会社員と緑の守護者(8)

あれから数日して、精霊様はウルドの木へと戻ってこられた。何で分かるかって?

ウルドの木が夜になってもうっすらと光っているからだ。あれは精霊様がウルドの木に戻られた合図らしい。


ウルドの街では精霊様が戻られたこの時期だけ、街中が夜でも明るい。そのおかげで一日中お店を開いてお祭り騒ぎをしている。数十年に一度のことらしく、ウルドの木が光り輝いたその年は森の恵みが豊作となるようで、街の住民は表情が明るい。


領主様からも精霊様が戻られたとの報告があった。


サクラさんから? ヨシノさんから? もらった刀に精霊を宿すためにも精霊様に合わせてもらう必要があるが、領主様の話しでは、精霊様は森の浄化に体力?生命力を使われたので、回復するまでは会話も出来ない状態とのこと。


今ウルドの木が光り輝いているのは、精霊様をウルドの木が癒しているからだと言い伝えられているそうだ。光りが収まるくらいの時期に連絡がもらえるようだ。


その時期が来るまで俺とアスカは、冒険者ギルドでクエストを受けて森に入っては魔物を倒している。


あれから緑色の牙を持つ魔物には出会っていない。違和感のある魔物にも出会っていない。


領主様の婆やの推測では、群れから追い出された魔物が食べるものに困り、毒のある生物か植物を食べて、毒に侵されたため、奇怪な行動をしていたのではないかとのこと。特に今回の問題との因果関係はないと判断された。


精霊様も戻ってきたため、これで一通りの解決となった。領主様からギルドを通して少なくない報酬をもらった。


でも、何か気になるんだよな……


「……ディー、何を考えてるの? 食事止まってるよ。」


光っているウルドの木を見ながら考え事をしていたせいで、食事が止まっていたようだ。アスカに言われて気づき、食べながらアスカに答える。


「いや、なんていうか……えらくあっさりと森の異変が収まったなって……こんな簡単に収まるのなら、何で今まで収まってなかったんだろうって……」


「偶々、私たちが解決する直前に関わっただけじゃない?」


「まぁ、そう言われればそうなんだけどな……なんだかなぁ。」


「……もしかしてまだあの魔物の件、気にしてるの? 婆やも問題ないって言ってたんだし、大丈夫だって。森の異常も精霊様が治してくれたみたいなんだから。あれから緑牙の魔物にも出会ってないんだよ。」


……そうだよなぁ。


「考えても仕方ない。今日もギルドに行ってクエストでもやるか。」


俺とアスカは食事を終えて、冒険者ギルドでクエストを探した。


お祭り騒ぎのせいか、ギルドは人が少なかった。ウルドの木が光っているおかげで魔物がこの街に近づかないそうだ。依頼掲示板を見ても、この時期にもうすぐ食べごろになる果実を狙って、食べようと近づいてくる魔物の退治依頼しかない。


「同じクエストばかりにも飽きたな。今日はもう休みにするか……」


「いいけど、街をぶらつくのも飽きてきたよね。」


「そうだなぁ……」


領主様からの依頼のおかげで、お金には困っていないが、街を見て歩くにしてもお祭り騒ぎのせいで、ウインドウショッピングも難しい。


俺が依頼掲示板の前で腕を組み悩んでいると、アスカは冒険者ギルドの受付に話しかけて他のクエストがないか聞いていた。


「すいません。あのクエスト以外にクエストってないの?」


「はい、この時期にはクエストはあれしかないんです。皆さん祭りを楽しまれていますので。」


「でもでも、いつもはもっといっぱいあるじゃん。う~んと……ほら! 例えば長いこと放置されてたクエストとか。」


「長いこと放置されていたクエストですか? う~ん……どうですかねぇ……あったかなぁ……」


受付の人は机の中からいくつかファイルみたいなものを取り出し、調べてくれた。


「……う~ん、放置されていたクエストは、期限が来てしまい、破棄されているものばかりですねぇ……あら? これ……」


「え!? あったの!?」


アスカが机に身を乗り出して受付の人に迫った。


「はい。一枚だけまだ期限が来ていないのがありました……けど……」


「けど?」


「とても難易度が高くて、ほとんど指名クエストになっているものですね。」


俺とアスカはそのクエストが書いてある紙を見せてもらった。それは森の奥にしか生えていない植物を取ってくるというクエストだった。


「いいのあるじゃん。」


アスカは乗り気みたいだ。


「え? 受けるんですか? 森の奥に行くのは熟練の冒険者でも難しいですよ。それに、エルフでも大変みたいですから、オススメいたしませんよ?」


「エルフって……もしかしてあのケニーのこと?」


アスカは眉間にしわをよせて受付に確認している。


「え、えぇ。そうです。ケニーさんです。以前は長い間放置されることはなかったんですが、最近はギルドに顔を出されないので、受けてもらってないですね。」


「なんでエルフのケニーは受けないの?」


「……さぁ? 理由はお聞きしていないので分からないです。」


「……門番で忙しいのかしら?」


あいつなら言いそうだな。


「ねぇ、ディー。やってみてもいいんじゃない?」


アスカが受付からこっちを振り向き、声をかけてくる。


「やられるんですか? このクエストは植物を持ってきてくれないと達成にならないので森の奥に行って見つけられないと赤字ですよ?」


受付が心配な表情で俺たちを見ている。今の俺たちなら臨時収入もあったから、無理せずに引き返すことも出来るだろう。そして、何より森の奥がどうなっているか見てみたい。


「よし、やってやろうじゃないか。元々、領主様に言われて森の奥に行こうとしていたんだ。森の奥がどうなっているか見てくるのも面白そうじゃないか。」


俺の言葉を聞いて受付の人は、それ以上何も言わなかった。淡々と手続きを行ってくれ、最後に


「森の奥にウルドの光りは届かないので、森の奥は危険な魔物の巣窟です。危ないと思ったら帰ってきてくださいね。」


俺とアスカの安全を祈ってくれた。ありがとうと返事をして、俺とアスカはギルドを出ていった。


先ずはしっかりと準備して向かおう。今日は森の奥に入る準備を行うために、ざわざわと喧騒のする街中へと足を進めて行った。

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