会社員と緑の守護者(3)

エルフと印象的な対面をしてから10日が経つ。俺とアスカはウルドの周辺で魔物を倒してたり、植物を集めたりと冒険者らしく過ごしている。ウルドは森に囲まれている街のためか、見慣れない植物や木や草に化けた魔物などにも遭遇した。


アスカなんて、時間があれば木工家具屋に行って装飾の入ってツヤが出るように磨かれた木製の家具を何時間も眺めている。そのおかげか、家具屋の店主に気に入られ(女の子が、キラキラした目で家具を眺めていると、集客に良いそうだ)、家具を作るお手伝い(見習いが行っている練習)に参加させてもらっている。


間近で職人さんの手作業を見れるのが楽しいそうだ。職人達にも好かれているようで、アスカのコミュニケーション能力には驚かされる。また、内気な店主の息子とも木工の話しで盛り上がっていたそうだ。それを聞いた店主から、本格的な引き抜き(嫁に来たらうんぬんかんぬん)を画策されたのも今となってはいい思い出である(何とか諦めてもらったが、振り返ると濃厚な10日だった)。


さて、クラトスさんの手紙を渡してから何の音沙汰もない。さすがに、さすがに領主が忙しいにしても何かしらのアクションがあっていいのではないかと思っている。


冒険者ギルドで待っていても何もなかったので、領主の館に向かってみるか。


俺とアスカは領主の館へと向かう。


「今日もあのエルフがいると嫌だね。」


アスカがしかめた顔で言う。


「たしかにあの態度はな……近づいて門番があのエルフなら帰るか。」


「さんせ~い。」


「お、領主の門が開いたぞ。誰か出かけるのか。」


「もしかしたら領主様じゃない? お話しできるかも。」


そう言うとアスカは走りだした。


「おい、アスカ。ったく。」


俺もその後を追う。開いた門からはゆっくりと豪華な馬車が出てきた。その馬車にアスカは近づいていく。


「おい、アスカ! 気をつけろよ! 危ないぞ。」


「ディー! 大丈夫だって。馬車はまだゆっくりと歩いているよ。」


アスカは馬車に近づいていく。しかし、護衛の人だろうか。アスカと馬車の間に割りいるような位置に立ってこちらを睨んでいる。


「おい、アスカ。護衛の人に迷惑かけるなよ!」


「ディー、分かってるってば。あの、領主様いますか? 私たち、クラトスさんの紹介で手紙を出したアスカとディーって言うんですけど。」


……アスカ、護衛の人に尋ねるにしても頼み方ってものがあるだろ。俺は頭を抱えてしまった。護衛の人も急に尋ねられてポカンとした表情をしている。


「あれ? ……あのですね、私たち、クラトスさんの紹介で手紙を出した冒険者でアスカとディーって言うんですけど、領主様って今いますか?」


……アスカ、聞こえなかった訳じゃないと思うよ……大きな声で言わなくても護衛の人は聞こえているよ。


「……アスカとディーと言ったか? たしかにそのような名前だったな婆や。」


「はい。たしかそのように記憶しております。」


「馬車を止めよ。」


おいおい、馬車が止まったぞ。本当に領主様だったのか。大きい声ではないが、若者らしい甲高い支持で馬車は止まる。馬車のドアが開き、声の主が現れた。


「そなたらがアルバート殿より遣わされた冒険者か。いささか到着するのに時間がかかったものだな。」


馬車から姿を見せたのは若い、子供と大人の間ぐらいに見える男性だ。とても整った顔をしている。アイドルだと数百年に一度のアイドルって言われるんじゃないかと思うほどのイケメンだ。


「えっと、こんにちは領主様。私たちは少し前にこの街に着いてたよ。着いた日に領主様宛の手紙を渡したはずだけど……」


物怖じしないアスカが言い返す。そのアスカを顔を見てイケメン領主は馬車の中に戻る。


「婆はその手紙を見たか?」


「婆は見ておりませぬので、分かりませぬ。」


「婆が見ていないと言っている。本当に渡したのか?」


また馬車からイケメン領主が顔を出してくる。そのころには俺もアスカの横に立って、イケメン領主と応対だ出来るようになった。


「領主様、私たちは門番の人に手紙をお渡ししました。」


「その門番というのは誰ぞ?」


「名前は分かりませんが、エルフの方でした。」


俺の答えを聞いて領主様は苦い顔をする。えっと……どういう表情でどういう意味があるの。


「誰か、ケニーをここに。」


「はっ。」


護衛の一人が返事をして馬車から離れていった。しばらくすると、門から護衛に連れだって一人の人物が現れた。うん、確かにこないだ会った耳長の門番だ。


「お呼びでしょうか。」


「ケニー。ここにいる冒険者より手紙を預かったと聞いた。相違ないか?」


ケニーと呼ばれた門番はこちらを一瞥したのち


「さて、身に覚えがございません。いつ頃の話しでしょうか。」


おい、はっきりと知らないって言ったなこいつ。そんな訳ねぇだろ。


「そんな訳ないでしょ。私たちたしかに貴方に手紙渡したよ。近づいて渡そうとしたら弓矢を打ってくるし、近づけないなら箱に入れろって言ったじゃん。」


アスカがそう話したてる。ケニーはアスカを睨むが何も言わない。


「……そのように言われているがケニー。覚えておらぬのか?」


「似たような恰好の冒険者たちが領主様に面会を頼んで参ります。そのうちの一人でいたかもしれませんが、確かなことは分かりません。」


あくまで知らないって言い通すつもりなのか。それよりもだ、


「……箱に入れた手紙はどうなったのですか?」


せっかくクラトスさんが書いてくれたのに捨てられてしまったのなら悲しいな。


「ケニー。箱に入れられた手紙は領主様の元へと届ける義務があるはずでしたね。手紙はどうしたのです?」


今度は婆さんがケニーに尋ねた。ケニーは顔を婆さんに向けた後、下を向いて話しだした。


「……そういえば! 何か手紙のようなものが落とし物で届いておったような記憶がよみがえりました。確認してまいります。」


とぼけた表情で落とし物があったと語るケニー。そう言うやいなや、門へと走って向かっていった。一瞬こっちをすごい顔で睨んでいたが。


「……このままここで話すのも往来の邪魔となるでしょう。屋敷に戻って話し合いませんか?」


「そう、だな。婆やの言う通りだ。ディーとアスカであったな。詳しい話しは屋敷にて行う。ついてまいれ。」


こうして、俺たちは何とかウルドの領主様と会うことができた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る