会社員と緑の守護者(2)
緑の街ウルドに着いた俺たちは、まずは領主の館へと向かって歩いて行った。街の人に聞いたところ、大通りの先に見える大きな建物がそうだと言われたので、大通りに出ている店などをウィンドウショッピングしながら歩いていった。
「この街は緑が多いからか、建物も木を使ったお店が多いな。」
「食べ物屋さんも多いね。屋台のお店からも、いい匂いがするよ。ディー、何か食べていこうよ?」
「領主に手紙を渡してからだ。やることやってからにしようぜ。」
「そっかぁ……。なら早く終わせよぉ。」
あちこちに目線をやりながら気になる店をチェックして大通りを歩いていると、目的の館へと近づいてきた。
「おぉ、雰囲気あるなぁ。」
「ほぇ~。森と館がくっついてるね。」
領主の館は大通りの先、木々に埋もれるように存在していた。城壁から木が生えていたり、城壁が苔や植物で覆われていたりしていて、領主の館を木が生い茂っている様子がよくわかる。まるで領主の館自体が呼吸しているように、生き生きと輝いて見えている。
「止まれ! ここに何の用事だ!」
領主の館に見惚れていたせいで、門番らしき人物から怒られてしまった。門番らしき人物はこちら槍を持って身構えている。
「あ、すいません。領主様に手紙を渡して欲しいと預かっているんですが……」
「誰からの手紙か!? 答えよ!」
「えっと、領主のクラトス様からです。」
歩いて門番らしき人物に渡そうとした途端
ヒュン……トスッ。
あと一歩、歩いていたら俺の足に刺さったであろう所に矢が刺さった。
「今のは警告だ。その矢より中に許可なく入ると、矢で射られることになるぞ。手紙はそこの箱の中に入れろ。入れ終わったらゆっくりと下がれ。」
槍で示されたところを見ると木に箱がつり下げられている。俺はその箱に手紙を入れた。そしてゆっくりと後ずさりをしていく。
「えぇ!?」
アスカが驚きの声を出した。何と木が動いたのだ。地面から根っこを出し、ウネウネと歩いていく。歩く木は箱を両手? 二本の枝で抱えながら、門番の元へといき、中に入っていた手紙を門番に渡していた。
「……中身を確認する。返答は後日になる。また改めてここへ来い。」
「それはいつごろですか?」
「知らん。明日かもしれんし、一週間後かもしれん。」
「え? すぐに返事はもらえないんですか?」
「領主様も忙しい。時間があれば手紙の返答がいただけるだろう。」
「えぇ……」
「ちょっと、すぐに返事欲しいんだけど?」
「そっちの都合など知らん。領主様の都合に合わせるのが当たり前だ。それまでは冒険者らしく外で魔物でも退治しておけ。話しは以上だ。とっととここから離れろ。」
そういった後は、俺たちがいくら声をかけても、門番は俺たちと話しをしようとしなかった。怒ったアスカが近づこうとしたが、どこからか矢が三本も飛んできた。門番も何も話さずに槍先をこちらに向けてきたので、俺はアスカを羽交い絞めにしながらその場を後にすることにした。
「あいつ、口が悪かったな。」
「ほんとサイテーの男だよね。こっちの話しも聞かずに一方的だったし。」
俺たちは抑えきれない気持ちを解消するために、大通りの屋台巡りで、やけ食いをしていた。かなりのやけ食いでお腹を満たしたあと、近くの宿屋で部屋を取り、宿屋の食堂で愚痴をこぼしていた。
「また聞きにいくのも億劫だよな。」
「あいつに会いたくないもん。」
「お前達、耳長の門番長に当たったんだな。そいつは災難だったな。」
追加で頼んだ飲み物を持ってきてくれた恰幅の良い宿屋のマスターが、俺たちの会話に入ってきた。
「え? 耳長?」
「あいつあれで門番長なの?」
「あぁ、あいつは門番長でエルフなんだ。あれでも優秀な奴だぞ。」
何だと!? エルフだと!?
この街には驚かされてばかりだなぁ。それにしても初めてのエルフは態度が悪かった。エルフが皆あんな態度なら、ちょっとがっかりしてしまうなぁ。
俺は飲み物を飲みながら、門番長であるエルフとのやり取りを思い出していた。
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