会社員と緑の守護者(7)

翌日、俺とアスカは昼近くまで寝ていた。昼食を食べてから領主の館に向かった。領主の館に着くと、ケニーが門番をしていた。


「ケニー。昨日はよくも俺たちを追いて行ってくれたな。」


俺が棘のある言い方でケニーに迫る。アスカは唸り声をあげて威嚇している。


「ふん。動きのとろいお前たちが悪い。お前たちの足なんかに合わせていると、日にちがかかってしまうわ。領主の館に来るのではなく、大人しくウルドの街でも見学しておくんだな。」


ケニーは俺たちに槍の穂先を向け、門に近づけさせないように立ちふさがる。


「まぁいい。ケニーに用事はない。領主様に用事がある。そこを通してもらうぞ。」


「領主様はお前たちに用事はない。とっととここから立ち去れ。」


ケニーはまたもや俺たちを通さないと言ってきた。俺とアスカもケニーと会話するのを止めた。俺は腰を少し落とし、武器に手を伸ばしてケニーと対峙した。隣のアスカもすぐに動けるように武器を構えた。


ケニーも話すことなく槍を腰の位置で構え、突っ込んできたところを突いてやるぞという心構えで穂先を俺たちに向け、牽制してくる。


俺たちの様子を見ていた他の門番が止めに入った。さすがに街での流血事件は問題になるとのこと。それも領主の館でやるとなると双方ともに言い訳無用で牢獄に送られるぞと言われ。しぶしぶ武器から手を離す。


ケニーも、俺たちを通すように領主様から命令が出ていると言われ、しぶしぶ塞いでいた門への道を開けた。俺とアスカがケニーの横を通り抜け、領主の館へと入る。


アスカはケニーに勝ち誇った顔を見せながら横を通り過ぎていた。ケニーはさらに渋い顔をして俺たちを横目で見ながら俺たちが通り過ぎるのを見ていた。


しかし、俺たちが門を通って領主の館へと入っていくのに、ケニーは何故か勝手に付いてきた。俺とアスカが視線を向けても知らん顔でついてくる。もぅ無視しておこう。客間に通され、しばし領主様が現れるのを待つ。


「……門番してれば?」


アスカが顔も見ずにケニーに話しかける。


「お前たちが領主様に何かするかもしれん。信用ならん。」


ケニーの物言いにイライラしてしまう。


「お前こそどこに行っていたんだ? 俺たちをほっといて。サボっていたのか?」


「サボっていたのはお前たちだろうが。お前たちの足では何日かかろうが精霊様の元へと行くことなど出来ん。早々に領主様に無理ですと泣きつくんだな。」


……こいつと言い合いしてもいいことないな。そう思った俺は深呼吸をしてケニーとの話しを止めた。ケニーもそれ以上、何も言ってこなかった。どれくらいの時間が流れたのか、静寂の部屋に来訪を告げる足音が聞こえてきた。


「遅くなって申し訳ありません。領主様はご多忙のため、代理で私が話しをお伺いいたします。」


そう言って客間に入ってきたのは、領主から婆やと呼ばれていた女性だった。


「ディー様、アスカ様お待たせいたしました。ケニーは昨日も報告してくれたけど、今日も一緒に話しをしてくれるの?」


「はっ。こやつらが虚偽の報告をしないか監視しております。」


「あんたの報告の方が怪しいけどね。」


「ふん、小娘が。森のことに詳しいのはこの私だ。私が虚偽の報告をすることはない。」


「私たちを追いて行ったのも、虚偽の報告のためなんじゃないの?」


「……はっ、くだらん。お前たちが死なないように追いて行ってやったのにそれも理解していないとは。なさけないやつらだ。」


「ケニー。いい加減にして。私はディー様とアスカ様から話しをお伺いしていの。邪魔をするなら出て行ってもらうわ。」


「……。」


婆やに強く言われ、口を閉じたケニー。ざまぁだ。


「……さて、ディー様、アスカ様。森での様子などをお聞かせ願えますか?」


「はい。先ずはこれを見てください。」


俺は布に包んで回収した緑色の牙を見せる。


「これは……ウルフの牙、ですか? どうして緑色なのでしょうか?」


「触らないで下さい。」


婆やは伸ばした手を引っ込める。俺に説明を続けるように視線を向けてきた。


「これは昨日の昼すぎ、森の中で見つけたウルフの牙です。ウルフは地面を掘り、頭を突っ込んで何かを食べているようでした。珍しいなと思い見ていると、こちらに気づいたウルフが襲ってきたので退治しました。」


「地面を掘っていたのですか? ウルフが? 昼間に? ……不思議ですね。」


「まだあります。そのウルフですが、私たちと戦う前から満身創痍の状態でした。前足は化膿して腫れていてふんばりが効かない状態でも俺たちを殺そうと襲ってきたのです。ウルフは臆病な生き物なはずです。ケガをしている状態なら逃げると思うのですが……違和感でした。」


「……たしかに逃げそうですが、必ず逃げるとは言い切れませんね。」


「はい。その後、退治したウルフを解体しようとすると牙が緑色になっているのに気づきました。水をかけたり、草でこすってみましたが、緑色が落ちることはありませんでした。毒の可能性もあると思い、包んでお持ちした次第です。」


「……なるほど。良く分かりました。牙についてはこちらで調べてみましょう。そしてウルフの異常行動が今回のことと何か関わりがあるのか……ディー様たちには他にも異変がないか調べていただけないでしょうか?」


「調べる必要はございません。今回のことは精霊様がすぐにお戻りになられ、解決いたします。」


……はぁ。


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