第752話 報酬5



 空中庭園で3日ほど過ごした後、バルトーラの街へ向けて出発。

 昼に出て、太陽が沈む手前くらいの時間帯に到着。


 途中で輝煉を元の大きさに戻し、全長100m超の竜種と共に帰還。

 もちろん小さくない騒ぎを起こしてしまったが、これは不可抗力。


 だが、これで俺が街に帰ってきたことが街中に知れ渡ったことになるだろう。


 ガレージに戻れば、案の定、1時間も経たないうちに白翼協商からのメッセージカードを携えたメッセンジャーが訪ねてくる。

 

 鐘割り騒動を解決した俺への報酬、及び、中央への切符が用意できたので、白翼協商の事務所まで来てほしいとの内容。


 幾つか候補日が書いてあり、俺は一番早い日程、明日の14時を選択。

 そのままメッセンジャーに返答用紙を渡して、俺の返事を伝えてもらう。


 

 

 次の日、13時を過ぎてから、白兎だけを連れて白翼協商へと向かう。

 同行者を白兎だけにしたのは、下手に悪目立ちするのを防ぐため。


 以前、白翼協商の事務所で白ウサギの騎士と身バレし騒がれ、

 皆から喝采を浴びまくった。


 注目されることが苦手な俺からすれば、不愉快極まりないアクシデント。

 二度とあのようなことが起きないよう、同行者を白兎のみに絞ったのだ。


 俺の傍にストロングタイプがいなければ、『白ウサギの騎士』とは気づかれまい。

 最近、機械種ラビットだけを連れている狩人が増えているから尚更。


 もちろん連れている従属機械種が機械種ラビットだけと見て、絡んでくる不逞の輩が出る可能性も無くはない。

 だが、その時はその時で少しばかり脅かしてやれば良いだけ。


 まあ、今の時間帯だと、白翼協商の事務所にもあまり人はいないだろうから、杞憂なのかもしれないが。




「これが白翼協商、バルトーラ支店での最後の用事かな?」


 フルフル

『この街から出る時ぐらいは挨拶しに行くでしょ。その時は皆で盛大に送り出してくれるんじゃない?』


「それが嫌だから、最後なんだよ。ガミンさんやミエリさんだけならいいけど、他の奴等は関係ないだろ」


 パタパタ

『同じ白翼協商の所属なのにねえ………」


「結局、ガミンさんやミエリさん、アルスとハザン以外、知り合いって呼べる人はできなかったからなあ」



 むしろ、白翼協商以外の狩人と仲良くなっている気がする。

 

 ボノフさんや白露を筆頭に、孤児院組のバッツ君やマリーさん、ルーク。

 連花会のアスリン、ニル、ドローシア、それにマダム・ロータス。

 鉄杭団のガイ、パルティアさん、パルミルちゃん。

 そして、征海連合のレオンハルト。


 顔と名前が一致するのは、今挙げた人達くらい……は少し言い過ぎか。

 でも、仲良くなれたと思う人は本当に少ない。

 機械種を含めれば、教官やラズリーさんが追加される程度。


 後は精々、お世話になったルガードさん………、ああ、この人は白翼協商所属だったな。もうこの街にはいないけど。




 ピコピコ

『そう言えば、白翼協商を一番最初に訪れた時も、僕とマスターだけだったね』


「…………ああ、そうだったな。あの時は森羅と秘彗をボノフさんに預けていたから………」



 バルトーラの街を訪れて、最初に訪ねたのはボノフさんのお店。

 ブルソー村長の紹介状のおかげで話はスムーズに展開。

 その場で秘彗への防冠処置、森羅への竜麟追加を引き受けてもらい、

 白翼協商への紹介状まで頂くことができた。


 そのまま森羅、秘彗をボノフさんのお店に預け、

 その足で白兎のみを連れて白翼協商の事務所を訪問した。


 

