会社員はⅩⅧ日目に謎解きをする(回想3)

俺が持っていた黒い剣は、封印されし進化の剣だった。


……えっ? 精霊? 封印?


ライラックさんが行った鑑定によって、俺が持っていた剣モドキは本当に剣だったようで、しかも精霊? が封印されているらしい。


「これってどういうことなんですか?」


結局、良く分からないので、経験豊富そうな領主のクラトスさんと商人のライラックさんに尋ねてみるものの、二人とも固まったまま動かない。


「あの……クラトスさん? ライラックさん?」


俺の呼びかけに、二人がゆっくりと、顔だけじゃなく身体ごと、こちらに向けてくるが……二人とも顔が引きつっていて、笑っているのか怒っているのか、良く分からない変な顔になっている。


「ハハハ……まさか……いや、そんな……」


「剣に精霊なんて……何が起きている……」


「ねぇねぇ。この剣って高く売れたりするの?」


アスカがライラックさんに尋ねた途端、


「売るなんてとんでもない!! これはとても貴重な剣なんだぞ!!」


温和な表情のライラックさんが、急に怒髪天した。


「「ひぃっ!」」


俺とアスカはあまりの豹変ぶりに言葉をなくしてしまった。ライラックさんすごく恐い人なんだな。


「あっ……す、すまない。怒るつもりではなかったんだ。びっくりしてしまって。」


ライラックさんはすぐに前の温和な表情に戻り、頭を下げて俺たちに謝ってきた。


「まさかこんな鑑定結果が出るとは想像していなくて……すまん。」


「そうだな。ライラックが驚いてしまうのも良く分かる。私も精霊が封印されている剣は初めて見たぞ。しかも進化の剣だと? 聞いたことがない剣だ。ライラックは聞いたことがあるか?」


ようやくクラトスさんが現実に戻ってきて会話に入ってきた。


「いや、私も初めてだ。詳しい鑑定の結果を確認しよう。」


ライラックさんの言葉で俺たちは再度、黒い剣の上に示された鑑定結果を確認することにした。



名称 封印されし進化の剣

状態 封印(剣)剣としての機能が封印されている

   封印(精霊)精霊が封印されている


ステータス効果

HP   ???

MP   ???

からだ  ???

ちから  ???

まほう  ???

めんえき ???

うん   ???


スキル

 所有権(デコト・ボーコ専用)

 進化(封印により使用不可)

 不壊

 顕現

 

「……これってすごいの?」


アスカの疑問に答えられる人はいなかった。俺たちは不思議な沈黙に包まれていた。


「鑑定できないことがあるなんて……」


ライラックさんは鑑定で読み取れないことに驚き


「顕現ということは……精霊が出てくるのか……精霊が……」


クラトスさんは精霊に驚いているようだ。


「……どうなの? すごいのこれ?」


アスカは誰も答えてくれないので、俺に聞いているようだ。しかし、俺はこう答えるしかない。


「さぁ……」


俺に分かる訳ないだろ。


「……デコト・ボーコさん、鑑定させていただきありがとうございました。まさか鑑定できないものがあるなんて……大昔に神様によって作られた武具は鑑定できないとおとぎ話でしか聞いたことはありませんでしたが、まさか実在していたとは……。」


ライラックさんが俺と黒い剣を見ながら話してくる。神様が作った武具ねぇ……シークレットアイテムは神様の武具なのかもな。


「あと、この剣で検証できるとしたら……」

「顕現だな。」


領主のクラトスさんが会話に入りこんできた。


「ディー様、貴重な経験をありがとうございます。この剣はおそらく封印の影響でスキルや剣としての切れ味がない状態なのでしょう。また、精霊を宿している模様。精霊など、おとぎ話でしか聞いたがありませんぞ。」


クラトスさんが興奮した様子で話してくる。おとぎ話か……どんな話しなんだろう。


「ねぇねぇ、顕現ってスキルさ、ディーなら使えるんじゃない? 精霊を呼んでみようよ! 何かわかるかも知れないよ?」


アスカがこっちを見ながら提案してくる。


「危険じゃない?」


『顕現』って何でか分からないが、格好いい響きで好きだけど、良く分からないからなぁ。俺は不安げにクラトスさんとライラックさんを見る。


「何とも言えませぬが……スキルなので使ってみてもいいのではないでしょうか」


「鑑定の結果で呪いはありませんでした。……今まで使われて何もないのであれば、おそらく大丈夫ではないでしょうか。」


どちらもアバァウト! たぶんメイビーって言われても……でも、他に検証の方法もないしな。顕現して問題あれば謝ろう。きっと許してもらえるよね? ねっ?


「……分かりました。スキル使ってみます。」


俺は、布の上に鎮座している鑑定された黒い剣をつかんで空に向かって掲げながら唱えた。


「顕現!」


言葉とともにスキルが発動したのを感じた。


そして世界は白い光りで包まれていった。

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