会社員は八日目にパーティーを組む(1)
「これは……」
領主様と、その娘のカグヤ、護衛のロジャーさんが驚いた表情のままだ。
……思ったよりも弱かったのか?
誰も何も言ってくれないので、心配になってくるな。
「ディー様。驚いていてすいません。まさか、ここまでとは……」
領主様が丁寧に話してくれている。あぁ、これはあれだな。
「そうですよね。レベルも低いですし、まだまだ弱いですよね。」
「なっ!」
領主様が驚いた声をあげた。
こりゃ図星だったのか……
そう思っていたら領主様が椅子から飛び降りて頭を床につけて謝りだした。
「ディー様! 想像以上の能力とスキルに驚いていたのであり、嫌な気持ちにさせて貴方様を貶めるような思いであった訳ではございません! お許しくださいませ!」
ゴンッ。領主が床に頭をつける。
えぇ……領主様が土下座って……いやいや!
「りょ、領主様! 頭を上げてください! 大丈夫です、怒ってもいないです。むしろ、このステータスのどこがすごいと感じたのか教えていただけませんか?」
お偉いさんって簡単に頭を下げてはいけないよね……だって、カグヤもロジャーさんも領主様を見てすごく驚いてるよ?
「ディー様、寛大な心で許していただきありがとうございます。お前たちもディー様に対してしっかりと謝罪をしなさい。」
「「は、はい。」」
カグヤとロジャーが膝をつき、土下座をしようとするので、慌てて止める。
「だ、大丈夫ですから、2人とも止めて下さい。と、とりあえずは席に座って話しをしましょう。ね?」
「ははぁ~。お代官様、ご慈悲を~。」
悪乗りしてきたアスカの頭をはたく。
バシッ!
「……このタイミングで紛らわしいことをすなっ!」
ほら、カグヤとロジャーさんが、あれをやった方がいいのかな? みたいな顔でアイコンタクトしてるじゃん。
「これはアスカが場を和ませようとしてやったことなので、絶対にマネしないで下さいね。もう謝罪はいいので、席に座りましょう。色々と教えて下さい。」
「お許しいただきありがとうございます。では、謝罪は後ほどに。あぁ、ステータスは閉じていただいても大丈夫でございます。セバス、ここで見たことは許可があるまで他言無用だ。他の者にも伝えろ。」
「心得ております。」
案内してくれた執事が綺麗なお辞儀をして返事する。
「では、早速ですがステータスについて説明させていただきます。私はこの街を治めているクラトス・アルバートと申します。ディー様に名乗りもせずに申し訳ございません。」
席についてそうそう、領主のクラトス・アルバート様は頭を軽く下げてくる。
「謝罪は受け取りました。もう謝罪は結構です。それよりも、私のステータスについてですが、驚いていた理由の説明をお願いします。」
「はい。先ずはステータスの数値ですが……ロジャー、説明を。」
「はっ。領主様に代わって騎士団長のロジャー・ファーゴが説明いたします。ディー様、先ほどは失礼しました。」
そう言ってロジャーさんが立ち上がり頭を下げてくるので、こちらもお辞儀をして話しを進めるように促す。
「ディー様のステータスの数値ですが、レベル10にしては異常な高さです。あの数値ならレベル30ぐらいが妥当ではないでしょうか。」
なるほど。レベル10にしては高いのか。比較するものが無かったらレベル10でこの数値が当たり前だと思う所だったな。
「また、レベル30程度であれば中堅の冒険者から上級を目指す冒険者と同等程度です。『ハーベスト』という冒険者達の名前は聞いたことがあると思いますが、彼らと同等程度の強さはあるでしょう。」
なんですと!!?
いきなり先輩たちと同じ強さでスタート出来るのか。
たしか森の調査に行ってるって言ってたからな。合流して、このステータスを見せたら一緒に冒険出来るかな。
俺が驚きの表情をしているのを見て領主が声をかけてくる。
「ディー様も我々が驚いたことに納得してもらえたと思います。続いてはスキルですが、先ずは、ノーマルスキルについてですが、これは特に説明が無くてもご理解してもらえるかと思いますが、いかがでしょうか。」
「そうですね……剣については何となく理解できますが、水魔法にはどんな魔法があるのでしょうか?」
「魔法ですが、特に決まった詠唱や形はありません。ただ、杖などの魔力を集めやすい武器や魔道具を使用することで威力などを高めることが出来ると言われています。」
「え? ……なら好きにアレンジして使えるということですか?」
魔法はまさかのアレンジ放題なのか?
