会社員はⅩⅢ日目になってダンジョンへと向かう(5)

「で、何が分かったの?」


松明をかかげながらアスカが聞いてくる。


「松明が揺れているんだよ。不自然にな。」


俺は謎解きの答えを教える子供みたいに、ドヤ顔をしながらニヤッとほくそ笑んだ。


「不自然? そうですか?」


カグヤは松明を見ているが、よく分かっていない様子だ。


「あぁ。俺から見てアスカが右、カグヤが左だ。そしてそれぞれ持っている松明の火だが、アスカのが左から右、カグヤのが右から左に揺れている。」


「……そうね……それで?」


アスカもカグヤも松明の火がその通りに揺れているのを見て確認するがピンときていない。


「そして俺の松明の火は真っすぐに奥から入り口に向かって揺れている。俺の予想が正しければ……」


カツカツ……


俺は2人の間を通り、真っすぐ石壁へと向かって歩く。石壁に松明を当てる。重厚な石の感触だ。そのまま上へと松明を上げていく。思った通りだ。


「あぁ!」

「まぁ!」


だいたい2メートルくらいの高さか? 壁に当てていた松明の感触がなくなり、石壁の向こうへと消えた。その瞬間、石壁にぽっかりと穴が開いているのを俺たち三人は見つけることが出来たんだ。


「さっきまで無かったのに……」


アスカは驚いているが俺も驚いているよ。さっきまで捜索していた時にはただの石壁になっていて見つけられなかった。松明を入れたとたんに穴が出来たんだ。何故だ?


「……何か魔法でもかけられていたんでしょうか。」


カグヤがつぶやく。なるほど、その可能性はあるかもしれないな。


「それなら……ここにお宝があるかもしれないってこと!?」


アスカが目を「$」にしている。


「まだそうと決まったわけではないだろ。何があるか分からないから俺が先に行くぞ。様子見をして安全そうなら2人も呼ぶから来てくれ。」


俺はそういって石壁に向かってジャンプをした。足場になりそうな、でっぱりもあり、特に苦労することなく2メートルの高さに出来た穴にたどり着く。


「思ってたより天井も高くて、立ち上がれるくらいに大きいな。じゃあ、中を覗いてくるぞ。待っててくれ。」


「ずるい~。私も行く~。」


「お、おい。アスカ待てって。」


紐をつけた松明を投げ入れ、安全を確認している間に、アスカもジャンプをして穴に入ってきたではないか。


「何があるか分からないんだぞ。危ないって。」


「そう言って、先にお宝を見ようとしてるんでしょ。危険かも知れないのなら、皆で行こうよ。ほら、カグヤも行こう。」


アスカは下で待っているカグヤに手を差し伸ばす。はぁ、仕方ないな。


「分かった。皆で行こう。カグヤもいいか?」


「はい。実は私もワクワクしていたので、楽しみです。行ってみましょう。」


アスカの手を握りジャンプしてきたカグヤも笑顔で話している。


松明をかかげながら歩いていると、道は曲がりながら先へと続いているようだ。通路を曲がると、その先から光が漏れているのが確認できた。まるで高速道路のトンネルから出るところのような明るさだ。俺たちは慎重に進みながら、その先を覗いてみた。


……なんだここ? ……あれは……石碑?


「……ほぇ? なにこれ?」


「……明るいですね。」


先の空間は六畳ぐらいの部屋になっていて、部屋の中央には装飾が施された石碑が鎮座していた。……光りながらだが。


「2人は、これが何か分かるか?」


「石碑ですね。何故光っていてここにあるのかは分かりません。」


「ダンジョンが初めてだから分からないよ。」


カグヤもアスカも光る石碑に驚いている様子だ。


「とりあえず、ゆっくり近づいてみよう。罠があるかも知れないし、何かが出てくる可能性もあるからな。」


「はい。」

「了解。」


俺たちはゆっくりと光る石碑へと近づいていった。


「……何も起きないな。」


石碑の近くに寄ってみたが、特に変化はない。装飾は幾何学模様みたいなデザインが施されている。俺はもちろん、アスカもカグヤも見たことがないデザインとのこと。


ヒントになるようなことは何もないか……


「……えい。」


「お、おい!」


アスカが掛け声とともに触った。


…………。


……。


何も起きないようだ。


「……何も起きないか。」


「とりあえず調べてみます?」


「そうだな。このまま立ってるだけだとラチがあかないしな。」


俺たちは石碑を手で叩いたり、色々と触ってみたり、押したり引いたりしてみたが、特に変化はなく、石碑は最初見た時と変わらずに光ったままだった。


「結局なにも無しか……。」


「あ~ぁ、お宝だと思ったのにぃ。」


「残念でしたね。」


俺たちの期待が大きかったのか、石碑から何も得られなかったことに対して、落胆が大きかった。


「あとは……割ってみるか?」


俺は自分の黒い剣を手に取ってアスカとカグヤに聞いてみる。


「剣が壊れるかもしれないし止めといたら。」


「割れますかね? 切れ味が悪くなりそうですよ。」


「切れ味って、こいつ元々切れないからね。ここで壊れたら、新しい剣を買って、今度こそ剣術スキルを上げてやる。」


物は試しと、俺は一度やってみることにした。破片が飛ぶと危ないので、アスカとカグヤには少し離れてもらう。


2人が離れたのを確認して、俺は黒い剣を頭上にかかげ、石碑目指して振り下ろした。


「おぅりゃ!」


掛け声とともに振り下ろした剣が石碑とぶつかる瞬間、強い光りが部屋中に溢れ、俺たち3人を包みこんだ。


「ディー!? 大丈夫!?」


「ディー様!?」


眩しい光りは俺の視界を白く、真っ白な世界へと誘っていった。

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