 図らずも今と同じ状況。

 秤屋での最初と最後の仕事を俺と白兎のコンビで担当。


 そう考えると、コレもナニカの縁を感じてしまう。


 俺と白兎で、このバルトーラの街での新人狩人生活を始めて、

 俺と白兎で、バルトーラの街での新人狩人生活の卒業を迎えるのだ。







「ヒロさん、こちらへどうぞ」



 白翼協商の事務所へと到着。

 受付に声をかけるまでも無く、ミエリさんがロビーで待ち構えてくれており、すぐさま応接間へと通される。



「おお、ヒロ。外に出てたらしいじゃないか。また未踏破区域の巣を攻略してくれたのか?」



 応接間に入るなり、ソファに腰かけるガミンさんから揶揄い交じりの声が飛ぶ。



「それも考えたんですけどね~~、でも、俺が全部やり切っちゃうのも違う気がしたので、今回は控えました………って、申請もせず、勝手に巣の攻略に向かうのはルール違反でしょ」


「ガハハハ! 俺の予想を覆しまくるヒロならやりかねないって思ってな!」


「俺だって、この街に来た当初の予定はダダ狂いですよ。もっと地に足を着けた堅実な狩人を目指していたんですけどね」


「お前が? 堅実? ……………ガハハハハハハハハハッ!! それは笑わせてくれる! ガハハハハハハハッ! お前は最後の最後で俺を笑い殺す気かよ! ガハハハハハハハッ!」



 俺の返しにガミンさんは大笑い。

 そこにこの秤屋の支店長という威厳は無く、

 居酒屋で騒ぐ中年男性そのままの言動。


 うだつの上がらない先輩狩人だと思っていた時も、支店長だと分かった後も、俺の態度は変えていないし、ガミンさんの態度も変わらない。


 きっとそれは何年経っても変わらないだろうし、

 俺が中央で名を挙げてもガミンさんはずっと今みたいな応対をしてくれるに違いない。

 


 俺がバルトーラの街に来て、踏破した未踏破区域の巣は2つ。


 俺も中央に行く前に、残る未踏破区域の巣5つを全て攻略してやろうか、と一瞬思ったりもした。

 しかし、詳しく調べてみると、残る巣5つは、先に攻略した2つの巣よりも格が劣っており、しかも巣の主は重量級以上の紅姫。


 これでは攻略意欲も湧かず、結局、足を向けることもなかった。


 今更重量級の紅姫を狙う意味も無い。

 宝箱狙いも考えたが、格が落ちるとなればお宝の質も下がるのが道理。


 その為にわざわざ時間を割くのも面倒臭い。

 これから中央に向かうというのに、余計な所に手を突っ込む暇なんて無い。


 今の俺の目はすでに中央を向いているのだ。

 この辺境、バルトーラの街が抱える未踏破区域の巣は、街に残るアルス達に任せれば良い。





「えっと………、俺への報酬の用意が出来たんですよね? あと、中央への切符も?」


「ああ、そうだ。随分と待たせてしまって悪かったな」


「いえ、まだこの街でやることが残っていましたので」



 軽い雑談の後、本題に入る。

 応接間には俺と白兎、ガミンさんとミエリさんだけ。


 人数を絞っているのは、俺に配慮してくれているからであろう。

 本来、狩人への特別な報酬の授与は、もっと大人数、場合によってはセレモニーとして公開されることも多い。


 勲章の授与式や贈呈式みたいなモノ。

 無駄に偉いさんばかり集まって、ひたすら長い訓辞を垂れ流すアレだ。


 こんな異世界まで来て、そんな形だけの行事に巻き込まれるなんて真っ平御免。

 俺の意を汲んで、最低限の人数に絞ってくれたガミンさんやミエリさんには感謝しかない。



「ヒロ。まずはマテリアルを先に渡そう」



 ガミンさんが1枚のマテリアルカードを何気なく取り出す。

 

 それは一部の高額取引で使用される、セキュリティー機能内蔵型のマテリアルカード。


 色は銀。

 大きさは通常のモノと変わらないが、カードの表面に描かれた小さな円部分に指紋認証機能が備わっており、また、表面層を一部捲れば、暗証番号を打ち込む極小ボタンが現れる。

