会社員はⅩⅧ日目に謎解きをする(回想)

「ふぅむ……。ダンジョンから光に包まれて戻ってきたか……」


ギルドマスターはあごに手をやり、視線を館の天井に向けて思案している。


「……さっきからそう言ってるでしょ。」


アスカも疲れている様子だ。まぁ、ダンジョンから出てきたと思ったら、さっきから同じ説明を何度もしているからな。俺もカグヤも同じように疲れている。


領主の館に戻ってからは大変だった。執事のセバスさんに説明して、領主様に説明して、その間に呼ばれたギルドマスターに説明して……さらに他の人にも説明して……


はぁ。


「……疲れてるところすまんな。お前たちがダンジョンに行ったのは事実だから、お前たちの話しを疑っている訳じゃないんだがな。なにせ、こんなことは初めてだからな。光る石碑にダンジョンからの脱出。そして、そいつの変化もな。」


ギルドマスターの視線を辿りながら、俺も机に置かれたそいつを見た。



黒い剣だ。



ただ、光っている。


そう、光っているんだ。淡い光だけど、もともとが黒いから黒から淡い白へと点滅を繰り返しているのがよく目立つ。


「なんなんだその剣は?」


「俺も知らないよ。ギルドの倉庫に落ちていたんだ。むしろ、ギルドマスターのブードルさんでも分からないのか?」


ギルドマスターに尋ねられた俺は逆に尋ね返した。


「もともと倉庫に入れた覚えはない。倉庫に誰かが落としたとしても、この剣を持っている冒険者がこの街に来ていたのなら話題になっていると思うんだが、そんな話しは聞いたことが無い。それに、これに使われている金属が分からんのも不思議だ。」


……そういえば、さっきまでゼン爺が来てたな。小さなハンマーを片手に剣を調べていたが結局どんな金属か分からないようだった。最後の方はこの剣を渡せ、調べさせろって怒鳴っていたけど、アスカから貴方に私たちの武具は触って欲しくないって言われて、ゼン爺が、ぐぬぬ……って唸っていたっけ。ざまぁみろだ。



コンコン。


部屋の扉が叩かれた。


「入りなさい。」


「失礼します。」


セバスさんが入ってきて、領主様に耳打ちしている。領主様はセバスさんの話しに頷きながらギルドマスターに話しかける。


「懇意にしている商人が今からこちらに顔を出してくれるそうだ。」


まだ続くのか……その気持ちが出たのだろう。領主様は苦笑しながら


「この商人で最後だから。これが終わったら今日はここで泊まっていきなさい。」


「ありがとうございます。」


アスカは食い気味に答えて、頭を下げる。おい、アスカ。遠慮ってのはないのか。


コンコン。


アスカを注意しようと思った矢先、再び部屋にノックの音が響いた。


「入りなさい。」


「失礼します。」


登場したのは、ふくよかな男性だった。着ている服はゆったりとした服装で所々に貴金属があしらわれていて、手の込んだ服であるのが一目で分かる。その男性はこちらにチラっと視線を送り、領主様に一礼をしている。


「領主様、お呼びとのことで参上いたしました。どういったご用件でしょうか?」


「ハハハ。ライラックもいつも通りでいいよ。今日はお客さんではないからね。」


「そうでございましたか。では……。クラトス、急に呼び出すなんてどうした?」


急に砕けた口調で領主様に話し始めたことで、俺たちは呆気に取られてしまった。


「すまんな、ライラック。この机に置いてある剣なんだけど……」


「この剣か? それよりこの二人について教えてもらいたいんだがな。」


「あ、俺たちは……」

「アスカだよ。こっちはディー。カグヤとパーティー組んで冒険者してます。よろしく。」


「ライラックだ。この街で商人をやってる。必要なもんがあったら商店で買って行ってくれ。領主のクラトスとは子供のころからの付き合いなんだ。よろしくな。」


……領主様と近い関係だからこんな砕けた会話が出来るんだな。急だったからびっくりしたぜ。


「それで、この剣か……ん?」


「どうしたんだライラック?」


「この剣……所有者登録? ……デコト・ボーコ専用ってなってるぞ。誰だデコト・ボーコってのは?」


な、なんですと~!? 俺専用ってどういうこと?

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