第751話 工場2



 玖雀と別れた俺は、空中庭園と連結した浮遊島へと足を踏み入れる。

 枝や葉を手で払いながら木々が生い茂る山道を進む。


 浮遊島の半分近くを丘陵地帯が占めるのだ

 山道を超えて行かねば丘の麓にある機械種生産工場まで辿り着けない。


 普通に歩けば15分少々の距離だが、ぐねぐねの曲がりくねった山道を進むとなると、思った以上に時間がかかる。

 

 力任せに木々をなぎ倒しながら進めばもっと早いだろうが、

 あいにく自分の庭を破壊するつもりなど俺には無い。


 また、機械種オウキリンに戻った輝煉に乗って、空を行けば一瞬なのだが、あいにく輝煉も白兎達と一緒に機械種生産工場にいるはず。


 元々、お城と工場を行ったり来たりする胡狛をその背に乗せていた関係。

 胡狛がランクアップしてもその送迎を続けてくれている様子。


 この辺りは胡狛の人徳……機械種徳とも言える。

 気位の高い輝煉を絆した胡狛の手腕に恐れ入る。


 クアドラプルになって、その腕にもさらに磨きがかかったであろう。

 胡伯が俺のチームに入ったのは13番目くらいなのに、その影響力はすでにチーム全体に及びつつある。

 もはや胡狛に対抗できるメンバーなんて、筆頭の白兎、次席のヨシツネ、豪魔、ベリアル、毘燭くらい。


 やはり機械種整備主担当というチーム内で特別な位置にいることが大きい。

 また、長く稼働していることからの社会経験も物を言っていそうな気がする。

 

 毘燭が胡狛を警戒する気持ちも分からないでもない。

 別に胡狛が権力を握って専横を働く、とかでは無く、マスターである俺を良いように操ろうとしているように見える所が、毘燭が問題視している点。


 これは胡狛の性格的な傾向。

 内政型であるが故に、目に見えた戦果を上げることができないことから、マスターへの進言で役に立とうする。

 また、俺も女の子に甘い所があるから、つい、深く考えずに受け入れてしまうことも多い。

 

 進言自体は悪いことでは無い。

 自分の得意分野で勝負しようとするのは当たり前。


 だが、戦場で身体を張っている戦闘班の面々からすると、一言文句を言いたくなるのも事実。

 胡狛の進言は内政型にとって有利になるモノが多く、チームのリソースが限られている以上、その分しわ寄せが戦闘班に来るのだから当然。

 

 この辺は古来から続く軍部と文官の確執であろう。

 永遠に決着のつかない議論でもある。



 

「おっと………、到着したか」


 

 アップダウンの激しい山道を潜り抜け、

 辿り着いたのが岩肌をくり抜き、その中に建立された神社。


 巨大な鳥居が俺を迎え入れるようにそびえ立ち、

 その奥には古めかしい造りの境内が存在。



「さて、作業は進んでいるかな?」



 初見ならば入るのを躊躇いそうな神秘的な雰囲気。

 しかし、すでに何回も足を運んでいるので、何の感慨も無く足を踏み入れることができる。


 境内を通り抜け、階段を昇って拝殿へと入り、

 通路を進んで一番奥の大扉の前に到着。


 大扉を開ける為に暗証番号を打ち込み、その上で網膜認証を行う。


 そして、扉が開けば、その奥に広がるのは、超重量級すら入庫できる巨大な機械種工房。

 元は、機械種を作り出す為の生産工場ではあるが、胡狛が手を加えて工房の一部を機械種の修理に特化した修理工場へと改装した。


 今、修理で入庫しているのは、以前、廻斗と浮楽が討伐した機械種エルダードラゴンロード。

 浮楽の空間攻撃によって首を断たれて大破した残骸。


 その全長25mを超える機体は超重量級用リフトに横たわっており、

 見た所、断たれたはずの首が接合、すでに修理が完了しているように見える。


 今にも動き出しそうな威圧感。

 未稼働状態であるはずなのに、自然と滲み出すドラゴンタイプ上位の風格。

 今にも動き出しそうな躍動感と存在感に溢れている。


 未だレッドオーダーだけあって、凶悪な雰囲気がそのまま残っており、一般人が見れば悲鳴をあげて逃げ出す者もいるだろう。

 

 それも当然と言えば当然。

 超重量級のドラゴンタイプが暴れ出せばこんな工場など数分も持たずに崩壊。

 白の恩寵さえなければ小さな街なら、半日もかからず更地にするほどの戦闘力を秘める。

 

