閑話 VR課(6)

「あれから2週間か……」


新人の0.1ミリメガネ君が消えた。


残ったのは、聞いたこともない場所への出向を告げる人事の紙切れのみ。


VR課の空気は重い。VR課の皆が責任を感じているようで、休日を返上してVRの世界で探索しているが、探せど探せど新人君の足取りはつかめない。2週間が経ち、疲労もあるのか、それぞれが話さなくなり、さらに空気を重くしている。


(どうしたものですかね……)


マッパはため息をつきながら歩いていた。


「どうしたマッパさん? ため息なんかついて。」


「あ、いえ、何でもないですよ。」


(無意識にため息が出るなんて……疲れですかね……)


マッパは慌てて笑顔で言葉を返す。話かけてきてくれたのは護衛対象の商人だからだ。今日は『ハーベスト』で護衛の仕事をこなしていた。今回の仕事は別の国へと移動する商人の護衛だ。この仕事を受けたのはギルドからの推薦というのもあるが、他の国でも新人の0.1ミリメガネを捜索する狙いもある。


(どこにいるのですか……0.1ミリメガネ君……早く会いたいものです)


マッパが物思いにふけている間に、一行は野営を行う休憩所へとたどり着いた。


「……やっとついた~。お肉食べた~い。」


「……薪を拾いに行ってくる。」


「なら、私は警戒しておくわ。」


プリンがノビをしながら身体を動かし、狩りに行こうとしている横で、リツは近くの林で薪を拾いに出かけようとしている。メイさんは護衛の側で魔物等の襲撃がないか警戒している。それぞれが率先して無駄がないように動こうとしている。


(優秀と言えば優秀ですが、やっぱり無理していますね……)


いつもの『ハーベスト』の雰囲気ではないのは、一緒に行動してきたから分かるのだろう。


(かと言って、どうすればいいのか分かりませんし……身体を動かして無心になるしか無いですかね……)


考えながらもマッパは火起こしをして、食事の準備を進めている。


その矢先の出来事だった。


「この世界の子らよ。異世界の子らよ。聞きなさい。」


なんだ!?


急に聞こえてきた声に『ハーベスト』の皆は武器を取り、周囲を警戒した。


「私は女神ニーケイン。汝らに啓示を言い渡します。」


空から声が聞こえてきたと思ったら、夕方だった空の一部から太陽のような灯りが俺たちの休憩所を照らしている。


(どうなっているんだ……こんなことは初めてだ……)


「……どうする? マッパ?」


「そうだね。護衛対象を囲むように警戒しよう。何が起こるか分からないからね。」


リツの問いかけにマッパは護衛対象を守るように伝え、商人の側に集合することにした。護衛対象の商人は声が聞こえてきた途端、両膝をつき、天の灯りに向かってお祈りを始めていた。


「この世界に魔王が誕生しました。子らよ。協力して魔王を打ち滅ぼすのです。」


(……魔王だって? VRのイベントか? 聞いてないけど……)


『ハーベスト』の皆と顔を見合わすが、誰もが不思議な表情を見せている。


「異世界の子らよ。特に励みなさい。望みが叶うことでしょう。」


(……望みが叶う? どういうことだ?)


「汝らに幸あらんことを。」


灯りが徐々に小さくなって、まもなく消えようとしていた。

その時だった。

確かに、女神はこう言っていた。


「『ハーベスト』よ。ダンジョンへ赴きなさい。そこに探し人はいます。」


「彼を助けることが、この世界を救うことになりましょう。」


……0.1ミリメガネ君はこの世界にいる!

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