会社員は十日目に簡易キャンプへと向かう(3)

さて、カグヤも参加できることになったが、いきなり簡易キャンプに向かうには準備がいるとのことで、明日の朝に出発となった。また、今回はロジャーさんは不参加だ。


領主のクラトスさん護衛が本業だし、仕方ないな。まぁ、簡易キャンプ内なら問題ないだろう。もし、ダンジョンへ行くとなっても、ダンジョンの様子を冒険者から聞いてからでも遅くないしな。必要なら冒険者を雇うか、ロジャーさんが参加できる時にダンジョンに行けばいい。


先ずは、俺たちとカグヤのレベルアップに励むとするか。


俺とアスカは領主のクラトスさんから、冒険者ギルドから協力を得られるようにと手紙を書いてくれたので、その手紙を持って冒険者ギルドを訪れている。


「冒険者ギルド来るの久しぶり? ……だったよな?」


「クラトスさんのお手伝いしてたしね。3日ぶりかな。」


「領主様だろ。まだ、そんなに日にち経っていないんだな。濃厚過ぎてもっと過ぎている感じだよ。」


話しながら窓口に向かっていく。


「はい。どうされましたか?」


「あ、すいません。領主様から手紙を預かってきたので、確認してもらえますか?」


窓口の受付嬢に手紙を渡しながら話しかける。


「え、領主様からですか? 確認させてくださいね。」


手紙を預かり、封筒を眺める受付嬢。透かして見ようとしてるけど、何か仕掛けでもあるの?


「本物みたいですね……失礼ですが、ギルドカードを見せてもらえますか?」


そう言われるので、素直にギルドカードを提示する。


「……この手紙を入手された経緯を教えていただけますか?」


……あれ? 疑われてる俺?


「経緯って……領主様から直接いただきましたが?」


「……そうですか……少しお待ちください。」


そう言って受付嬢は窓口を離れ、奥へと消えていった。


「アスカ、俺って疑われてる?」


「……新人はクラトスさんと知り合うはずないからね。」


そりゃそうだ。


「お待たせしました。ギルド長が直接話しをしたいそうなので、ギルド長室まで来てください。」


「はーい。行きまーす。」


「何でそこだけアスカが返事するかな。あ、もちろん行きます。どちらですか?」


「あ、はい。こちらです。」


受付嬢の案内に付いていくと、ある男性とすれ違う。


「あ、メモの男の人だ。」


「うん? あぁ、お前たちか。こっちに来てたんだな。」


「あ、簡易キャンプではありがとうございました。」


「あぁ、そんなこと気にしなくてもいいぞ。あっ! そうだ、お前な、ウソを言うなよ。『ハーベスト』のヤツらはお前のこと知らないって言ってたぞ。」


「え? ウソだ。そんなことないはずですよ。」


「本当だ。俺、もう少しで殴られるところだったんだぞ。じゃあな、これからは迷惑かけてくるんじゃねぇぞ。」


そう言ってメモの人は立ち去っていった。


「あ、ちょっと!」


待って! どういうことなのか説明してくれ!


俺が追いかけようとすると


「デコト・ボーコさん、ギルド長がお待ちです。こちらに来てもらえますか?」


受付嬢はドアの前で待っている。そこから声がかけられ、メモの人を追いかけることが出来なかった。


『ハーベスト』の皆が俺のことを知らないだって?


そんなバカな……いや、気のせいだ。だって、俺は『ハーベスト』の皆に連れてこられたんだ。知らないはずがない。


「ディー、メモの人はまた会って話しを聞けばいいじゃん。」


……そうだな。仕方ない。また会った時にでも詳しく聞けばいいな。


「……そうだな……すいません、お待たせしました。」


受付嬢は何も言わず、笑顔でドアをノックして俺たちをギルド長室へと招き入れてくれた。




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