会社員は八日目にパーティーを組む(2)

「覚悟はあるの? 死ぬよ?」


「おい、アスカ。」


「カグヤに覚悟はあるのって聞いてるの。ディーだって死にかけたことあるよ。しかもこれから調査する森は何が起こるか分からない。もしかしたら私たちも死ぬかも知れない。それでも来るの? 領主の娘としてこの街で出来ることもあるんじゃないの? 英雄に憧れるのは勝手だけど、足手まといならいらないよ。」


「アスカ! そこまでだ。」


「……うん。」


「カグヤお嬢様。アスカが言ったから言うけど、僕はまだ貴方を守りながら戦えるほど強くない。けどね、もし強かったとしても断っていると思う。冒険はそれだけ危険なんだ。分かってくれ。」


「……」


カグヤはスカートを両手で強く握りしめて下を向いている。


ふぅ……何とか納得してくれたかな。


「そんな程度の覚悟しかないなら、来ない方が幸せだよ。出来ることと出来ないことがあるんだし。カグヤが出来ることしてればいいよ。」


まだ言うかお前は!


俺は急いでアスカの口を防ぎ、領主様やロジャーさんに頭を下げる。


「すいません。すいません。」


「……いや、よく言っていただきました。カグヤ、聞いたな。戦場には覚悟を持ったものしか立てない。お前もそのうちに覚悟がつくようになる。その時まで待っておけ。いいな。」


「……失礼します。」


カグヤは下を向いたまま、部屋を出て行ってしまった。


「すいませんでした。ご迷惑をおかけしました。」


「いや、あそこまで言わないと聞かないのであいつには良い薬でした。これでカグヤもおとなしくなるでしょう。ディー様には嫌な役をしていただきまして申し訳ありませんでした。」


領主様とロジャーさんが頭を下げてくる。


「いえいえ。話しを戻しますが、森の調査にはロジャーさんが付き添って下さるのですね?」


「はい。お役に立てるか分かりませんが、ここの森は騎士団の鍛錬でも使用しておりますので、案内役をさせていただきます。」


「それは助かります。私達2人だと地理に詳しくないので闇雲に探すところでした。」


「いえいえ。では、「キャアァァー」……何事だ!?」


ロジャーさんが剣を抜いて領主様の前に出る。俺とアスカも立ち上がり、声がしたドアの方を見る。


バタン。


ドアが開き、人が入ってくる。


「……アハハ! すごいじゃん。似合ってるよ。」


アスカは笑っているが、俺は笑えない。領主様もロジャーさんも何も言えないようだ。執事のセバスさんはハンカチで目元を押さえている。


「カ、カグヤ……お前は……」


「これが私の覚悟です。遊びではございません。」


右手にナイフ、左手には髪の毛の束を持った、ショートヘアのカグヤは髪の毛を父親に渡した。父親のクラトスさんはへなへなと腰から砕けるように座り込んでしまった。ロジャーさんは天を見上げながら顔を押さえている。


「その心意気お見事! 一緒に森を調査するから3秒で支度しな!」


アスカが腕を捲ってカグヤに声をかけるが行かせるかバカヤロー。


ゴンッ!


アスカの頭をグーで殴りつけ、首根っこをとっ捕まえる。


「痛てぇ。何しやがる!?」


「うるせぇ。こっちのセリフだ! お前がたきつけたせいだろうが!」


「……今日は父もこの状態で話し合いは出来そうにございません。明日の朝に、もう一度話し合いを行いましょう。宜しいでしょうか?」


カグヤが尋ねてくるが、もうどうしようもない。そそくさとこの場から立ち去るか。


「そうですね。では、また明日にしましょう。失礼します。」


「カグヤ。明日が楽しみだね。頑張ろうね。」


「はい。宜しくお願いします。」


アスカが声をかけるとカグヤが嬉しそうに返す。


もう嫌だ。何でこんなトラブル起こすかな。もっと穏便に事を済ませようよ。


心臓がいくつあっても足りない。


あぁ……とっとと寝て、現実逃避しよ……


・シークレットクエスト『森の原因究明』

  森の中で何が起きたのか原因を探ろう

   成功報酬:???

   難易度 ???

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