会社員は七日目に森を調査する (3)

「ア、アスカ…魔法…使えたの?」


アスカは首を勢いよく左右に振る。


「使えるの知ってたら言ってるよ。」


そうだよなぁ~。


「ちょっと使ってみてよ。」


魔法が使えるなら戦いも楽になるぞ。


「う~ん…」


アスカは両手を前に突きだし、チカラを入れたり、ウンウンと念じたりしているが…


「…何も起きないな。」


「魔法の使い方なんて分からないよ。」


俺も魔法の使い方なんて分からないし…誰かに習った方がいいのか?


バシュ~……パン!パン!


乾いた音が聞こえてくる。


なんの音だ?


「ディー、空見て。」


空を見ると、俺たちが歩いてきた方向から煙があがっている。狼煙か何かだろうか?


「とりあえず、行ってみる?」


「…何かあったのかも知れない。行ってみよう。」


俺たちは、来た道を戻っていく。


コンコン、コンコン…


先ほど、人が座り込んでいた場所に荷物を載せた馬車

が到着しており、地面に木の杭を打ち付けている。


「おい、お前たち!」


腕章を付けた男が近寄ってくる。見たことはないが、ギルドの職員みたいだ。


「森に行ってたのか?何か発見はあったか?」


メモを取り出して話を聞いてくる。


「いや、森の中には入っていない。慣れてないからな。慎重に森の周囲を歩いただけだ。倒したのもゴブリン2体だけだ。」


自分のギルドカードとゴブリンが持っていた、こん棒を見せる。


「そうか…それが懸命だな。後は、ゴブリンの右耳と魔石を持ってくれば完璧だったな。」


「そうだったのか…」


「知らなかったのか?…仕方ない。今回は俺が証明書を作ってやる。次回からはしっかりと現物を持ってこい。」


男はその場でメモに何かを書き始め、最後に手を光らせてメモに手を置く。


…手を光らせて?


「…これでよし。ほら、これを持ってギルドに行ってこい。」


男はメモを1枚破り、手渡してくる。


「なぁ…その、手が光ったのは魔法か?」


「ん?そうだが…おいおい、この紙も見たことないのか?本当に初心者なんだな。よく死なずに戻ってきたぜ。その慎重さは武器になるぞ。」


「あぁ、ありがとう。」


褒められたのか貶されたのか微妙な表現だが、顔を見ると褒められているようだ。俺の顔も微妙な表情になる。


「褒めてるんだぜ。冒険者は無鉄砲なヤツも多いからな。ほら、早くギルドに行ってこい。ギルドには魔法に詳しいヤツもいるから、そこで聞いてみるんだな。」


「あんたはここで何をするんだ?」


「俺か?ここでお前たちみたいに森から帰ってきたヤツらの、戦利品を鑑定して、証明するのが仕事だ。他のヤツらはここに拠点作りだな。」


「拠点?」


「あぁ。毎回、街に戻るのも面倒だしな。ここで最低限の補給をしてまた森に入れるようにするのさ。」


「そうなんだ…」


「でも、それを受けれるのは、ハーベストみたいな高レベルの冒険者だけだ。お前たちみたいな新人は面倒でも街に戻って休めよ。」


「ハーベスト!」


「ハーベストがどうした?」


「俺、ハーベストの知り合いなんです!」


「はぁ…新人のヤツでハーベストの知り合いって言えば優遇されると思ってるのか?」


「そうじゃなくて!本当に知り合いなんだ!」


「だから?」


「俺がここにいるって伝えてくれないか?」


「お前がぁ…本当か?」


「本当だ!信じてくれよ。」


「まぁ、言うだけならタダだから良いぞ。その代わり、今日はちゃんと街に戻るって約束しろ。ハーベストも、森から戻るのは2、3週間かかるだろう。」


「そんな長い間、森に入ってるの?」


「高レベルの冒険者ならそんなもんだ。もしかしたら解決して戻ってくるかも知れないしな。」


さすが、ハーベストの皆だ。


「だから、お前らも今日は暗くなる前に街に戻れよ。」


「「はい。」」


ここにいても仕方ない。街に戻ろう。街に戻って、アスカの魔法について聞いてみるのがいいだろう。


「じゃあ、アスカ。街に戻ろう。」


「そうだね。そうしよ。」


俺は、魔物との戦いをやり遂げた気持ちと、ハーベストの皆がすごい冒険者だと分かったことで胸がいっぱいだった。


「フンフン、フ~ン。」


ついつい、鼻歌がでてしまう。


「フフ…」


そんな俺を見て、呆れた顔をしているアスカも、口角が上がっていて、機嫌が良さそうだ。


いっぱしの冒険者として今日の仕事を、やり遂げることが出来た。これからも積み重ねていこう。


そんな気持ちで街へと帰っていると







「キャーー!」


空気を切り裂くような悲鳴が響いたのだ。

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