの本部も王都にあります」


 この世界では通信手段が発達していない。

 交通手段も馬車程度だ。


 日本のようにリアルタイムで状況を報告したり、指示を貰ったりする事は出来ない。

 ルドルのダンジョンで新ルートが発見された事を、ウォールやファミリーの本部が知るのは今日だ。


「そうか。彼らは上の指示で、動いている訳じゃないですね。あれ? じゃあ、援軍が来るとか、ウォールが来るとか、動きがあるのは、なぜですか?」


「これも予想ですが……。姫様の支配地域を削ろうと仕掛けて来たか、姫様が王都をお出になったので、後をつけさせたか、ではないかと」


「この前の夜襲は、明らかに、つけられてましたよね……」


 エリス姫が口を開いた。


「こちらも、増援するしかなかろう」

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