最終防衛線


 情勢は悪化の一途をたどっているようです。

 イスラエル南部軍の主力が展開する防衛線が崩壊、大虐殺が起こったようです。

 続いて民間防衛軍が死守する第二防衛線も崩壊、ここでもジュノサイドです。

 最終防衛線をしいて、最後の部隊が抵抗を始めたところに、『US―3不死鳥』が到着したのです。

 乗っているのはミトリさん一人です。

 『US―3不死鳥』はオートパイロットで戦闘飛行も可能なのです。


 ミトリさんがオートパイロットに、

「荷電粒子砲、敵の中心部に向かって発射!前後のビーム砲、最終防衛線に近づく敵を掃討せよ!」

 

 敵陣にクレーターが出来たようで、とりあえず敵の戦意はなえたようです。

 一旦退却を始めました。


 ミトリさんが、

「エイラート防衛の最高司令官、こちらはナーキッド派遣先遣隊指揮官、着陸許可を願う」

 ナーキッド派遣先遣隊指揮官とはミトリさんの事です。


 エイラート防衛司令部から、

「許可する、どこでも着陸できるところへ」


 US―3不死鳥はホバリング、ミトリさんは一人でエイラート最終防衛陣地に降り立ったのです。


 待っていた指揮官が、

「お待ちしておりました、私はエスティ・ラファエロです」


 ミトリさんが、

「ミトリ・ハゲルです、状況は?」


 エスティさんが、

「もう戦力はここにいる第33独立軽歩兵大隊だけです、といっても、部隊の男性兵士は第二防衛線の戦闘指揮官として全員戦死、七十五パーセントの戦力です」


 ミトリさんが、

「噂のカラカル大隊――第33独立軽歩兵大隊の別称、女性兵士の直接戦闘への参加機会を減少させる目的で組織され、集中的に配属されているらしい――ですか、もう女性兵士しか残っていないのですか?」


 エスティさんが、

「はい、私たちは最終防衛線の指揮官として、市民を率いて戦うために残されました」


 ミトリさんは、

「明日早朝には輸送船がやってきます、五千名収容ですが詰めれば五倍は運べるとのことです」


「たしかこの町の住民は五万名ぐらいと聞いていますので、二回で運べます」

「とりあえずナーキッドのデヴォン島へ運びます、それまでの辛抱です」


「海軍はどうなっていますか?」


 エスティさんが、

「もうガンボートも、ほとんど燃料弾薬がありません、明日一日で動かなくなるでしょう」

「沖にはサービア教徒のダウ船で、埋もれているようです」


「到着次第、すぐに市民を避難させてください」とミトリさん。


 エスティさんが、

「市民といわれても本来のエイラートの住民はいません、とうに避難していました」

「イスラエル南部軍は各地の生き残りの女性を守りながら、ここまで後退してきたのです」


 聞けばサービア教徒は、各地で四十以下の女性を奴隷として残し、残りを皆殺しにしており、南部軍はその女性たちを解放しながらエイラートまで撤退、ここに立てこもって、海からの救出を待っていたのでした。

 全員で二万六千名弱、とにかく一回で運ぶことにしました。


「あの飛行艇は帰ったのですか?」とエスティさん。


 ミトリさんは、

「あれは撤退まで哨戒飛行をします、ビーム砲は全自動でオートパイロットで飛んでいます」

「太陽光受電装置を搭載していますので、燃料不足の心配はありません、この防衛線を監視しています」

 

 ミトリさんの返事で安堵した顔になったエスティさん、少佐だそうです。


「撤退の手順の話をしましょう」とミトリさん。


 輸送宇宙船は港の上空で浮遊することになりました。


 タラップをおろし市民を収容するので、その間、軍は時間稼ぎをすることとなりました。


 市民が収容されたら、まず海軍が撤退、その間に陸軍は徐々に後退、飛行艇は海軍の代わりに海を哨戒、最後はタラップを守るように撤収し、最後の最後は飛行艇がこれを守る。


 翌日、早朝に空を覆うような輸送宇宙船がやってきました。

 集まっていた市民の近くにタラップが下ります。


「皆さん、順番に乗ってください!」

 叫んでいる女がいますが、よく見るとナオミさんです。


 さらに隣にはミコ様が

、「皆さん、順番に乗ってください!」

 なんて、云っていました。 

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