 

 俺も遠目でしか見たことが無い。

 高額取引において利用されることがある希少品。

 実用品というよりは、儀礼的な意味を持つモノ。


 過去、未来視において、2億Mの報酬を受け取ったことがあったが、

 アレは通常のマテリアルカード複数枚に分けて収納されていた。


 こんな辺境でまず見られる品ではないのだ。

 そんな希少品まで準備してくれたのは、白翼協商の精一杯の感謝の気持ちなのかもしれない。



「お前の親指をこっちに当てながら………、このボタンを押してだな………」



 ガミンさん自ら、セキュリティー機能内蔵型のマテリアルカードの所有権移転が行われ、


 マテリアルカードに収納された額を見てビックリ。



「2億5千万M…………」



 日本円にして約250億円。

 小さな街の予算に匹敵するような額。


 以前、未来視の白月さんルートにて、バルドルの緋石を秤屋に卸した時以上の額。


 しかし、あれは緋石を引き渡したことの対価なのだ。

 こちらは、鐘割りのテロを収束させた俺の手柄に対する報酬。


 額は同じでも意味合いが全く異なる。


 この街の領主が、秤屋が、この街全体が、

 純粋に身銭を切って絞り出してきたマテリアルなのだから。



「よろしいんですか?」


「よろしいも何も街全体で決めた結果だ。お前が気にすることじゃない」


「では、遠慮なく受け取らせていただきます」



 現在の俺の手持ちは9千万M少し。

 幾ばくかを森羅と胡狛に預け、中央に向けての準備、物資の購入や補給品の補充を行わせている為。


 今回報酬として貰ったマテリアルを合わせれば、3億4千万Mという途方もない資産が俺の手元にあることになる。


 だが、一般人なら目ん玉が飛び出しそうな額ではあるが、中央で活躍する狩人として見ると小金持ち程度に落ち着くのがこの業界の恐ろしい所。


 超一流となれば、短期間でこの数倍を稼ぐという。

 まあ、俺の場合、コストがほとんどかかっていないから、

 利益率ならば誰にも負けないと思うけど。 

 



「次に、ヒロが欲しがっていた翠膜液だ。5本あるぞ」


「ええ! 5本! 本当ですか!」


「これについては、各秤屋が協力してくれた。うちで1本、征海連合が2本、鉄杭団が1本、連花会が1本。ホレ、受け取れ」


「うわあ………、本当だ。まさかこの辺境でこれだけの数が集まるなんて………、これでアイツ等を強くしてやれる!」



 ガミンさんから箱に入った小瓶を渡され、

 中身を確認して狂喜する俺。



 2億5千万Mという大金も嬉しかったが、仲間達を強くしてあげられる成長アイテムは何よりも嬉しい。


 仲間が強くなれば、俺の安全度が増し、俺も楽ができるようになる。

 そして、さらに稼ぎが増えて資金が貯まり、その資金を元に仲間を強化。


 まさに成金スパイラル。

 もう勝ち確定路線まっしぐら。



 翠膜液が5本となると、真っ先に晶石合成を行っておきたいのは浮楽と天琉。

 

 ちょうど魔人型、機械種カーミラの紅石が手に入っており、

 また、天琉が倒した機械種セラフの晶石もある。


 浮楽と天琉、この2機は中央に行ったとしても、できるだけその存在を隠したい。

 だから、この街にいる間にボノフさんにお願いしておきたいのだ。


 中央でボノフさん並みに信用できる藍染屋に出会えるかどうか分からない。

 ストロングタイプならまだしも、上位天使となった天琉と、元中央の賞金首の浮楽は劇物過ぎる。


 特に浮楽はその正体を知られたら大問題。

 天琉と違い、外に出すことすら憚られる機種。


 『死へと誘う道化師』の悪名は、中央全土に響き渡っており、

 もし、俺の従属機械種であると見抜かれでもしたら、その被害者達が列をなして襲撃してくる可能性だってある。


 中央において、極力、その存在を知られるわけにはいかないのだ。

 完全に信用できる相手以外には。


 だから、この街にいる間に翠膜液を5本も得られたのは幸い。

 俺の懸念事項が一つ減って一安心。



 ほっと、俺が心の中で安堵していると、

 ガミンさんが少し申し訳なさそうな顔を向けて来て口を開く。

 


