会社員はⅩⅡ日目に装備を更新する(3)
率直に言おう。
感覚が狂ってしまった。
これまで初心者装備で戦えていたのが、ここまで影響があるとは思わなかった。
「今日はダンジョンに行かずに、装備に慣れる必要がありますね。」
カグヤはダンジョンに行く途中に出てきたゴブリンを倒した後、俺たちの戦い方を見て言ってきた。
俺とアスカは頷くしかなかった。
先ずは俺だが、防具は以前の初心者装備と大差ないが、武器がひどかった。
斬れないのだ。全くといっていいほど。これはもう剣の形をした鈍器だ。ゴブリンに斬りつけても斬れないのだ。
森から出てきたゴブリンを倒そうと俺は黒い剣を構えた。打撃武器として攻撃をしていたら良かったのだが、見た目につられ、剣として斬り倒そうとしてしまったんだ。
「グギャァァ。」
奇声を上げながらゴブリンが突っ込んでくる。ゴブリンの肩を目がけて黒い剣を振り下ろす。
ガン!
「え?」
俺の攻撃はゴブリンの肩で止まった。ゴブリンは痛みで動きが一瞬止まったが、すぐに立て直し、俺に粗末なこん棒で殴りかかってきた。
「グッギャ! グッグギャァァ!」
「やばっ……」
俺は予想していなかったためか、立ち直るのがゴブリンより遅れてしまった。目の前に迫ったゴブリンが、こん棒を振り上げる。こん棒に当たったら痛いよなと思っていると
ゴォゥ!
俺のすぐそばを熱風が通り過ぎ、ゴブリンにぶつかった。前にもあったなと思うが、前と違うのは、ゴブリンのそばにいた俺にも火の粉がふりかかってきたことだ。
「あっ! あっつ! あちぃ!」
俺とゴブリンは炎まといながら、地面を相手にダンスを踊った。俺は軽傷で済んだが、ゴブリンはダンスを止めると、そのまま消えていった。
俺は地面から起き上がらず、寝ころんだまま炎の飛んできた方向を向いた。
やっぱりだ。アスカが杖をこっちに向けて立っていた。火魔法が飛んできたらか、アスカが魔法を放ってくれたのは分かっていた。助かったと思うが、もう少し俺に当たらないように出来なかったのだろうか。
「アスカ……」
「う~ん……あ、ディーごめんね。なんか、いつもとなんか違うの。」
アスカはアスカで、感度が高まった嗅覚と聴覚に慣れないようで、身体が思った通りに動かしにくいようだ。魔法も俺に当てないように威力を調整して放ったつもりが、俺の近くで高威力になってしまったと言っていた。俺だけに当たっていたらと思うとゾッとした。
そんな訳でカグヤの助言に素直に従い、今日は装備になれることと、魔法を鍛えることとなった。そのおかげか、カグヤは魔法でもゴブリンが倒せるようになり、アスカは短剣と火魔法を鍛え、俺は黒い剣を使って剣術を鍛えるつもりが、打撃武器術というスキルを覚えた。
……これって、完全に剣の形をしたこん棒? メイスだよね?
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