会社員は九日目に森に戻る(1)

翌朝です。おはようございます。


俺の目の前には、疲れた表情を見せる領主様とロジャーさん。ニコニコのカグヤ。やはり勝者はカグヤだったか。


恰好もドレス姿からパンツ姿に変わり、薄い金属の鎧を身にまとい、手元には弓、背中には矢筒を背負っている。


「あ、ディー様。おはようございます。本日は宜しくお願い致します。」


カグヤはこちらに笑顔で話しかけてくる。


「アスカ様も昨日はありがとうございました。本日は死ぬ気で頑張ります。」


アスカにも笑顔で話しかける。


「よろしく。がんばろ。」


アスカも笑顔で応えていて、2人で手を取りあって話しこんでいる。


俺は目の前にいる疲れた顔の人たちに話しかける。


「おはようございます。領主様、ロジャーさん。……本当に宜しいのですか?」


「ディー様、おはようございます。カグヤは、もう何を言っても聞き入れませんよ。」


「ディー様、おはようございます。……はぁ、お嬢様には困ったものです。」


……さいですか。


「今日はどのような予定で進めますか?」


カグヤがいるので慎重に事を進めないといけないと思いながら話すと、ロジャーさんが話しをしてくれる。


「はい、そのことで相談があります。どうやら昨日から森の調査で入っている冒険者からの情報ですが、どうやら森の中にダンジョンらしき洞窟を発見したらしいのです。」


冒険者って『ハーベスト』の皆かな? 先輩たちは仕事が早いな。


「ダンジョンですか? 以前からこの森の中にあったのですか?」


領主様が右手を挙げてこちらを見ているので、促す。


「ディー様、ロジャーから報告をもらい領主館に保存している記録を確認しましたが、この森の中にダンジョンが見つかったとの記載は見つかりませんでした。どうやら新しく発生したようです。」


「……ダンジョンとは、新しく発生するものなのですか?」


「発生すると言われておりますが、ダンジョンが出来る瞬間を見たものはおらず、何が原因でダンジョンが生じるのかについては不明です。」


「では、そのダンジョンを調べるのが今回の任務ですか?」


俺が尋ねると2人とも腕を組み、悩んでいる。


「それですが……もちろんダンジョンの探索を行ってもらいたいのですが、先ずはカグヤが使えるのか、連携が取れるのかを確かめる時間を設けてもらえませんか?」


「それはダンジョンに入る前に行う予定ですが……?」


いきなり人数が増えると何ができるのか確認しないといけないからな。2人から4人だとだいぶ戦い方が違ってくるだろうし。


「……私達は不安なのです。ダンジョンは新しく発生したばかり。何が起こるか分からない状況で、今のカグヤのレベルでは足を引っ張るのではないかと。なら、今日は訓練に充てて、その様子でダンジョンに入る時期を見定めて欲しいと思っているのです。」


「お父様! その件については、私から相談するとお伝えしたはずですが?」


おっと、カグヤがこちらの話しを聞いていたようで、領主様に詰め寄っている。


「……お前のことだ、ダンジョンに入ってから相談するのではないか?」


「そ、そ……そんなことありません。」


カグヤ……図星だったのか……そんなに慌てて目を逸らすなんて……


「う~ん……今日は森の周辺で特訓がいいと思うよ。」


まさかのアスカから援護射撃だ。


「アスカ様まで!? 何故ですか!?」


カグヤが勢いよくアスカに振り返るが、アスカは落ち着いた口調で話す。


「だって、カグヤのレベルが高かったら馬車で襲われた時に戦っていたと思うよ。それに、戦わずに隠れていたのは戦いに慣れていない証拠だよ。弓も使われている形跡が少ないし。それじゃあ不測の事態に役に立たない。馬車の時は隠れているのも出来たけど、ダンジョンなら敵に狙われて終わりだよ? いつでもロジャーさんが助けられるなんて、思ってないよね?」


アスカが饒舌に話し、カグヤは昨日と同じように下を向き、両手でズボンを強く握っている。


「だから、今日は徹底的にカグヤを鍛えてダンジョンに行けるように特訓しよ? 覚悟は決めたんでしょ? 特訓で強くなれるなら多少の怪我くらいいいよね?」


カグヤは顔を勢いよくあげて頷く。


「もちろんです! わかりました。特訓をお願いします。多少の怪我なんて気にしません。ダンジョンに連れていってもらえるように強くなってみせます!」


カグヤが力こぶを出すように気合いを入れ直している。全然、筋肉ついてないけど大丈夫だよね?


「では、とりあえず森に向かいます。そこで特訓をしましょう。ロジャーさん案内をお願い致します。」


「了解致しました。では、皆さんついてきて下さい。領主様、行ってまいります。」


「お父様、行ってまいります。」


「ディー様、アスカ様。宜しくお願いします。ロジャー、頼んだ。カグヤはロジャーとディー様、アスカ様の言うことは必ず守れ、約束だぞ。」


俺たち4人は領主様との挨拶を終え、森へと向かい歩きだした。


・シークレットクエスト『森の原因究明』

  森の中で何が起きたのか原因を探ろう

   成功報酬:???

   難易度 ???

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