「ヒロ、一応言っておくが、実は集まった翠膜液は6本でな。お前には悪いが、うち、1本はアルスに渡すことになった。すまんな、お前の分が1本減ってしまって………」


「はい? …………ああ、アルスへの報酬ですね。アイツもストロングタイプを従属させていましたもんね。いいですよ、1本くらい………」



 ガミンさんの謝罪は、俺の取り分を減らしてしまったことについて。

 だが、そのくらいで機嫌を悪くするような俺では無い。


 逆にアルスは忍者系と守護騎士系、ストロングタイプを2機を従属させているのだから、翠膜液も2本いるはずのに1本だけで大丈夫なのかが心配。


 さて、アルスは忍者系のパラセレネ、守護騎士系ストラグルのどちらをダブルにするつもりなのか?

 そして、何の職業を追加するのかも気になる所。


 他人の従属機械種の話だが、ゲーマーとして興味を引かれる話でもある。

 しかし、アルスがあの2機を従属させたのはつい最近。

 ダブルになるには経験値が足りていないように思えるのだけど。


 まあ、それはともかく。



「同じ白翼協商の狩人だし、巣やダンジョンでは同じ釜の飯を食った仲間です。翠膜液については、俺の方はこの5本で十分ですから、次はアルスの方に回してやってください」



 俺がその旨を伝えると、ガミンさんは驚いたように一瞬目を見開き、

 俺の発言の真意を探るような様子でこちらを見つめ………

 しばらくして、クシャッと相好を崩し、大声で笑い始めた。



「ガハハハッ! 本当にヒロはお人よしだな。そんな甘っちょろさで中央でやっていけるのか、心配になって来るぞ! ガハハハハハッ!」


「ご心配なく。甘い顔を見せるのは身内だけです。敵には容赦しません」


「………まあ、そうだな。今回の『鐘割り』の件でも、それは良く分かった。だが、中央を甘く見るなよ。敵はレッドオーダーだけじゃないことを忘れるな」



 そう言いながら、ニヤリと男臭い笑みを浮かべ、こちらへと試すような視線を向けてくるガミンさん。



「もちろんです。街中だと場所によっては大半の従属機械種が役に立ちませんからね。その辺りは俺も弁えているつもりです」



 対して俺も覚悟を示すように真っ直ぐ見返しながら宣言。

 


 どれだけ従属機械種が強くとも、白の恩寵下ではその力を十分に発揮できない。

 そして、白の恩寵に縛られない人間の悪党どもが俺を狙うとすれば間違いなく街中となる。


 狩りの最中は神経を尖らせて、街の中でも警戒を緩められない。

 狩人は稼ぐ額が莫大なだけに、良からぬ人間に目を付けられやすいのだ。


 

 中央に行けば、街の中こそ最も危険な場所であり、

 街の外では頼りになるはずの従属機械種が場所によっては無力になる………



 まあ、俺には白の恩寵下でも人間相手にドンパチできる加害スキル持ちを3機揃えているんだけど……… 

 


 もちろん、そんなことはガミンさんは知らないから、俺に気をつけろ、と警告してくれたのだ。

 だから、俺は自信を持って大丈夫だということを態度で示す。

 



 しばらく互いに目線を交わし合い、


 そして、フッとガミンさんから視線を和らげて、

 ガハハハと笑いながら、話題を元へと戻す。



「ガハハハッ! ヒロなら、大丈夫そうだな。さて、次の品だが………」


「まだあるんですか?」


「そりゃあ、街1つを救った対価だからなあ………、それに、街の連中からすれば、ほとんど外部と交流を持たないお前との唯一の接点だ。力が入って当然だろう。ちなみにコレは街の領主からだ…………、と言っても没収品だがな」