 ただし、今、ここにいる面子にかかれば数分足らずで、

 再び大破させられるのは間違いないのではあるが………

 




「よお、白兎。どんな調子だ?」


 ピコピコ

『まあ、ぼちぼちってとこ。機械種エルダードラゴンロードの修理は完了して、今は発掘品の改造に取り掛かっている所だよ』


「マスター、ご足労をおかけしまして申し訳ありません」



 俺が声をかけると、白兎が耳を揺らし、

 胡狛が申し訳なさそうに頭を下げる。


 また、付き添いであるタキヤシャ、輝煉も軽く会釈を返して来る。


 そして、今回、白兎に連れて来られたロキは………



「陛下! ちょっと聞いてよお!!」


 

 俺の顔を見るなり、駆け寄って来て、



「このウサギ、酷いんだよ! 僕の腕を借りたいって言って連れて来たくせに!」



 俺の胸にしがみつきながら不満をぶちまける。



「この僕に! 鍛冶スキルを特級で持つ、この僕にだよ! ずっとあそこで丸太を回させるんだ! あまりに酷い仕打ちとは思わない?」



 そう言って、ロキが指差したのは、

 

 床から生えた丸太を組み合わせた謎の器具。


 所謂『奴隷が回してる謎の棒』であった。



「半日近くずっと、意味も無く、ただ丸太を回させるんだ! 少しでも休んだら、タッキーが黒砂で中身を削るって、脅すし! これはもう拷問だよ! あのウサギ、血も涙もない極悪人だよおおお!!」


「そりゃあ、白兎は機械種だから血も涙もあるわけないぞ」


「そんなの比喩に決まってるでしょ! もう! 真面目に聞いてよ!」



 俺の反応の薄さに、ロキは不満げ。

 よほど白兎に科された仕打ちを恨んでいる様子。



「分かった、分かった…………、で、白兎。あの丸太は一体何なんだ?」


 パタパタ

『特に意味があるものじゃ無いよ』


「まあ、そうだよなあ」



 白兎に尋ねれば、返ってきた答えは俺の予想通りのモノ。

 

 機械が発達しているこの世界で、人力風に丸太を回す意味がない。

 古代から中世くらいに、錨の巻き上げ機や、粉ひきの為の石臼等、近しい装置はあったらしいけど、当然、今の世なら全て自動機械で済む話。


 これは漫画やアニメのネタの一つ。

 奴隷や囚人を酷使していることを強調する舞台装置的な意味合いが強いモノ。


 即ち、丸太を回すことに意味は無くて………



 フルフル

『でも、ロキが丸太を回すのを見ることで、僕や胡狛が気分良く作業することができたんだ。結果的に効率が上がったんじゃないかな」


「白兎先輩! どういう意味だよ!」


 パタパタ

『生意気過ぎる後輩を、先輩風吹かせていびるのが楽しいってこと』


「ストレート過ぎる! 最低だよ! このウサギ!」


 フリフリ

『煩いなあ~、折角、途中から僕達の作業に混ぜてあげたのに。そんなに不満を言うなら、ロキ、もう一度丸太を回す?」


「いやだあああああ!! 自分達だけ楽しそうなモノを弄り回して、僕だけひたすら丸太を回すだけだなんて…………、何でそんな酷いことできるんだよおおおお!」


 

 白兎の脅迫めいた宣告にロキが絶叫。

 工房中にロキの魂からの叫び声が響き渡る。


 楽しいことが大好きなロキにとって、何の生産性もない丸太を回す仕事なんて、本人も言っていた通り、拷問以外の何物でもない。

 だが、それだけにロキへのお仕置きとしては効果抜群。


 どうやら白兎はロキの教育を本格的に始めたらしい。

 当時のベリアルと違い、割と直球でビシバシ教育してくれている様子。


 ロキよりもはっきりと白兎の方が強いということもあるだろう。

 世界終焉の引き金を引いた悪神も、世界を兎色に染め上げかねない混沌相手には分が悪いに違いない。




 パタパタッ!

