エピローグ2.俺たちはよく晴れた空の下で

 それからのことを簡単に記しておく。


 崩落した大月高校(もどき)から無事逃げ出した俺たちは、誰も彼も解散するには疲れ切っており、修練場で全員揃って昼過ぎまで眠りこけた。男女混合で雑魚寝という健全な空間である。まあ女性は磐田先輩一人だけど。先代の日比谷先輩の代だったらもうちょっと華やかだったかもしれないが、多分俺の身が持たなかったから、よし。


「……迷惑かけたな」

 目が覚めるなり須藤が俺たちに頭を下げるので、こっちの方が恐縮してしまった。殊勝な須藤とか気持ち悪いからやめてくれとか言い続けてたらだんだん須藤がいつもの調子になってきて俺に腹パンしてきたので安心した。安定の吐き気にも安心が宿る。やっぱ須藤はこうじゃなくちゃ困る。


 朝になって楓さんから何度か着信が来ていたので、俺の家に泊まったと伝えておいた(話によると楓さんは毎朝須藤を起こしに来てくれるらしい。正直羨ましい)。俺が楓さんと連絡を取れるのは大体須藤絡みである。微妙ではあるがまあ許す。知人の綺麗なお姉さんから可愛いスタンプが返ってくるだけで俺は天にも昇る気持ちになるのである。


 あの後親父から金を借りた。

 本当の理由までは言う気になれなくて、ただ友達が困ってるからと伝えるに留めたが、親父は二つ返事でポンと出してくれた。《肉入り》の夜に話したことが前振りになったのかもしれない。あるいは、悪いことには使わないのだと信頼されているってことだろうか。そう思うと少しだけ面映かった。

 それから《肉入り》の夜の礼を伝えた。あの日戦う決断をしたのは無論俺自身だったが、あの時、親父の言葉に背中を押されたのも確かだったからだ。

「親父とあんなふうに話できたの、すげー嬉しかった。ありがとう」

 後から思い返せば言ったことを取り消したくなるくらいの臭い発言だったが、親父はにっこり笑って答えてくれた。

「僕だってたまには親らしいことをしたくなるさ」

 正直今まで親父とは上手くやれている自信がなかったが、もしかしたら意外と、適切な親子関係を築けているのかもしれない。

 須藤の親父も、今でも生きてたら、須藤とこんな風に話をしていたのだろうか。

 哀しみとか無常感のようなものは感じなかった。

 ただ、あいつだったら、きっとそういうふうになったんだろうな。

 そんなことを俺は思った。

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