「没収品?」



 俺が聞き返すと、ガミンさんは黙って写真を1枚提示。

 そこには新幹線のような流線型のフォルムをした車両が1台映っていた。


 全長20m、幅5m、高さ4m。

 大きさ的に車と言うよりは巨大な装甲車であろう。


 だが、車にしては下部にタイヤが付いておらず、

 フロントも含めた窓が一切無いという奇抜なデザイン。

 まるでロケットや飛行機のフロント部分とでも言うような外観。

 

 

「…………これはVIP送迎車両?」



 未来視で得た薄れつつある中央の情報。

 その中で街の領主や秤屋の大幹部が街から街への移動の際に使用する交通手段。



 俺の答えに、ガミンさんは少しばかり驚いた顔を見せ、

 


「そうだ。中央でもなかなかに珍しい品だぞ………っというか、ヒロ、良く知っていたな? こんな金持ちの贅沢品」


「………ええ、まあ」



 ガミンさんへと曖昧に答えながら、俺はじっとその写真を見つめる。


 VIP送迎車両についての知識は未来視からのモノだが、つい最近も何処かで見かけたような気がしてくる、

 どうしても脳裏に浮かぶ既視感を頼りに、自身の過去の記憶を浚っていくと……



 すると、浮かび上がるのは、つい2週間ほど前に、この街の入口ですれ違った車両の姿。


 目の前の写真と完全に一致。

 こんな辺境に超高級車両、それも全く同じ仕様の車両が2台揃う確率はゼロに等しい。


 当時は領主の戦勝パーティーに呼ばれた人達の送迎かと思ったが………



「ガミンさん、さっき、没収品とか言いましたよね?」


「ああ………、言った。ソイツはな、今回、街でテロを起こした『鐘割り』の幹部達が乗っていた車両だ」


「ええ!? まさか………」


「まあ、俺も、まさか、VIP車両で堂々と街に乗り込んで来たとは思わなかったがな」



 ガミンさんがそう呟くも、俺の『まさか』とは意味が異なる。


 俺の『まさか』は、あの時、あの場所で敵の首魁、スケアクロウ達とニアミスしていたかもしれないこと。

 

 もちろん、あの状況下で気づくはずも無い。

 だが、もし、あの時にあの車両を力づくで止めていれば、今回の街の被害は最小限に抑えられたかもしれない、と思ってしまう。


 しかし、状況的に考えて、あの時にその選択が浮かぶはずも無いのは明らか。


 向こうから仕掛けられたわけでも無く、『謎の違和感』も発生しなかった。

 唯一、白兎が『誰かに見られている』と発言した程度。

 

 たったそれだけの証拠で、上流階級の人間が乗るかもしれない車両を留めるのは英断を通り越して単なる蛮行だ。


 すぐに考えを改め直し、どうしようもなかったと心の中で自分に言い聞かせるしかない。



 

 ガミンさんに詳しく事情を聞くと、

 このVIP送迎車両は、タウール商会の倉庫に保管されていたらしい。

 今回のタウール商会への一斉捜索で発見され、領主側で接収。


 そして、俺への報酬の話になった際、領主側からこの車両を下げ渡してはどうか、という話になったそうだ。



「おかしな仕掛けは無いはずだ。その辺は念入りに調べているだろうからな。だが、鐘割りが使っていた車両となると扱いが難しい。ぶっちゃけると、領主側が処分に困ったわけだな。で、どうせなら、ヒロへの報酬に使ってしまえ、と」


「ぶっちゃけすぎますね。ガミンさん」


「それでも、車両自体は超高級品だぞ。それこそ大都市の市長が乗るような、だ。マテリアルだけで手に入るモノじゃないだろうな。中央の超一流狩人でもコイツを持っている奴はほとんどいないだろうさ」