『ホラッ! また丸太を回したくないなら、さっさと作業場に戻って!』


「うう………、クソォォ、覚えてろよぉ」



 白兎に尻を叩かれて、作業場に戻るロキ。

 恨み言を口にしながらも、今の所大人しく白兎の言うことは聞く様子。

 

 白兎や胡狛、ロキが向かう作業台には、発掘品が幾つか置かれているのが目に入る。

 


 機械種ストームジャイアントの宝箱から出て来た『雷の杖』と『突風の杖』。

 これはシンプルに電撃や衝撃波を放つだけの発掘品中級砲撃杖。


 機械種ティラノサウルスの宝箱から出て来た『爬鱗丸盾』と『暴牙刀』。

 盾の方はただひたすら頑丈で衝撃を緩和する機能の発掘品中級防具。

 刀の方は分類すれば短刀、こちらも頑丈で切れ味が鈍らないという機能の発掘品中級武器。


 どちらもダンジョンで手に入れながらも、メインとして使うには微妙過ぎて収納したままになっていた品物。

 特に『爬鱗丸盾』と『暴牙刀』は結構な重量があり、人間だと使いにくい仕様。

 機械種用としても機能がシンプル過ぎて物足りない感じ。


 故に今まで使うことなく死蔵。

 今回、胡狛に頼まれて処遇を任せることにした品々。



 また、台の上には、俺が白翼協商のデパートで衝動買いした『ウォーター・コントローラー』と『テンプラチャー・コントローラー』も。


 

 そして、今回の騒動で手に入れた発掘品。


 機械種ボトムウィッチの宝箱から出て来た『アクア・ハンマー』。


 『躯蛇』の頭領バーナムの両腕に装着されていた『可変金属製の機械義肢』。

 そして、そのサブウェポンであった『可変金属製のナイフ』。



 その他もろもろの発掘品が作業台に所せましと並ぶ。

 

 また、廻斗の『自動浮遊盾』や『自動浮遊射手』も一緒に置かれていた。

 おそらく胡狛に改造してもらう為に預けたのだろうけど………

  

 

 今回、胡狛が鍛冶師系の職業を追加したことで、鍛冶特性と鍛冶スキル最上級を手に入れた。

 また、新たに仲間となったロキにも鍛冶スキル特級が備わっており、胡狛とロキの2機が力を合わせることで発掘品の合成ができるようになったらしい。



「合成ねえ………、一体どれだけの効果があるのやら………」


「少しずつ検証を進めて行っています。まずは簡単なモノから始めて、その効果を確認してから本丸に取り掛かろうと思います」



 俺の何気ない呟きに胡狛が答える。


 今の胡狛は整備士姿。

 工房で作業中なのだから当たり前。

 

 多少の変化はあるものの、いつもの見慣れた姿に、いつもの落ち着いた口調。

 やはり胡狛は俺に説明をしている時が一番活き活きしているように思う。

 

 目に理知的な光を宿しつつ、俺にも分かりやすいように噛み砕きながら、これから行う作業工程について説明。

 

 

「目指すは一度マスターからご依頼を受けた毘燭さんの『天沼矛』の『杖』化ですね。毘燭さんは槍術スキルを入れて『槍』のままで使えるようになっていますが、やはり『杖』の形の方が『錬成制御』を使い易いでしょう。まさか毘燭さんが今更前衛を張るとは思えませんし」


「まあ、そうだな。毘燭にはやはり杖の方が似合うか………」



 どうしても『槍』の形だと、『天沼矛』が武器としてのリソースを食う為、その分、錬成制御の出力に制限がかかり精度が甘くなる。

 もし、『天沼矛』の『杖』化が成功すれば、今まで以上の『錬成制御』を発揮できるようになるだろう。


 

「一応、可変式を考えています。今後の毘燭さんの成長の方向性もありますから、『杖』『槍』のどちらにも切り替え可能なように仕上げるつもりです」


「それで頼む。手数は多い方が良いからな」



 毘燭への褒美は『天沼矛』の改造で良いだろう。


 普段は『杖』で錬成制御での援護や防御。

 もし、接敵するようなことがあれば『槍』に切り替えて戦うことができる。


 元々、僧杖がメイン武器だった毘燭なのだ。

 やはり杖が一番お似合いだと言える。


 

 しかし、手に入れた発掘品を色々と改造できるとなると、

 もっと他の発掘品も手を入れたくなってくるな。


 例えば………



「ふむ? そう言えば、玖雀に渡す予定の中型銃『火喰鳥キャワサリー』とかは改造や合成で強化しないのか? まあ、銃なら俺の『高潔なる獣』もあるけれどなあ………」


「申し訳ありません。『銃』についての改造は私やロキさんの鍛冶スキルからは少し外れているのです。鍛冶スキルの対象は近接武器、及び防具、その他日用品関連に留まります。決してできないわけではありませんが、高位の銃を扱うのは難易度が高いので、避けた方がよろしいでしょう。ちなみに、銃関連の発掘品の改造を専門に行うのは『銃工』のスキルになります」


