会社員はⅩⅢ日目になってダンジョンへと向かう(4)
「はぁ、はぁ……。 2人とも、大丈夫?」
「怪我はしたけど、まだいけるよ。」
「はい。まだ戦えますよ。」
「とりあえず、ここでやり過ごそう。敵は止まれないみたいだし、中には魔物の姿も無かったよ。」
俺はドカッと音を立てながら、地面に座りこんだ。アスカやカグヤも地面に座り込んで怪我の具合を確認している。
「ごめんね。私が山に行きたいって言ったばかりに……。」
「アスカのせいじゃないさ。俺たちも賛成したんだから。」
「そうですよ。皆が納得して来ているんですから。アスカさんのせいじゃないですよ。」
アスカがショボンとした表情で謝ってくる。俺はスカの頭を撫でながら気にするなと伝え、カグヤはアスカの隣に座り、アスカを励ましている。
「でも、あいつら固いな。魔法じゃないと倒せないし。他の冒険者達はどうやって倒してるんだろうな。」
「本当ですね。魔法が使える冒険者は少ないと聞いていますから……この山は冒険者から不人気の場所なんでしょうね。」
「2人ともありがとう。たしかに他の冒険者見ないもんね。頂上に行くまでにまだまだいそうだね、魔物。」
アスカはまだ表情は暗いが、会話に入ってきてこれからのことを考えるくらいには気持ちを持ち直してきた。
「そうだな。あいつらの攻撃は予想以上だったからな。次は何とか防げるかも知れないが……」
俺たちは山の中腹までは難なく来れていた。魔物も弱く、戦いに困ることもなかったが、山登りにカグヤの体力が奪われていた。中腹地点からは草木がなくなり、足場が岩や砂だらけとなり、余計に足に負担がかかるようになった。
疲労が身体の動きを鈍らせ始めたころ、あいつらは突如として現れた。いや、転がり落ちてきたんだ。
「……! 落石だ! 気をつけろ!」
最初は岩が落ちてきたんだと思った。俺たちは岩の直撃にならないように横に移動を開始した。しかし、横に移動しても移動しても、同じように岩も移動しているように、俺たちに当たるようなコースで進んでくるじゃないか!
「どうなってんだ!?」
「分からないけど、避けるしかないわよ!」
近づいてきた岩から少しでも距離を取り、さらに移動していると岩が俺たちの横を通り過ぎるコースになった。これで一安心だと思っていたら
岩が急激にこちらに向きを変えてカグヤに向かって飛び跳ねてきたんだ!
「きゃぁぁ!」
「危ない!」
パァァァン!
たまたまだった。水の膜を張れば多少はクッションになるのではないかと思い、水魔法でクッションボールのようなものを作って岩を受け止めることに成功したんだ。思っていたよりも大きな音が響き、間に合わなかったかと思ったが、
「……冷たいです。あれ?」
驚いて座り込んでしまったカグヤの不思議そうな声とケガをしていない様子が確認できてホッとした。
「大丈夫だった?」
「はい。ディー様、ありがとうございます。」
座り込んでしまっていたカグヤに手を差し伸べて起こす。
「何だったんだ、さっきの岩は……」
「ディー、これ見て。」
アスカに声をかけられ、そちらを見てみると
「これは……」
そこには背中に岩を生やしたトカゲのような生き物が転がっていた。
「魔物ね。だから私たちに向かって落ちてきたのよ。きっとそうだと思うわ。」
「マジか!?」
「マジよ。それに……」
アスカは頂上を見上げた。
「マジか……」
頂上からはいくつもの岩が転がってきているのが見て取れた。
「ど、どうしましょう?」
カグヤが転がり落ちてくる魔物を見て動揺している。
「と、とりあえず横に移動しながら逃げよう。どこか洞穴とかでやり過ごせる場所を探すんだ。」
俺たちは疲れた身体にムチを打ち、魔物から逃げた。岩のような魔物はまっすぐ俺たちに向かってきたり、直角に曲がって俺たちに飛んできたりと俺たちに襲い掛かってきた。
何度かアスカの剣で応戦したり、カグヤや俺の魔法で応戦してみたが、剣での攻撃は魔物の岩みたいな表皮に阻まれるだけでなく、体勢を崩されたところに別の魔物が勢いよく突っ込んできた。運よく肩に当たったことで致命傷は免れたが、しばらくは剣を満足に使えない状態だった。
魔法があたれば魔物にとって致命傷のようだが、足を止めることなく避けながらの魔法では命中率も安定しなかった。
「……あぁ! あそこ! 洞穴じゃない!?」
しばらく走りながら岩の魔物を回避していたら、アスカが洞穴らしき穴を見つけて、俺が中に魔物がいないことを確認して今に至るというわけだ。
「……どうするかねぇ……」
魔物を避けて頂上を目指すか止めるか……体力がある内に戻るのがいいよなぁ……
くしゅん
可愛らしい咳が聞こえた方向を見ると、カグヤが顔を赤くしていた。
「す、すいません。」
「気にしなくていいよ。濡れたまま走っていたんだし、むしろ風邪ひかないようにしないといけないね。カグヤ大丈夫?」
「はい。大丈夫です。洞穴の奥から、ひんやりとした風が吹いてきたからびっくりしただけです。服もほとんど乾いていますから、安心してください。」
カグヤが笑顔で答える。寒さに震えている感じはなさそうだ。
「分かった。洞穴の奥か……特に魔物はいなかったが……どこかに通じているのかも知れないな。」
「外に出るのも危険だし、少し調べてみない? 頂上はしっかり準備しないと難しそうだからね。少しは冒険してもいいんじゃない? もしかしたら山から下りられるかも知れないし。」
アスカが調べるのに乗り気だ。
「一度、覗いてみるか。危険だったらすぐに逃げるぞ。」
「はい。」
「は~い。」
俺たちは松明を準備して、ゆっくりと洞穴の奥に向かって進んでいった。奥へとしばらく進んでいくと、道を塞ぐように巨大な石が俺たちの行く先に立ちはだかっていた。壁の向こうから風が吹いてきているようで、松明の火がゆらゆらと揺れていた。
「たしかに風が吹いているけど……この壁あると行けないな……」
俺は諦めようとしていたが
「風が吹いているってことは穴がどこかに開いているんじゃない?ちょっと調べてみようよ?」
アスカがそう言っては壁に張り付くように調べている。
「せっかくですし……何か見つかるかもしれませんよ?」
カグヤもそう言って壁に松明の火をあてて、何かないか調べていた。
「……そうだな。とりあえず調べてみるか……」
俺も2人に倣って壁を調べてみた。
壁は洞穴と同じ材質で特に変わった点は見当たらない。
材質も石のようで、価値のある鉱脈でもなさそうだ。
以上だ。特に目新しいものは何も無かった。
俺は壁を調べている2人から離れ、洞穴の横壁も調べる。
特に変わった点はない。
以上だ。
代り映えのない景色と探索の手ごたえのなさに、俺はしばらくアスカとカグヤを見ていた。2人は松明を掲げながら壁を調べている。
あれ?
あれれ?
急に違和感が全身を襲った。今まで何とも思わなかったことが急に不可思議な現象に見えてくる。
「アスカ、カグヤ。すまないが松明を高く持ち上げてもらえるか?」
「何? 何か見つかったの?」
「え? 松明ですか……こうでいいですか?」
2人は探索の手を止め、松明を高く掲げた。それを見た俺はさらに確信を得た。
「アスカ、当たりかもしれんぞ。ここにはきっと何かある。」
俺はニヤッと笑い、洞穴の謎を攻略していくのだった。
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