「う~ん………、そう言われると、コレクター魂が疼きますねえ」


「要らないなら要らないで構わないぞ。気に入らなかったとして、代わりのモノを要求すれば良い」


「…………………貰っておきます。ガミンさんも言っていたように、手に入れる機会は滅多に無いでしょうから」




 馬力、走破性は破格。

 何せマテリアル重力器で浮遊しながら進むホバーカーなのだ。


 さらに今まで移動に使用して来た車両とは比べ物にならない快適性。

 リビングルームや寝室、お風呂まで付いている潜水艇と比べても同様。


 電車一両程度の大きさだが、中は空間拡張機能により、屋敷1つ分の広さが確保できるという。

 

 最近、メンバーが増えたこともあって、重量級の輝煉を除いても、潜水艇のリビングルームに全員入り切らない。

 これからの活動が野外ということになると、どうしても生活の拠点となる場が欲しくなる。


 いくら周りから見えなくしても、空中庭園を毎回出すのは大変だし、巣の中やダンジョンでは不可能。


 まあ、ロキが創界制御で作り出した異空間内で展開する方法もあるけれど。


 ただ、ロキに言わせると、空中庭園自体が一つの世界を作り上げており、

 創界制御で作り出した異空間に近い仕様となっているらしい。


 異空間の中に異空間を入れると、双方が干渉し合って不安定になるから出来るだけ避けた方が良いとのこと。

 そういった事情から、このVIP車両は手に入れておいた方が良いと判断。

 その有用性もそうだが、市場価値も考えると、ここでこの機を逃がす手は無い。



 俺は目の前に置かれた写真を見ながら、頭の中でこのVIP車両の価値を計算。

 そして、弾き出した金額をガミンさんへと確認。



「売りに出されたら1億M以上でしょうね。領主とすれば、厄介払いができた上に顔が立つって、とこでしょうか?」


「あと、確率的に高くはないが、『鐘割り』が取り戻しにくる可能性を排除、だな」


「ああ、なるほど。そういった可能性もありますか」


 

 ガミンさんの言葉を聞いて納得。


 この街の領主が『鐘割り』から接収したVIP車両を乗り回していたなら、その可能性は否定できない。

 厄ネタだから早めに手放したいと言う気持ちもわかる。


 逆に俺ならば、何をどうしようがどの道、恨みを買っている状態。

 バルトーラの街のテロを封殺した白ウサギの騎士の名はすでに『鐘割り』達も掴んでいるだろうから。



「ヒロがそのまま使うつもりなら、外装は変えた方が良いだろうな」


「そうします。敵に居場所を知らせるみたいなものですし………」



 その辺は胡狛にブン投げよう。

 きっとセンスの良いように改造してくれるに違いない。




 その後もガミンさんから報酬の提示が続く。



 蓮花会からは発掘品の防具『淑女の手袋』。


 形状は結婚式で花嫁が付けるようなレース編みのウエディンググローブ(左手のみ)。

 女性しか身に着けることができないという制限があり、その代わり女性型の機械種も装備出来る仕様。

 強力な結界制御が組み込まれており、左手を中心に小規模結界を発生。

 見えない盾のように銃弾を打ち消し、斬撃を受け止め、攻性マテリアル術を防ぐ効果を持つ。

 また、装備しているだけで『赤の威令』や『蒼石』『妨害術』『感応術』に対する抵抗力も上げてくれるという性能。


 発掘品としては上級防具に位置する。

 マダム・ロータスからは、紅姫を押し留めてくれた秘彗、その紅姫にトドメを刺した虎芽、救援に駆けつけてくれた辰沙、躯蛇の頭領を倒した刃兼、その内の誰かに渡してあげてくれという伝言付き。

 


 


 鉄杭団からは『蒼破弾(上級)』1つと『パワーリング(上級)』。


 『蒼破弾』は蒼石を組み合わせた対レッドオーダー用の決戦兵器。

 あらゆる防御手段を無視して、一定の範囲内にダメージと衝撃を与えることのできる手榴弾に近い仕様。

 レッドオーダーに対する人類の切り札の一つでもある。

 