「『銃工』? …………ああ、なるほど。専門スキルか。鍛冶スキルは総合スキルだから………」


 

 確か、『刀工』『剣匠』『鎧匠』という専門スキルもあったはず。

 もちろん『鍛冶』スキルがあれば十分に刀剣の類の改造も可能。


 だが、銃は扱いが難しい分、専門スキルがあった方が良いということだろう。


 まあ、今すぐ『高潔なる獣』の改造が必要な訳ではないから、別に構わないが………


 銃の腕が上がるような改造ができるなら、最優先で『銃工』スキルを探すのだけれど。


 しかし、『銃工』スキルと言っても、等級が高く無ければ意味がない。

 こんな辺境に高位スキルなんて売っていないだろうから、手に入れられるとすればやはり中央に入ってからであろう。




「胡狛。じゃあ『機械種メタトロンの剣』や『ブラッドソード』は?」


「形を変えるだけなら何とかなります。ですが、その意味は薄いでしょう。『天沼矛』もそうですが、超高位の発掘品になると、形状を弄るだけでも大変なんです。機能追加や変更はもちろん、合成も私とロキさんだけでは非常に難しいと言わざるを得ません。また発掘品のバイク『黒天狼』も同様です。下手に弄ると逆に性能を落としてしまう可能性があります」



 苦渋の表情で『非常に難しい』と口にする胡狛。

 俺の期待に応えられないことに対し、力不足を悔やむような様子が見て取れる。



 そんな胡狛の姿に、何か良いアドバイスはできないかと頭を絞る。

 

 その時、ふと頭に浮かんだのは胡狛が会得したばかりの『固有技』。



「そうだ、胡狛。『固有技 達成不可ミッション・イン能任務ポッシブル』を使ったらどうなんだ? あれなら成功確率を100%に出来るだろう?」


「それも一度は考えたのですが…………」



 ナイスアイデアを思いついた、とばかりに胡狛に申し出ると、

 どうやらそれもすでに検討済みであったらしい。



「『達成不可ミッション・イン能任務ポッシブル』は、あくまで取り掛かる一行動についての行為を100%成功させるだけです。時間にしたら30秒くらいが限界。発掘品の改造は長時間に渡り、その工程だけでも『分析』『分解』『補正』『融合』『組立』などの複数の行動に分かれます。作業途中で保留もできず、一気にやってしまわないといけませんから、その全てを成功率100%というわけにはいきません」


「そりゃあそうか。破格な能力だけに制限があって当然だな」



 ゲームのようにボタン一つで『改造完了!』というわけにはいかない。

 胡狛や白兎が自分の手で改造を行うのだから、時間がかかって当たり前。



「う~ん………、折角ナイスアイデア!と思ったのに……」


「もちろん一番難易度の高い箇所に使用することで成功率をグッと上げられますから、役に立つのは間違いありません。もっと私の腕が良くなり、鍛冶ができる仲間が増え、設備をもっと拡充していけば、いずれ解決できる問題だと思います………、でも、今は難しいとしか言えません。マスターのご期待に応えられず申し訳ありません………」

  

「いいよいいよ、気にするな。いつか成功させる自信ができたなら取り組んでくれたらいいさ」



 俺に対して頭を下げる胡狛。

 やや気落ちしたような雰囲気を醸し出す。

 

