会社員と緑の守護者
ゴトンゴトン……ゴトンゴトン……
領主のクラトスさんが用意してくれた馬車に揺られ、俺とアスカは次の目的地になる街へと向かっていた。
カグヤはついて来なかった。
正確にはついてこようと画策していたんだが、カグヤの性格を熟知していたクラトスさんとせバスさんに、旅に出る前日から捕獲されていた。
「ディー様、アスカさん、私を連れて行ってくれませんか!?」
クラトスさんとセバスさんに掴まれた状態のカグヤが目を輝かせながら俺たちに訴えてきていたが、
「いや、そう言われても……なぁ?」
「連れていきたいけど、今回は無理っぽいじゃん。クラトスさんもせバスさんも止めているんだし。」
「そ、そんな……」
カグヤは両脇をクラトスさんとセバスさんに捕まれたまま、うなだれてしまった。そしてそのまま泣き出してしまった。
申し訳ない気持ちだが、さすがに反対されているのを無理に連れていく気にならないので、諦めて欲しい。
「では、ディー様、アスカ様。この手紙を向こうの領主に渡して下され。宜しく頼みましたぞ。」
クラトスさんは泣き出した娘にちらっと目を向けたが、すぐに俺たちに向き直り、手紙を渡してきた。
「わかりました。」
「りょうか~い。」
「……行ってもらう先の領主も儀礼にうるさいものではございませんが、いらぬ敵をお作りにならないようにお気をつけくだされ。」
最後にクラトスさんから釘をさされた。まぁ、たしかに敬語とか苦手だし、貴族っぽい人には嫌われるのだろう。
「できるだけ気をつけます。」
「そうします。」
「ではまたいつでもお越し下され。お会いできるのを楽しみにしております。」
そういって俺たちは馬車に乗り込んで街を離れていった。最後までカグヤが涙を流しながら手を振ってくれた。俺たちもカグヤに負けないくらい手を振って別れを惜しんだ。
あれから数日。ついに俺たちは目的地の街へとついた。馬車の窓を開けて外の景色を見てみる。
「ここの街はすごいねぇ。緑だらけ。」
「すごいな。森がまるごと街になっていると聞いていたから、どんな街かと思っていたが城壁まで緑で覆われているなんて想像以上だ。」
俺たちは首が痛くなるほど見上げないといけない木々に囲まれていた。その木々同士をつなぐように太い丸太を何本も重ねた城壁になっていた。その城壁には、長い年月が経っているのだろう様々な植物が芽をだしており、まるで緑のカーテンのように、風によってさわさわと凪いでいた。
ここは緑の街、ウルド。
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