会社員は九日目に森に戻る(3)
火の玉を胸に受け、水の矢を頭に受けたゴブリンは火だるまになって溶けるように消えていった。
「なんと……こんなところまで……皆さん、このゴブリンはダンジョンから出てきたゴブリンのようです。気をつけて下さい。」
ロジャーさんが驚いた顔から引き締まった表情で話す。
「ダンジョンから出てきたのは違うのですか?」
「全く違います。とりあえず倒してしまいましょう。」
「了解。」
いなくなったゴブリンに気づいたのか、残りのゴブリンが騒ぎ出し、こちらを見つけてさらに騒いで、こちらに向かってくる。
「グギャグギャ! グギャァ。」
血の付いたこん棒を振り回しているゴブリンが一匹と……犬みたいに四足歩行でこっちに襲ってくる個体がいる! しかも、なかなか早いぞ!
「早いのは任せて下さい。もう一体を先に倒して下さい。」
そう言ってロジャーさんは先に近づいてきた四足のゴブリンが攻撃してきたのを盾で受け止める。
「俺たちはもう一体のゴブリンにあたるぞ。」
杖から剣に持ち替えてゴブリンを待ち受ける。その時、アスカが叫んだ。
「木の上よ! 気を付けて!」
「うわぁ!」
もう一体いたのか!
木の上にいた小さいゴブリンはこちらめがけて飛び降りてきた。口を開けて噛みつこうと頭から突撃してきたので、俺は全力で飛び避ける。
何とか間に合って、ゴブリンはそのまま俺に噛みつくことなく頭から地面に落ちた。しかも、ふらついている。
チャンス!
でも、剣を振るには近すぎる。俺はゴブリンを蹴り飛ばし、無理やり距離を取った。剣の間合いだ。食らいやがれ!
俺が頭上に構えた剣がゴブリンを袈裟斬りにする軌道をなぞり始める。しかし、その前に小さいゴブリンは大きな赤い光に包まれ、しばらくすると、溶けるように消えていった。
俺もその熱波を受け、袈裟斬りの途中でたたらを踏んでしまう。
何だ!?
魔法が飛んできた方を向くとカグヤが杖を両手が白くなるほど強く握りしめ、杖をこちらに向けている。
「カグヤ! 危ないぞ! 武器を持ち替えろ!」
「こないでこないでこないで……」
くそ! カグヤが混乱してやがる。こんな状態で戦えるのか?
「グギャグギャ。」
「こっちこないでぇ!」
こちらに向かっていたもう一体のゴブリンめがけて杖を向ける。みるみる杖全体が赤く染まる。さっきはこんなんじゃなかったぞ……チカラの込めすぎじゃないか?
「カグヤ! チカラを抜け!」
「イヤァァ!」
カグヤが放った巨大な火の玉は、もう一体の
ゴブリンに直撃した。直撃したゴブリンはそのまま溶けるように消えていった。
「皆さん、無事ですか!?」
戦いを終わらせていたロジャーさんがこちらに駆け寄ってくる。
「はぁ……はぁ……」
肩で息をしているのはカグヤだ。俺とアスカは他の敵がいないか周りを見ている。
「……他に近づいてくるものはいないわ。」
探索を終えてアスカが声をかけてくる。
「はぁ……うっ。」
カグヤが胸を抑えて倒れ込む。
「お嬢様!?」
すぐにロジャーさんが介抱する。
ロジャーさんに抱えられたカグヤの手からは杖がこぼれ落ち、地面についた途端に壊れた。
「お嬢様……杖が壊れる程に魔力を込めるとは……皆さん、すいません。一旦、領主の所に戻らせて下さい。」
カグヤがこんな状態になったんだ仕方ないだろう。
「分かりました。」
「……まだ……まだ、やれますわ。」
気丈に話すカグヤだが、とてもやれる状態じゃない。
「お嬢様。今はこんな森の浅い所でダンジョンゴブリンが出ると分かったのです。先ずは領主様に報告が先決です。」
「……一旦帰りましょう。」
俺たちパーティーの初戦は、苦いスタートとなった。
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