会社員は十日目に簡易キャンプへと向かう(1)
「そうでしたか……」
森から戻ってきたディー達は疲れた様子のカグヤを領主の館へと運びこんだ。カグヤをセバスに預けた翌日、俺たちは領主の客間で領主様に森での活動を報告した。
領主は客間のソファーに座りながら、ディー達からの報告を聞いていた。当初は娘カグヤが想像以上の才能を持っていることに喜んだが、その後の行動やダンジョンから溢れ出たゴブリンの話しを聞くと一転、険しい表情で話しを聞いている。
「冒険者からも同じような報告が挙がってきております。原因は間違いなく新しくできたダンジョンでしょう。このまま魔物が増えてしまうと、森から魔物が溢れ、住民に被害が出てしまうかもしれません。……ディー様、今後もご協力をお願い致します。」
領主のクラトスさんはそう言って、ソファーに座りながら頭を下げる。
「領主様、頭を上げて下さい。もちろん、今後もお手伝いさせてもらいますので。」
慌てて、領主様に声をかけて頭を上げさせる。
「そう言っていただけると……ディー様、これからも宜しくお願い致します。」
領主のクラトスさんはホッとした表情を見せる。
コンコン。
控えめなノックが客間に届く。
「入れ。」
領主がドアに向かって声をかける。
「失礼します。」
ドアが開き入ってきたのは、カグヤと執事のセバスさんだった。カグヤの表情は多少良くなった気もするが、まだ疲れは取れていないようだ。
「どうした?」
領主のクラトスさんからカグヤに声かけがある。
「……皆さんに謝りたくて……この度はご迷惑をおかけしました。」
そう言って、カグヤは俺たちに頭を下げてきた。
「カグヤ、大丈夫だから。先ずは身体を休めてきてくれ。」
俺がカグヤに伝える。
「ディー様、ありがとうございます。カグヤ、ディー様の言われる通りだ。席を外して休んでこい。」
領主のクラトスさんが声をかけたのにも関わらず、カグヤは頭を下げたまま動こうとしない。
「……? セバス、カグヤを部屋に連れていけ。」
「お嬢様……」
セバスがカグヤに声をかける。
「ご心配いただき、ありがとうございます。ですがもう一度、もう一度だけ機会を頂けませんでしょうか。」
領主のクラトスさんは、頭に手を当てて横に振る。領主としても父親としても娘のことを心配しているんだろう。
「今のお前には無理だ。自分でも分かっているはずだ。」
領主のクラトスさんがカグヤを見て声をかける。カグヤは顔を上げてこちらを見てくる。
「……ディー様……」
俺はそれに返事をせずに領主様に声をかける。
「領主様、僕ら2人とロジャーさんの3人でダンジョンの攻略は出来るものでしょうか?」
「……現状は情報も少ない状況です。難しいと言わざるをえないでしょう。」
領主のクラトスさんはため息をつきながらこちらに顔を向けて、ソファーに身体を預ける。カグヤについては一旦、棚上げ状態にする。
「ダンジョンについては今後どうするんですか?」
「……冒険者に任せましょう。ディー様にお願いしたいところですが、無理をしてもらう必要はありません。もし時間がかかったとしても、簡易のキャンプ場も作ってあります。そのうち攻略出来るでしょう。」
「なるほど。」
なるほど。『ハーベスト』の皆がダンジョン攻略するのかな……
……ん!?
俺、『ハーベスト』の皆に会いたいと思ってたのに、何か流されていて忘れてたぞ。
「……あの、領主様。」
「何でしょうディー様?」
「ダンジョンの攻略には冒険者を使うと言われていましたが、森に溢れているゴブリンなどはどうされるのですか?」
「それについても冒険者にお願いしようかと思っています。」
「俺たちも簡易キャンプで、森に溢れるゴブリン退治をやります。」
「おぉ! それはとても助かります。」
領主のクラトスさんが笑顔で話してくる。
「カグヤも連れて行こうと思います。」
そう言ったとたん、領主のクラトスさんの表情が固まった。
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