 俺はそんな胡狛を少しでも元気づけることができるようフォロー。


 職務に忠実に尽くそうとする部下。

 気遣いを見せる上司といったやり取り。


 だが、そんな俺と胡狛の会話の中、



「ハハハハッ! 随分と情けないことを口にするねえ、胡狛せんぱ~い」



 あからさまに馬鹿にしたような口調の煽り文句が飛ぶ。

 その声の主はニヤニヤと含み笑いを見せるロキ。


 白兎にやり込められた直後とは思えない不遜な態度。

 目に悪戯心と嗜虐心を滲ませ、胡狛への挑発を続ける。



「僕は挑戦してみてもいいんじゃないかな~って思うね。僕と胡狛先輩、ソレに白兎先輩が力を合わしたら、いけるんじゃない?」


「……………可能性はあります。ですが、失敗したら取り返しがつきません。その辺りはどう考えるのですか? ロキさん」



 ムッとした様子で胡狛がジロリとロキを睨む。

 目に炎を灯し、技術者としての誇りを胸にロキへと対峙。

 先ほどまで落ち込んでいたような雰囲気から一転。

 鋭い口調で詰問。


 するとロキは何も考えていないような軽いリアクションで返す。



「そんなの失敗しなきゃいいでしょ。大丈夫だって!」


「何の根拠があってのことですか! もし、失敗したらマスターの財産が失われるのですよ!」


「ああ~、そういうことね。でも、別に失敗してもいいじゃん。また他の発掘品を見つければいいんだよ」


「な…………、貴方は!!」


「失敗した時のことよりも、成功して褒められた時のことを考えなよ。きっとその方が楽しいよ」


「!!!! そういう問題ではありません!」




 作業台を挟んで胡狛とロキの論争が続く。

 激しい口調の胡狛に、ヘラヘラと笑いながら反論するロキ。

 決して両者交わることの無い平行線であることは明らか。


 これは胡狛とロキの考え方の違い。


 おそらく超高位の発掘品の改造は、胡狛とロキ、白兎が力を合わせれば、十分に成功が見込めるくらいの難易度。


 しかし、常に失敗の可能性が残る為、万が一のことを考えて踏み切れないのが胡狛。


 少しくらいの失敗する可能性は無視しても良い、とするのがロキ。


 堅実な胡狛とギャンブラーなロキの分かりやすい比較と言える。


 俺的には、たとえ1%の失敗率でも、起こる時は起こると確信しているので、胡狛の意見を支持。


 もう二度と手に入らないアイテムなのだ。

 万が一ロストしたら数週間凹んだまま部屋に閉じこもる自信がある。


 今しなければならない理由が無いなら、後に回せば良い。

 いずれ胡狛がさらに成長して、失敗の確率を完全に排除してから取り組んでくれるのを期待しよう。




 俺の中で結論を出し、未だ言い争う胡狛とロキへと目を向ける。

 

 さて、何と言って2機の言い争いを止めようかと、考えていると、

 

 

「貴方さま…………」


「んん? タキヤシャか?」



 いつの間にか俺の横にタキヤシャの姿。

 俺の耳元へと囁くように声をかけてくる。


 いつもながら幻と共に消えていきそうな儚い雰囲気。

 色鮮やかな花魁衣装を纏いながらも、彼女の本質が陰であることが分かる。


 平安時代の復讐姫、滝夜叉姫を原典にしたレジェンドタイプ。

 文武両道、眉目秀麗、知と武をどちらも高水準で備えたバランス型。


 この工場には未だ危ういロキを抑える為の役目として同行。

 そんな彼女が俺に声をかけてくる用事と言えば……



「どうした?」


「止めますか?」



 用を聞けば、短く簡潔に答えてくるタキヤシャ。

 じっと俺の目を見つめつつ、少し首を傾げながら問うてくる。

  

 

「タキヤシャが止めてくれるのか?」



 ほとんど答えが分かりつつ確認。


 そりゃあ、皆が一目を置くタキヤシャが止めに入れば、

 胡狛もロキも一旦下がるだろう………



 だが、俺の予想とは裏腹に、タキヤシャの真意はやや斜め上。



「はい。ロキさんの動力部を。お任せいただければ10秒以内に」


「それはやめてやれ」


 

 それは機械種にとって心臓を止めることと同義。

 ロキの機体に黒砂を仕込んでいるタキヤシャであれば可能である行為。


 どうやらタキヤシャは未だロキを恨んでいるらしい。


 本当に執念深いな、タキヤシャは………

 俺も怒らせないように注意しよう。

 

 

 

 



 その後、俺が出した結論を伝えて胡狛とロキの議論を終わらせた。


 そして、白兎と軽く打合せを行い、スケジュールを確認。


 あと、1日あれば作業も目途がつくようなので、バルトーラの街への帰還は明後日の昼に決定。


 ちょうどガミンさんが街からの報酬、及び、中央へのパスポートを用意が整うらしいタイミング。


 それを受け取れば、バルトーラの街での公式的なイベントは全て終了。

 あとは俺の個人的な用事や細々した雑務だけ…………


 

 さて、今回の俺の活躍に、バルトーラの街はいかほどのお値段を付けてくれるのであろうか?





『こぼれ話』

発掘品の改造は中央の藍染屋で行われていますが、そのほとんどが『下級』以下の発掘品になります。『中級』以上は難易度が高くなり、滅多に行われることがありません。合成はさらに難易度が高く、『下級』でも失敗することが多いことから、使えない発掘品同士を合成させて、少しでもマシなモノを生み出す、ような使い方をされています。


しかし、中央でも三色学会に匹敵する知識集団である『緑央連盟』では、もっと進んだ発掘品の改造や合成が行われている、と言われています。

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