「はい。ただ、要求することが高難度になればなるほどMPを使います。MPを使い果たすと意識を失って死亡することもありますので、ご注意下さい。」
えっ……MPなくなると死ぬかもしれないの? 聞いといてよかった。
「それでエクストラスキルですが……さすが招かれし英雄様だと思いました。1つでもあれば英雄になれると言われるエクストラスキルですが、まさか4つもお持ちとは……言葉も出ませんでした。」
「本当は私の分も合わせて5つだよ。」
アスカが話しに入ってくる。
「……本当にアスカ様はディー様のスキルなのですか? いや、疑っている訳ではございません。」
慌てて領主が否定するが、その気持ちはよく分かる。
「はい。私も未だに自信はありませんが、私のスキルが原因のようです。でも、私としても側にいてくれて助かっていますので、女神様からのプレゼントですかね。」
「そうそう。私がいないとディーはまだまだ危なっかしいからね。」
笑顔でアスカが話す。お前はいつから俺のお姉ちゃんになったんだ。それに領主に対してその口調……まぁ、仕方ないなアスカだし。
「……何か変なこと考えてたでしょ?」
「……いいえ。」
ジィィーっとアスカが見てくるが無視だ無視。
「さぁ、領主様。話しを続けて下さい。」
「あ、あぁ。ステータスについては以上なんですが、招かれし英雄様に1つお願いがございます。娘を助けていただいた森についてですが。」
「何か異変があると冒険者ギルドで見ました。何かあったんですか?」
「そうです。森に大量のモンスターが出現したとの報告を受けています。出来ればこの原因をディー様のおチカラで突き止めていただきたいんです。」
「なるほど。でも、今も『ハーベスト』の皆が探索していると聞いていますが?」
「その通りです。しかし、森も広いので原因究明には、もうしばらく時間がかかりそうなのです。そのため、色々な手を打っておきたいのです。」
「なるほど……分かりました。ご協力いたします。」
「助かります。では早速明日にでも「私も行きます!」……カグヤ?」
話しの途中で参加を宣言したのはまさかのカグヤだった。領主様も突然の宣言だったからか、領主の口調から急に父親の口調に変わったな。
「私も行かせてもらえませんか?」
カグヤが手を上げて席を立ち、皆を見渡したあとに宣言する。
「……お嬢様、遊びではございませんよ? 先日馬車で襲われたことをお忘れか?」
ロジャーが腕を組みながら厳しい顔をしてカグヤに話す。
「そうだ。お前にはまだ無理だ。やめときなさい。」
父親のクラトスさんが説得するが
「いえ、私も先日成人を迎えました。もうこの領地に対して責任を果たす立場になりました。お父様が現場に出れない以上、私が参加するのが筋というものでは?」
「ロジャーに出てもらう予定だった。経験の少ないお前には無理だ。」
「経験を積まないことには成長は生まれません。それには挑戦をする必要があると存じますが?」
「それはこのタイミングではないはずだ。」
「タイミングを選んでいては成長などありえません。今すぐに動く。父の教えではありませんか?」
「お嬢様……あまり領主様を困らせるものではございません。」
ロジャーさんだけじゃなく、執事のセバスさんも参戦してカグヤを止めだしたよ。
まぁ、そりゃ馬車で襲われたばっかりだし心配だろう。
決着がつくまでのんびりとしておこうと思っていたが、こっちに飛び火がきた。
「招かれし英雄のディー様はどう思いますか?」
え? 俺? カグヤはキラキラした目をしているけど、他の人たちは何とか止めてくれって目をしてるし……はぁ、仕方ない。俺が断るか。
「カグヤお嬢様。あの、「覚悟はあるの? 死ぬよ?」ですね……」
おい、アスカ。
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