 上級ともなれば超重量級の神獣型にも効果があるレベル。

 流石に1発撃破とは言わないが、それでも敵の出鼻をくじき、しばらく一方的に攻撃を加えることができるくらいの隙を作ることが可能。


 これを巣の最奥、紅姫がいる部屋に放り込めば、それだけで天秤を大きく勝利に傾けることができる程。

 ただし、そのコストは莫大であり、複数の蒼石を組み合わせて作ることから、蒼銀弾よりも高額。

 

 『蒼破弾(上級)』なら1つ1000万M以上は固い。

 これで紅姫戦での勝率を高くできるなら、安いモノだろうけど。



 『パワーリング(上級)』は名前の通り、装着することで機械種のパワーを増強できる発掘品。

 等級によって増強率が異なり、上級ともなると2割増しくらいの効果があると言われている。

 

 類似品で『スピードリング』や『タフネスリング』『マテリアルリング』等もあるが、大抵中央で買い占められていて、辺境にはほとんど出回ることの無い一品。

 残念ながら『~リング』系は機械種1機につき1つしか装備できない仕様。

 

 中央に行ったらぜひ人数分揃えたいと思っている品でもある。

 だが、中級品ですら、300万Mを切ることが無い高額商品。

 上級品ともなるとその3倍ぐらいするのではないだろうか。

 

 



 征海連合からは『蒼石準1級』が1つ。

 まさかの、俺が喉から手が欲しいと思っていた高位蒼石。

 蒼石は準2級からその価格が爆上がりしており、準1級ともなれば、市場価格は約3000万M以上。


 通常の手段では手に入れることすら不可能。

 ダンジョンの下層を巡って根気よく宝箱を開けていくか、

 紅姫以上を討伐して、そのドロップ品を期待するしかない。

 

 中位蒼石までなら人間の手で作り出せるそうだが、高位蒼石ともなると、その作成難易度は至難。

 準1級ともなれば不可能と断言できてしまうレベル。

 

 現在、俺の手には準1級蒼石は1個しかなく、それもブルーオーダー予定の機械種エルダードラゴンロードに使用する予定。

 

 こんな貴重な品を用意してくれるなんて、征海連合も太っ腹。

 おそらく前回俺の対応に失敗したペネンとレオンハルトが配慮してくれたに違いない。


 

 

 そして、白翼協商からは………



「ヒロ、受け取れ」


「はい…………、翠石が……3つ? これは?」


「家事スキルだ。1つが最上級、2つが上級だな」


「え!? 家事スキルの………最上級!」


「ハハハハ、苦労したぞ、ソレ。中央でも金持ちには大人気だからな」



 苦笑交じりのガミンさんの言葉。

 隣のミエリさんもほんの僅かに苦笑い。


 それはそうだろう。

 通常、内政スキルよりも戦闘スキルの方が高いが、家事スキルはその例外。

 求める者が多いことからその価値は高騰しており、上級で最低100万M、

 最上級ともなれば1000万~2000万Mと上級の10倍以上。


 従属させているメイド型に等級の高い家事スキルを入れることが、金持ちのステータスになってしまっているのだ。


 マテリアルを出せば手に入れられるモノでは無く、

 常人なら入手する機会すらないような品。 


 家事全般が超得意になることから、その有用さは間違いないが、実用性に比べて市場価値の乖離が激しいスキルだとも言える。


 しかしながら、拠点が大きくなれば大きくなる程、家事スキルは必要となり、

 チームの活動を裏から支える要員として家事スキル等級の向上は必須となる。


 俺もいずれ手に入れたいと思っていたのだ。

 ラズリーさんに助言してもらったこともあるが、やはりあの広い空中庭園を維持しようとなると、メイドの数を増やすか、スキルを上げるしかなかった。


 俺の従属容量の関係からこれ以上メイドを増やすのが難しい。

 だからこそ、今回、家事スキルの最上級と上級を入手できたのは正に渡りに船と言える。


 

