会社員と緑の守護者(13)

街から森の中へと入っていった俺とアスカであったが、


森へ入ってすぐに足を止めることとなる。


それは、領主の館で過ごした数刻の間に、ウルドの森が変わっていた為だ。


色鮮やかな葉っぱをつけていた木々が、赤黒く染まった葉っぱの木々になっていたのだ。


また、幹は緑色に染まっており、血で塗れたような赤と毒々しさを感じる緑のコントラストが、とても不気味に感じる。


「こんな急激な変化があるって……森で何が起きたんだ?」


街の入り口から見えるところまで、緑と赤のコントラストの木々が迫ってきていようだ。


俺があっけにとられていると、アスカから鋭い声がかかる。


「ディー、魔物だよ!」


俺はハッとなり、武器を構える。アスカの顔を見て、アスカの視線を追うと、二体の魔物がこちらへと近づいてくるのが分かる。


狼のような緑色の魔物は、涎を垂らしながら俺たちめがけて、突き進んでくる。木にぶつかったり、根っこに足をとられたりしながらも、ただただ愚直に真っ直ぐに。


緑色の何かに侵されると自分の命を顧みずに行動するようだ。緑の何かに漠然とした恐怖を感じる。


「アスカ! 噛まれないように注意しろよ!」


「うん! ディーもね!」


噛まれると危険なので、俺とアスカはお互いに距離を取り、回避を優先して慎重に魔物と対峙する。


魔物が俺とアスカに分かれて向かってくる。1対1の戦いだ。狼はとびかかるように噛みついてくる。俺は前の戦いよりもさらに安全に距離をとって回避をする。狼は飛びついた勢いを制御できず、木にぶつかった。痛そうな音がするが、気にしたそぶりも見せず、こちらに二度、三度と噛みついてくる。


回避しながら狼を見ると、先ほどの衝撃で前足が変な方向に曲がっている。たどたどしい足取りになってきているが、それでも足を止めることなく口を開けて噛みついてこようとする。


俺は狼の噛みつきが届かないところから、剣を大きく振りかぶり、噛みつきそこねた狼の頭に向けて剣をたたきつけた。狼は避けることもせず、剣の重みを直に受け、動きをとめた。


動かなくなったのを確認してから、アスカが気になり見ると、頭が黒く焼け焦げた狼が木に寄りかかるようにして動かなくなっている。


「……アスカ、お疲れ様。」


「ディー、お疲れ。あのさ、あの木を見てくれない?」


そう言ってアスカは狼が寄りかかっている木を指さす。


「どうしたんだ?」


「狼があの木にぶつかって動きを止めたの。チャンスと思って火魔法を打ったんだけど……燃えなかったの。」


「燃えなかった? 狼は焼け焦げてるようだけど?」


俺は首をかしげる。アスカは首を横にふった。


「違うの。あの木にも火がかかったはずなのに、全く燃えていないの。むしろ自ら火を消したような……」


「火を消した? どうやって?」


「狼の頭が燃えた時、たしかに木にも火がついたの。でも、木から緑色の液体が出てきて、火を消したの。」


「緑色の液体だって?」


俺は狼が寄り添っている木をみる。緑色の幹だが、濡れているような光沢はない。


「幹が緑だから緑に見えたんじゃ……」


「そう……かな……」


俺はもう一度木を見てみる。色はおかしいがそれ以外は特に感じない。


検証のため木の幹を切りつけようと俺は剣を振りかぶった。


グサッ


剣は少しだけだが幹に刺さった。すぐに引き抜けないので、グリグリと剣をねじりながら幹から引き抜く。


ネバ~ッ


引き抜いた剣には、チーズのような緑色の液体が剣に付着していた。


幹についた傷口からも緑色の液体が滲みだす。


「本当に出てきたな。これは緑色の液体に植物も侵されているってことか。」


俺は剣についた緑色の液体を地面にこすりつけて緑色の液体を取り除く。


その間にも幹からは緑色の液体が溢れ、傷がついた部分を覆って固まった。


「……これで火も消したんだな。それにしても、森の奥まで緑色で汚染されているのかもしれないな。」


先に見える景色も、赤と緑のコントラストだ。今までの森と全く違う光景だ。


「……どうする? 原因を探るために森の奥にまで行くか?」


「……行けるところまで行くしかないんじゃない?」


俺たちは警戒しながら森の奥へと向かっていった。



「うそだろ……何だこれ……」


「これが原因ってことかな?」


森の中ほどまで歩みを進めた俺たちの目の前には、枯れた木々が倒れている。


ちょうど、俺たちが足を踏み入れていない領域の木々だ。


そう、森の奥で鬱蒼としていた森が、今は目の前で枯れて倒木となっていた。幾重にも枯れて倒木となった木々が重なりあって倒れている奥には


まるで巨大な芝生のように、枝葉を左右に伸ばしている巨大な木が生えていた。


巨木の近くにはいくつかの小さな木が、まるで主人である木を守るかのように生えている。その木の一つに、俺は見覚えのあった顔を見つけた。


ケニーの顔だけが木から出ていたのだった。

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