会社員と緑の守護者(22)
俺とアスカが大木に取り込まれていた頃。
ウルドの街には赤黒い葉っぱが迫り緑色の狼の群れが街を襲っていた。
外に出ていた住民は街の中へと逃げ込み冒険者と街の衛兵たちが緑色の狼を城門にて食い止めていた。
その頃、ウルドの領主様は婆やとともに精霊様に祈りを捧げていた。
「何故だ……精霊様。これほど祈りを捧げているのに……何故こたえてくれないんだ。」
ウルドの領主様は焦りながらも一心不乱に祈りを捧げていた。
「領主様! 一大事です!」
「どうしたぁ! これ以上なにがあるというのだ!」
兵に対する応対も焦りのせいか、きつい言葉になってしまう。
「そ、外に巨大な木が現れました! 土煙を上げながらこちらへと向かっています。」
領主様と婆やは外に目を向けた。領主の館からでも見えるほどの巨木は、まるで子供が駄々をこねるように、大きな枝を振りみだしながらこちらへと向かってきていた。
「……婆や。祈っていたらあの木を止められるのか?」
「さぁね。私にもわからないね。でも、私にはそれしか出来ることはない。けど、坊ちゃんには出来ることがある。さぁ、いますぐに兵を連れて逃げなさい。今ならまだ間に合うはずだ。」
「いつまで経っても坊ちゃんなんだな。」
「領主様はいつまで経っても坊ちゃんですよ。さぁ、早く。」
領主様と婆やが最後を感じ取って言葉をかけあっていたその時、
『やぁ、ウルドの領主さん。僕の声が聞こえるかい?』
光っていた木からいや、祈っていた木から声が聞こえてきた。ウルドの領主様と婆やは急な展開についていけずしばらくの間、呆然としていたが
ハッ!
気が付いた婆やはすぐに祈りを再開した。
「この声はウルドの精霊様でございますね。お待ち申し上げておりました。森の木々が変色し緑色の獣におそわれております。何卒、私たちにお力添えをお願い致します。」
土下座をするかのように話しながら頭を下げる婆やを見て領主様も
「ウルドの民をお救いください。」
土下座のような姿勢で精霊様にお願いをされていた。
『僕のチカラを使うためにここまで運んできたけど、見ててごらん。あの木は倒れるから大丈夫だよ。あの木が倒れてしばらくすると森も以前のような森に復活するよ。』
ウルドの領主様と婆やは森の精霊様に促され、外にそびえ立つ巨木を見た。大きな枝を振りみだしながら土煙を上げていた巨木だったが、いつの間にか土煙がなくなっていた。
大きな枝を振りみだしていたが動きが緩慢になってきたように感じる。
その時
『うぅぅぅぅ……おぉぉぉぉ……』
地鳴りのようなうめき声のような声が響いてきた。
『私は森……すべて……ひとつに』
声らしきものが聞こえてきたがその直後に巨大な音が響いた。
バリッ!
バリバリバリ……
木が巨大な音を立てながら領主の館に向かって倒れてくる。
「いかん! 皆逃げろ!」
領主様が慌てて声を張り上げるが
『大丈夫だよ。そのまま。』
バリバリバリ……バリ……パシ。
木が倒れかかってくるが、途中で木は動きを止めた。
『僕が支えているからね。もう大丈夫。木は枯れて倒れたよ。』
森の精霊からのお言葉に領主様も婆やも喜びを隠せない。
「本当ですか!? 森の精霊様ありがとうございます。」
「森の精霊様、感謝申し上げます。」
『本当に? じゃぁ、ひとつ頼んでもいいかな。』
森の精霊様はウルドの領主に一つのお願いをした。
領主様はそれを疑問に思いながらも精霊様のお願いだからと快諾した。
「……ウルドの領主様は精霊様のお願いを叶えました。そしてウルドの街は危険を乗り越えることが出来てウルドの民は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。」
「爺ちゃんもう一回。もう一回お話聞かせて!」
「おいおい。昨日もあんなに絵本を読んであげただろう。今日はここでお終いだよ。さぁ、お仕事の時間だ行った行った。」
「「えぇ~っ。」」
「ほら、二人ともちゃんとお仕事してきなさい。」
「……ちぇっ。」
「ねぇ、お爺ちゃん。その話って昔のことでしょ。本当にあったの?」
「あぁ、本当だよ。領主様のお屋敷が木でできている理由は知ってるかい? この物語の精霊様のお願いは実は領主様のお屋敷を木で作ることだったんだよ。」
「変なお願い。ねぇ、なんで木で作ってって精霊様はお願いしたの?」
「それはね、領主様のお屋敷の礼拝堂には二人のエルフって呼ばれる作品があるんだ。そして、『このエルフは蘇る。ウルドが森と暮らしている限り』と言い伝えられているんだよ。」
「エルフ!? 本物のエルフ!?」
「さぁ、どうだろうね。でもそのためには森と一緒に生きていける街を作らないといけないからね。さぁ、君たちもお仕事に励まないと復活する日が遅くなってしまうよ。」
「「はぁい。」」
「ふふふ……元気があっていいなぁ……なぁ、そう思うだろケニー……。」
森に流れる風は木々の間をぬうように走り抜け、色とりどりの風景や匂いを纏いながら領主の館へと新たな空気をはこんでくる。
礼拝堂へと流れついた風は動きを止めた二人にも森の恵みを運んでくる。
大地に染み込む水滴のように、森の風が二人の像にも染み込んでいく。
長い年月のせいだろうか。元からそうだったのだろうか。
二人の像は笑顔で見つめあっていた。
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