「ありがとうございます! これでメイド達の家事の腕も上がります!」


「ガハハハハッ! そりゃあ良かった。苦労して取り寄せた甲斐があったもんだ!」



 俺の謝意に、ガミンさんは大笑いで喜び、

 また、隣に座るミエリさんもニッコリと微笑みながら口を開く。



「ヒロさんのおかげでこの街が救われたのですから。このくらいはさせてもらわないと私達も顔が立ちません」


「いえいえ、こちらこそ、この半年間、色々と助けていただきましたから……」



 この世界の人間、特に狩人なら胸を張って当然とばかりに受け取るであろうが、

 日本人的感覚が抜けない俺は、どうしてもこのような場合には謙虚に対応してしまう。


 だけれども、コレが俺なのだ。


 英雄のように堂々たる態度もできず、

 勇者のように皆に勇気を示すこともできない。


 ただ、与えられた『闘神』スキルと『仙術』スキルを頼りに、

 自分のできる範囲内で、困っている人を助けてあげられるだけ。


 そして、受けた恩は必ず返す。



「今の俺があるのも、ガミンさんやミエリさんのおかげです。この半年間、ずっと俺を支えてくれて、また、今回、このような思っていた以上の報酬を用意していただき、本当に感謝しています」



 ソファから立ち上がって、改めてガミンさんとミエリさんに頭を下げる。

 足元の白兎も俺に倣い、後ろ脚で立ち上がり、耳をキュッと倒して頭をペコリ。


 そんな俺達の様子にガミンさんもミエリさんも微笑ましそうな表情を浮かべる。

 その反応はあくまで卒業を迎える新人狩人に向ける範囲を超えないモノ。


 街を救った救世主でも無く、

 稀代の英雄でも無く、

 ただの新人狩人のヒロとして見てくれていることが良く分かる。



 2人にとって、俺の存在は劇薬みたいなモノだっただろう。

 もたらす益は莫大、だが、近くに置くことでのリスクは特大。


 他の秤屋は街に流れる俺の表面的な評価しか捉えていない。

 それ故の大なり小なりの干渉なのだ。

 もし、俺の異常性に気づいたなら、もっと過激に身内へと取り込もうとするか、もしくは排除する方向に動いたかもしれない。

 

 だが、俺と身近で接しているガミンさんやミエリさんは、おそらく俺の異常性にある程度気づいた上で、今のような適度な距離を保ってくれているのだと思う。


 この街で俺がそれなりに平和に暮らせたのも、この2人の力添えに寄る所が大きい。

 幾ら感謝しても感謝し足りないくらいに。


 そして、そんな2人との別れはもう間近に迫っており………




「よし! ヒロ。これが最後だ。中央へのパスポートを今から渡すぞ」




 ガミンさんが声を張り上げる。

 ミエリさんがおもむろに金属製の箱を取り出し、中から1枚のカードを取り出す。


 白翼協商に所属した際に渡された狩人証明書とは異なるデザイン。

 中央で活躍できると太鼓判が押された狩人のみが手渡される認定書。



 思わず背筋をピンと張る俺。

 白兎も耳をピンと立てて首を引いて胸を張る。

 

 

 こうして、俺の卒業式が始まる。




『こぼれ話』

狩人の報酬はレッドオーダーの残骸や晶石を変換したマテリアルで支払われます。

幾ばくかの手数料を秤屋に抜かれますが、これが報酬の源泉になります。

抜かれる手数料は秤屋によって異なりますが、だいたい10%~20%。

狩人の中には手数料を抜かれるのが我慢できず、レッドオーダーの残骸や晶石をマテリアルに変換できるマテリアル精錬器『秤』を求めて探し回る者もいるようです。

しかし、見つかるのは変換効率の悪く軽量級までしか変換できない下級品以下ばかり。中級以上の『秤』が見つかったと言う話は聞きません。

果たして秤屋はどうやって『秤』を手に入れているのか?

明確な答えを知る者は非常に少ない、この世界の謎の1つだと言われています。

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