会社員は八日目に異世界だと気づく
「……異世界なんですか?」
「そうですよ。」
「でも、僕はVR機に入って……」
「そうですね。VRでこちらの世界に来られましたね。でも、考えてみて下さい。現実世界を基に作られた世界の情報を持って帰ったとしてもお金になりますか?」
「……たしかに……いや、でも急に異世界って言われても……」
女神がにこやかな笑みを浮かべながら説明をしてくるが、俺は頭が混乱しているようで、否定的な考えしか浮かばない。
「えぇ。急にお伝えしても信用はしてもらえないと思っています。しかし、VRなのであれば現実世界に戻れるはず。どうして戻れないのだと思いませんでしたか?」
「そうなんです! 何で僕は現実の世界に戻れないんですか!?」
どうして自分がそんな目に合わないといけないのかと思ってしまい、つい声を荒げてしまう。
「それは……選ばれたからです。」
「選ばれた?」
「えぇ。これからも現実世界から多くの方が私たちの世界に訪れるでしょう。そうなるとこれから様々な問題が起きてくると思いませんか?」
「それは間違いなく起こると思います。」
生まれや肌の色で揉めているんだから、異世界となると、小説にもあるように奴隷とか属国にするとか、今までの黒歴史を繰り返すんじゃないかな。
「その時にこちらからも対応できるようにしておきたいんです。」
女神がにこやかに言うけれど、
「でも……僕にはチカラも地位も無いですよ。新人職員でしかないですし……」
何の権力もない個人が国と戦えるわけがないよ。
女神が笑みを深めた気がした。
「安心してください。私たちも何の対策もせずにお任せする訳ではありません。それに、山田俊輔様は元々現実世界の方。山田俊輔様に提案することは転勤です。」
「転勤?」
「転勤と言うよりは出向と言った方が宜しいでしょうか? 現実世界でも地方や海外に職員を派遣することがあるかと思います。それと同じとお考えください。」
「……異世界に出向ということですか?」
「そうです。実は山田俊輔様の会社と派遣契約は済んでいます。ですから、山田俊輔様が選ばれたとお伝えしたんです。」
女神が正解とでも言いたいように拍手しながら話をしてくる。
「でも、僕は何も知らされていませんよ?」
「そこだけが手違いでした。」
女神が困った表情になる。
「実は、ハーベストの皆さんと異世界の体験をしていただいた後に事情を説明する予定だったんです。ですが、山田俊輔様が現実世界に戻れない状況となり、その対応をするのに時間がかかってしまったんです。ごめんなさい。」
……プリンちゃんさん……
「……納得は出来ましたか?」
僕が遠い目をしていたからだろう、女神が顔色を窺うように尋ねてくる。
「えぇ。納得は出来ていないですが、話しは分かりました。」
「良かった。」
女神がホッとした顔を見せる。
「こちらからニケ様に聞きたいのですが、現実世界には戻れるんですか?」
「戻れます。しかし、今すぐは無理です。派遣契約としては3年になっていますが、1年経過した時に現実世界に戻れるようにします。」
「1年間は無理だと?」
「ごめんなさい。しかし、私たちの世界のルールとして、これをしてもらうとすぐに現実世界に帰れるという方法があります。」
何だって?
「すぐに現実世界に帰れる方法があるんですか?」
「はい。色々と種類があるので、自分に合うのを選んでもらうといいかなと思います。でもなかなか専門性が無いと難しい条件となっています。1年の内に達成する目標に掲げていただけるとありがたいです。」
よし! 俺はガッツポーズをした。すぐに現実世界に帰れるチャンスがあればやる気になるな。
「ニケ様、僕は異世界に来たばかりです。何か特別なチカラを授けてもらうことは出来ますか?」
「それは出来ません。ごめんなさい。」
「残念です。」
「その代わり、努力が報われる世界です。チカラを鍛えれば強い魔物を倒して、お金持ちになれるます。また、小説であるように商売で稼いでもいいかと思います。派遣の期間にお金を稼がれると将来、現実世界と私たちの世界を繋いだ時に大きなアドバンテージを得られますよ。」
そうか……良いこともあるんだな。
「たとえば……商売をしたとして、その権利は僕にあるんですか?」
「えぇ。私たちの世界で得た利益は個人に与えられます。ふたつの世界が繋がった時にお金の価値が統一されるでしょう。その時には山田俊輔様がお金持ちになっているでしょう。」
女神がとろけるような表情で語る。
俺もにやけてしまう。
「分かりました。頑張ります。」
「良かった……(単純なひとで)」
女神のつぶやきとともに、白い空間は唐突に消えた。
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