会社員はⅩⅧ日目に謎解きをする(2)

女神ニーケインとの強烈な出会い? の後に再び、『顕現』を使って女神に呼びかけたが、女神からの反応は無かった。俺たちはまるで夢でも見たかのような表情で、お互いの顔を伺っていた。出来れば夢であってほしい、そう思う内容だったからだ。


「ウォッホン。」


わざとらしい咳をして皆の注目を集めたは、領主のクラトスさんだ。


「皆、今の出来事をどう見る……ライラックはどうだ?」


「そう……だね……不敬だが、ニーケイン様の名前を騙った嘘であって欲しいと思ってしまうよ。あまりに突然のこと過ぎて……反応のしようがないってところだね……それに内容が内容だけに、誰も信じてくれないんじゃないかな。」


商人のライラックさんは苦笑しながら俺たちの気持ちを代弁してくれた。誰だって、突然すぎる内容に信じられない気持ちだろう。


「コンコン。」


「どうした? 入れ。」


「失礼します。領主様……」


ノックと共に現れたのはメイドさんだ。断りを入れたかと思うとすぐに領主のクラトスさんに近づき耳打ちしている。話を聞いているクラトスさんの表情が、次第に険しい表情になっていった。


「……うむ、ご苦労。検討して話しをすると伝えてくれ。」


「畏まりました。失礼致します。」


メイドが出ていったのを見計らい、クラトスさんが口を開く。


「どうやら、街中にもニーケイン様が顕現したようだ。おそらく世界中に同じような内容を伝えられたようだ。」


メイドの話しによると、一部の空から光りが溢れ、女神ニーケイン様の声が聞こえてきたそうだ。内容は魔王が誕生したとのこと、そして異世界の子らに励むよう伝えたとのことだ。


女神は俺にも励むよう伝えていた……地球に……日本に帰れるかもしれない……その手掛かりが魔王にあるのだろう。踊らされているのかも知れないが、俺には他に方法がない。俺は剣をギュッと握りしめた。


「ディー様。念のため、もう一度『顕現』を使っていただけますかな?」


クラトスさんに声をかけられたので、


「やってみます。『顕現』」


クラトスさんに返事をしながら『顕現』を使おうとしたが、先ほどのような光りもなく、何も起こらない。


「何も起こりませんね……」


「……ふむ。そう何度もお呼びすることは出来ないか……」


残念そうにクラトスさんがつぶやく。


「あれ? この剣こんなところ、光ってたっけ?」


アスカが黒い剣を見ながら近づき、声をかけてくる。


「うん? どこ?」


「ほら、ここだよ。」


俺は黒い剣をまじまじと見る。刃の中心部分。芯が通っている箇所に不思議な文様が描かれていて、淡く青く光っている。


「……こんなの無かったぞ。」


「デコト・ボーコさん、見せてくれないか?」


ライラックさんから声をかけられ、黒い剣を渡す。ライラックさんは文様をなぞるように指を動かし、文様を近づけたり離したりして眺めている。


「どうだライラック。何か変化はあるか?」


「……デコト・ボーコさん専用ではなくなっているね……他にも何か変化はありそうだよ……自信はないけどね。」


黒い剣は俺専用ではなくなっていたようだ。女神様が何かしていったのか?


「ふむ……ならば、もう一度調べるまでだ。」


クラトスさんはそう言って、再び魔石を取り出して鑑定をするように促してきた。


鑑定結果はこのようになった。


名称 進化の剣

状態 剣(封印は解除された)


ステータス効果

HP     0

MP     0

からだ   0

ちから   5

まほう   0

めんえき  0

うん    0


スキル

 進化

 不壊

 

封印された剣は、進化の剣へと名称を変えた。封印されていた剣と精霊は解除され、剣として使えそうだ。ステータスの効果も「???」ではなく、数字として表現されている。ちなみに、「ちから 5」というのは品質の良い剣と同等だそうだ。


「ただ、『進化』というスキルがどのような効果があるのか不明だね。『進化』の条件などが分かれば評価も変わってくるだろうね。」


ライラックさんは鑑定を終えた時にそう漏らしていた。


「ふむ……ディー様、少しご相談がございます。この剣を預かってもよろしいでしょうか? 今回の件は、国を……いや、世界中を巻き込んでの騒動となりましょう。私だけでは判断が難しい。他の者にも判断を仰ぎたいのです。」


「え? 預かるんですか?」


……それは困るぞ。せっかくのシークレット武器だし、強く化ける可能性が高いはずだ。この武器を鍛えれば魔王に勝つチャンスはあるはずだ。


「それはちょっと……「いいよ。」」


俺がやんわりと断ろうとしたタイミングで、アスカが答えた。


「おぉ、ありがとうございます。」


クラトスさんがいい笑顔で答える。いや、ちょっと!


「ちょっと待ってください。」


「ディー、大丈夫だよ。私分かってるから。」


アスカ、何を分かってるんだよ。分かっているなら断ってくれよ。


「クラトスさん。これを渡しちゃうと武器がなくなっちゃうから、代わりとなる武器とかくれない?」


アスカはクラトスさんに交渉している……でも、すでに黒い剣を渡す気マンマンだ。俺は渡したくないのに……何もわかっていないじゃないか。


「武器ですか。それなら……」


「倉庫にあるのを自分で選んで持っていってもいい?」


「倉庫の……そうですな、武器だけじゃなく、他にも気になるのがあれば持って行ってくださって結構ですぞ。ただし、持って行かれて困るがあるかもしれませんので、そこは執事のセバスに同行させ、確認させましょう。」


「ふふん。」


どうだと言わんばかりの表情を俺に見せるアスカ。いや、俺としては黒い剣を持って行かれるのが一番困るんだけど。


「今回の件は黒い剣が原因では無いですが、何らかの因果はあるかもしれません。調べに応じなければおそらく指名手配をされて問答無用で捕まえられていたでしょう。しかし、デコト・ボーコさんも黒い剣を持って行かれてショックでしょうから、私からも何かデコト・ボーコさんにお渡しできる商品を見繕っておきましょう。」


ライラックさんが説明してくれたけど、そんなのここにいる人たちが黙っていたらバレないのでは?


「先ほどのメイドの話しだと、この領主の館が光りに照らされていたそうですぞ。ギルドも街の者たちも何事かと思って領主の館に尋ねてきたと申しておりました。噂はかならず王都まで行くでしょう。ならば先んじて行動せねば大事になってしまいますからな。」


……そうですか……もう、拒否権は無いんですね。


「……ありがとうございます。」


俺は頭を垂れて、そうつぶやくしかなかった。

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