会社員はⅩⅨ日目になって旅をする(1)
俺とアスカ、セバスさんは手紙と刀を携えて再びクラトスさんの元へと戻った。
ドアをノックして入った部屋の中には俺たちが出ていった後と変わらずに、領主のクラトスさんとライラックさん、カグヤが話し込んでいた。
セバスさんがすぐにクラトスさんの元へと歩みより、耳打ちをする。
「なんだと!!? あの箱の謎を解いただと!?」
クラトスさんが驚愕の表情でこっちを見ている。ライラックさんは何かトラブルでも起きたのかとこっちを見ている。カグヤは父であるクラトスさんと俺たちを交互に見ている。
「はい。そしてディー様がお持ちになっているのが、サクラ様からの手紙でございます。」
「サクラ……あの伝説のサクラ様か!?」
クラトスさんの発言を聞いてライラックさんも驚愕の表情になった。カグヤは驚きの表情から、子供が目をキラキラと輝かせたような表情へと変化していった。セバスさんが言うには、どうやら冒険者にあこがれを抱いていた理由として、ご先祖様の武勇伝を聞いていたからだそうだ。
俺はクラトスさんに手紙を渡した。クラトスさんはとても恭しく手紙を受け取った。
刀については特に何も言われなかった。手紙でそれどころでもなかったのかも知れない。後日に改めてお礼をすると言われて解放されたのが夜。そのまま領主で泊まったのだが、翌日になっても連絡がなかった。
セバスさんに尋ねたところ、手紙の内容は教えてもらえなかったが、クラトスさんで何か確認したいことがあるようでもうしばらくかかると言われた。
俺とアスカは顔を見合わせ、これからどうするか話し合おうとしたが、
「それなら、この辺りの魔物でも倒してその武器に慣れようよ。」
アスカからの提案に、それがいいなとなり、俺たちは領主の館から冒険者ギルドへと移動した。それからしばらくは近くの魔物を退治しながら新しい刀に慣れるように鍛錬に励んだり、ダンジョンへと潜ったり、街での依頼をこなしたりしていた。
「ディー様、アスカ。お久しぶりです。」
それから数日、朝のギルドで、アスカと今日の予定を考えていた俺たちに声をかけてきたのは、ドレスで着飾ったカグヤだった。後ろにはセバスさんとロジャーさんがついていて、俺たちを見て首を縦に動かして挨拶をしてくれる。
「カグヤとセバスさんとロジャー、久しぶり~。」
「カグヤたちも久しぶりだな。」
「はい、ディー様。そうですね、少し時間がかかってしまいましたが、準備ができましたので、また領主の館へとお越しいただけますか?」
「あぁ。そのつもりで動いていたしな。問題ない。今からか?」
「はい。できましたら……」
「いいぞ。何も問題ない。アスカもいいよな?」
「は~い。」
俺たちはアスカと同じ馬車に載せられて、領主の館へと向かった。
領主の館に着くまでは、俺たちがどういった魔物を倒していたのか、サクラ様の刀は切れ味は良いのかとか、アスカが興味津々に聞いてくれたおかげか、時間はあっという間に過ぎてしまった。
俺はこれからの予定を馬車で聞いておけばよかったと後悔している。
馬車で着いた場所は領主の館入り口。馬車から降り、門が開く。その先には、騎士が整然と並んで俺たちを出迎えてくれていた。
しばらく呆然とその光景を眺めていると、
「さぁ、ディー様。お進みください。」
そう言ってセバスさんが先に進むように伝えてくる。いや、こんなことして迎えてくれるなんて知ってたら、もっといい服着てきたのに。お金ないけど。騎士の格好と比べてみすぼらしい格好で進んでいいのか躊躇う。
「ディー様が進んでいただかないとこのままですよ。さぁ、どうぞ。」
そうセバスさんに言われると進むしかない気がしてきた。少し肩身の狭い思いをしながら進んでいく。アスカも俺を盾にしながら隠れるように付いてくる。
「もっと堂々とお進みくださいませ。今日はディー様のための催しなのですから。」
カグヤが話しかけてくるが、俺のためなら急にじゃなくて、準備する時間くらいもらえないものだろうか。
「急な展開すぎてついていけない。」
「父が急に決めたことでしたので。」
どうやらクラトスさんの発案らしい。そんな風に別のことを考えている内に何とか騎士が整列しているところを通りきることができた。領主の館に入り騎士の姿が見えなくなると、ホッと一息つくことができた。
「緊張されましたか?」
「とても。もうあんな所を歩きたくないよ~。」
「アスカは俺を盾にして歩いていたからまだマシだろ。俺なんか騎士の人たちと目が合うたびに緊張したぞ。それにしても、何でここまで盛大にしてくれることになったんだ?」
「それについては、ぜひ父から聞いてください。」
そう言って、ある部屋へと俺を導いた。
ノックされ開け放たれた部屋の中には、クラトスさんとライラックさん。
そして
見知らぬ大人達が大勢で待ち構えていた。
えっと……
緊張するんで帰っていいですか?
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