会社員は七日目に森を調査する (2)

森の浅いところを、アスカと一緒に移動する。


「アスカ、このまま森の浅いところを回って様子をみるよ。」


「そうね。いつもと違うらしいから気をつけてね。」


「そうだね。」


緊急クエストが出ていたことに気づいたのは、


さっきのアスカとの話し合いが終わった後だった。


あのまま、森の中に入っていたら難易度が難しいだったなんて…


おそらく、ハーベストの皆に会う前に死んでたかもしれないな。


アスカがいてくれたおかげだな。


「アスカ、あのさ…」


「しっ!」


アスカが急にその場にしゃがみこみ、口元に指をあてて静かにするようにジェスチャーをしてきた。


「ど、どうしたの!?」


「…しっ!」


俺がアワアワしていると、俺を掴んでしゃがませ、再度強い口調で静かにするように伝える。


「…(なんなんだよ)」


小声で聞くが、アスカは前方を見つめていて、返事がない。


何かいるのか…俺も前方を見てみる。


……


何も見当たらない。ただの森だ。


「アスカ、何もいないじゃないか。」


「あ、バカ!」


立ち上がった俺を見てアスカが声をだす。


すると


「…ぎゃぁぎぉぅ!」


「うわっ!」


声が聞こえた。


「あぁ!もぅ!見つかったじゃないの!」


「敵がいたのなら、言ってくれよ!」


「話すとバレるかもしれないでしょ!アイツが去るまで待ってたのに!」


「大丈夫、俺が倒してやるよ!これでも、強敵を倒したこともあるからな。」


「声からしてゴブリンと思うけど…気をつけてよ。」


俺は剣を構えてゴブリンを待つ。


声のした方向から、音を立てて緑色の生き物が近づいて来るのが分かった。


こん棒みたいな木を振り回しながら近づいてくる。


…よくみると2体いるぞ!


「2体いるぞ!アスカは木に登っていてくれ!」


「ディー…分かったわ。気をつけて!」


「任せろ!」


…とは言ったものの、2体同時に戦うのは初めてだな。


スケルトン・ダブルも2体と言えば2体だったか?


そういえば、ゴブリンと直接戦うのも初めてだったな。


ダンジョンの時は戦う前に死にかけていたからな…


今回のゴブリンたちは、距離が近いからかまだまだ元気そうだ。


「やってやる!」


「ディー、頑張って。」


声援があると俄然やる気になるな。


ゴブリンたちは並んで突っ込んでくる。


「くらえ!」


俺はしゃがんで土を掴み投げつける。


「ぐぎゃっ」


めくらましになったようで、1体の足が少し遅くなる。


これで同時攻撃は回避できそうだ。


「ぐぎゃぁ。」


ゴブリンが攻撃をするために両手で、こん棒を振りかぶる。


ブン。ドゴッ!


全力の攻撃は軌道が分かりやすい。俺は焦ることなく後ろに下がって避ける。俺が立っていた地面には、こん棒の跡がくっきりと残っている。


「ぐぎぃぁ。」


2体目のゴブリンが同じように両手で振りかぶり、時間差で攻撃してくる。


ここだ!


来るのが分かっていた俺は、同じように攻撃してきたゴブリンの攻撃を後ろではなく、横に避けながら剣をゴブリンの頭めがけて振り下ろす。


ドガァッ!


「ぐぎぃぁぁ!」


頭には当たらず、肩に当たった。ゴブリンは肩を押さえつけながら地面に倒れ込み、のたうちまわっている。


とりあえずは1体を行動不能にできた。


あと1体だ。


「ディー、危ない!」


アスカの声にハッと気づく。しまった、倒れたゴブリンを見すぎた。


もう1体のゴブリンは地面に下ろしたこん棒を振り上げる。


ダメだ、避けきれない…剣で受けるしかないぞ。


ガッキィィン


ぐぅぅぅ。


剣と肩でこん棒を受けた。鈍い痛みが走る。


「いっ…いてぇなこのヤロー!」


怒りに任せて剣を振る。


ガン。


ガン。


剣とこん棒がぶつかり、決定打が出ない。


…!


「くらえっ…。」


剣を振り下ろす…ように見せかける。


ゴブリンはこん棒で頭を守る。


そしたら


そう


腹が


がら空きなんだよ!


「おりゃぁ!」


利き脚の爪先でゴブリンの鳩尾辺りを思いっきり蹴りあげる。


サッカーで言うところのトゥーキックだ。


「ぐぎっ…」


爪先が埋まったゴブリンはお腹を押さえながら蹲る。


チャ~ンス。


「おりゃぁ。」


ゴズッ。


剣を叩きつけ、ゴブリンを退治する。


「もう1匹は…」


肩を壊したゴブリンは倒れ込んだまま動かない。


「ふぅ~…」


戦いが終わった。


剣を地面に突き刺し、ひと息つく。


「つっ疲れたぁ。腕が痛ぇ。」


初心者防具のおかげか、剣で受けたからかジンジンとした痛みがある。


しかし、手をニギニギとすると動くことから、打撲だけで骨や筋に損傷は無さそうだ。


「ディー、お疲れ。」


アスカが木から降りてきた。


「おぅ、アスカありがと。助かったわ。」


「気をつけてよ。油断してやられましたなんて、まったく笑えないんだから。」


「おぅ、すまんな。…そうだ、アスカ。」


「なに?」


「…ゴブリンから素材って何か手に入るのか?」


「…知らないよ?」


「俺も知らねぇわ。」


「どうするの?」


「う~ん…とりあえず、放置?武器になりそうなこん棒だけもらっとくか。」


こん棒を倒したゴブリンから回収する。


ただの太い木だが、最悪、薪にでもすればいいだろう。


「よし、先に…」


「ディー!危ない!」


「えっ?」


振り返ると倒したと思ったゴブリンが襲いかかってきた。片腕を振り上げてるから、肩を壊したゴブリンがまだ生きていたんだな。


「ぐぎゃぁ!」


右手を空高く掲げ、チカラを込めて振り下ろそうとしている。あ、何かゆっくり見えてるぞ。これってまさか走馬灯?俺、ここで終わっちゃうの?


ゴブリンの拳が俺の頭に振り下ろされようとした。


その時、


「ディー!!」


赤い塊がゴブリンを襲い、ゴブリンをぶっ飛ばす。


ゴブリンが転がっていき、熱波が顔の近くを通りすぎる。


ゆっくりと振り返ると、アスカが両手を突き出した姿勢で固まっていた。顔はとても驚いていた。


…何が起こったの?


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