会社員はⅩⅡ日目に装備を更新する(2)
「こんなところか……」
俺とアスカは防具を選んだ。初心者装備と大きく変わったのは鎧の色だ。初心者装備は濃い茶色だったが、今度のは黒い。夜に出てくる狼の毛皮を鞣して作った鎧だ。鉄で出来た鎧もあったが、重すぎて動けなかった。
お揃いで手を保護する籠手とブーツを選び、全部を着込んで動きやすさを確認していると
・ノーマルクエスト:初心者装備を卒業しろ
初心者装備から新しい装備へと変更する
成功報酬:同系統の装備にするとボーナス補正がつくようになる
『同系統:狼シリーズ(防具)
ボーナス補正:四足歩行時の移動速度+10%』
……四足歩行? したことないし、したくない。二足歩行で十分だ。しかし、装備によってボーナス補正がつくとなると、いろんな装備を試したくなるな。
「ねぇ、ディー。防具はこれでいいとして、武器はどうする?」
俺と同じ装備を着込んだアスカは着心地と見た目を気にしながら聞いてくる。
「そうだな……剣術があるから剣にするか……アスカとカグヤはどうするんだ? 魔法を使うから杖を探してみるか?」
置いてある武器を見ながらアスカとカグヤに話しをする。壁にかかっている大型の武器やタルに入っている剣などを見て回るが、どれが良いのか違いが分からない。
「う~ん……杖があればいいけど……無さそうじゃない?」
「そうですね。杖は持つ人に合わせて作るのであれば、お金もかかっているはずです。ここに置いておくことはないんではないでしょうか?」
「そうだなぁ……うん? これって……」
俺はタルの底に落ちていたものを拾い上げた。それは白いナイフだった。
「白いな。なんの素材で出来てるんだろ?」
「おそらく何かの魔物の牙を研いで作られたんではないでしょうか。」
「ふ~ん。」
俺は白いナイフを掲げ、眺めていると
『同系統:狼シリーズ(武具全身)
ボーナス補正:嗅覚アップ(微)、聴覚アップ(微)』
……同系統ということは、狼の牙だな。それよりも嗅覚と聴覚アップか。確かにさっきから埃っぽい匂いがするようになった気も。……聴覚はあまり感じないな。ほんの少しだけ音が大きく聞こえるような……。
「狼の牙で出来てるみたいだね。私にも持たせてよ。」
アスカがそう言って手を出してくるので、俺はアスカにナイフを渡した。
「気をつけろよ。はしゃいで傷つけんなよ。」
「分かってるよ。ふ~ん。鉄のナイフより軽くて持ちやすいかも。これって壊れやすいのかな?」
ナイフを振って遊んでいるアスカがカグヤに聞いている。
「鉄製品と同じぐらいの固さはあるはずなので大丈夫だと思いますよ。」
「なるほどなるほど……うん? 何か変な臭いするよ?」
アスカがナイフを振っていると動きを止めて鼻を抑えこちらを見てくる。
「おい、何でこっちを見るんだ。俺は何もしてねぇぞ。さっきまで何とも無かっただろうが。」
「そうだよ。さっきまで何とも無かったよ。ディーの側に来るまでは。」
アスカだけでなく、カグヤもこっちを見ていた。そして少しずつ距離を取り出した。
「だから俺を犯人扱いするな。オナラなんてしてないわ。どんな臭いなんだよ?」
「何か……埃っぽいような……金属のような?」
「はぁ……それならそのナイフを手にしたからだろう。アスカも俺と同じ装備だからな。同系統ボーナスが発生して嗅覚が過敏になったんだろ。」
俺はアスカの回答に、ため息をつきながら返事をした。そんなことで俺を貶めないで欲しいものだ。
「クンクン……でも、あっちからしている気がするよ?」
そう言ってアスカの指先が示すのは、武器や防具ではなく俺……の後ろに並んでいる食料が置いてある場所だ。
「……何か腐ったものでも置かれてるのか? 」
興味が出た俺たちは、クンクンするアスカを先頭に食料置き場へと向かっていく。小麦などの袋だったり、保存の効く乾物などを見ながら、アスカへとついていく。
「……これ……かな?」
そう言ってアスカが取り上げたのは、両刃のついた標準的な大きさの黒い剣だった。
「剣だな……何でこんなところにあるんだ?」
「装飾まで黒いですね。何の素材で出来ているのでしょうか?」
俺はアスカから剣を受け取る。重量感があるように見えたが、持ってみると手になじむ重さだ。長さも以前から使っている剣と対して変わりなさそうだ。
「軽く振ってもいいか?」
「どうぞ。」
「いいよ。」
剣についている土埃をはたいて落とし、軽く振ってみる。
ブン。ブン。ビュン。
「……俺、この剣にする。何かとても使いやすい。」
「そう。なら、私は木の杖と、予備にこの白いナイフにするわ。」
俺たちの装備がやっと決まったなと、思ったら
・シークレットクエスト:世界中の一品を集めろ
世界中に散りばめられている品物を探しだせ( 001/358 )
成功報酬:???
難易度:???
……これってゲームでいう、やりこみ要素ってやつじゃないか……全部集めるのはやりこみ好きの人しかできないな。俺には無理だ。
それにしても、この剣は特別なんだな。改めて漆黒の剣を光に当てて見ると、剣の持ち手にまで細かな装飾が施されているのが分かる。
「この剣についてはギルド職員に聞けば分かるか。」
「そうですね。」
俺たちは装備を決めて、倉庫の前で待ってくれていたギルド職員に声をかけた。
「……何ですかその剣は? え、倉庫にあった? ……在庫管理には記載が無いですね…… 食料品のところに落ちていたのですか? 誰かの落とし物でも無いはずですので…… 持って行ってもらっても構いませんよ。」
ギルド職員は紙をめくって帳簿を見ていたが、帳簿に記載されていないことを確認すると、あっさりと持っていくことを認めてくれた。
「え、いいんですか? 後で問題になりません?」
「もし、他の冒険者が所持していたものだったとしても、自分の武器を管理出来ない冒険者が悪いのです。悪質なものについてはギルドは介入しますが、今回のようなことは自己責任の範疇ですので。では、これで失礼します。」
そう言ってギルド職員は俺たちを置いてギルドへと戻っていった。
「……俺たちはどうする?」
「は~い。ダンジョンに行きたいで~す。」
アスカが勢いよく手を挙げてダンジョンに行きたいと話す。
「一度、ダンジョンに行って中の敵が倒せるか挑戦しますか? 難しいのであれば、周辺の森で鍛錬ですかね。」
「……そうだな。一回ダンジョンを覗いてみるのもいいかもな。装備の具合も確認したいし……よし。じゃあ今日の目標はダンジョンの様子見だ。ダンジョンに入る前に新しい装備の使い勝手を確認してダンジョンに行こう。」
「はい。」
「は~い。」
カグヤとアスカも俺の決定に問題ないようで頷いてくれる。さて、新しい装備だ。楽しみだな。俺は人知れず剣を強く握っていた。
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