撤退が始まりましたが、最前線の第３３独立軽歩兵大隊は後退がなかなか出来ない状況です、敵があまりに多いのです。

　それでも……

「隊長！弾がなくなりました！」と兵士の一人。

「弾薬がなくなった者から後退、宇宙船に乗れ！」とエスティさん。

　一人、二人と兵士が減少し、押されるように後退するのですが、ここで押し戻さねば崩れそうになるのです。

　そんな事を繰り返しながら、ジリジリと後退していきます。

　エスティさんは決断しました。

「ミトリ！ここの兵士を半分率いて、撤収してくれ！」

　ミトリさんは、

「そうもいくまい、とにかく死んでもいい者だけで守ろう」

　エスティさんは

「そうか、副官、弾薬をおいて、すぐに招集された者を率いて船へいけ！」

　そしてさらに後退し、いよいよ海軍が撤収し、あとは第３３独立軽歩兵大隊の一部だけとなっています。

　エスティさんが

「士官と下士官を除いて、あとはすぐ船にのれ！急げ、持たんぞ！」

　さらにしばらく戦い、エスティさんが、

「下士官は船にいけ！」

　いよいよタラップが見えてきました。

「ではいくぞ、皆、いいな！走れ！」とエスティさん。

　一斉に走り始めました。

　ミトリさんも一心不乱に走りタラップまで、そして自身はタラップを守ろうと振り返ると、エスティさんが最後尾で戦っているのです。

　ＧＴＡＲ―２１、いわゆるグレネードランチャー・タボールで、四十ミリグレネード弾をぶっ放しながら、孤軍奮闘、敵を食い止めているのです。

　よく見ると足から血が滲んでいます。

　どうやら右足大腿部貫通銃創、骨が砕けているのかもしれません。

　エスティさんがこちらを振り向き、「いけ！」と大声で云ったのです。

「エスティ！」

　我知らず、タボールをもって駆けつけるミトリさん、乱射しています。

　宇宙船がタラップを引き上げ、ついに動き始めました。

「やれやれ、ミトリは私の物ですからね、難儀な事になった」

　そんな声が聞こえたかと思うと、ミコ様が側にいました。

　そして、ドォーンともの凄い音がして、かなりの敵が黒焦げになっています。

「ミトリさん、後で奉仕してもらうわよ♪」とミコ様。

　呑気な言葉を発しながら、場違いなメイド用軍服を着込んで、優しげな笑顔を浮かべて戦場に立っています。

　手には、メイドの間では噂にもなっている電撃杖と思われるものを持っています。

　ミコ様が、

「さてミトリさん、この方、抱えてくださいよ、私が守ってあげますからね」

「ミコ様、どこへ逃げるのですか？」とミトリさん。

　ミコ様は、

「そりゃあ『ＵＳ―３不死鳥』でしょう、まだ飛んでいますからね」

　そんなことをいっていると、堂々と『ＵＳ―３不死鳥』が着陸したのです。

　この頃には、周りは敵だらけ、でも電撃杖の先端が青白く光り、稲妻がシヤワーの様に降り注いでいるのです。

「早く乗りなさい！」

　ミトリさんはエスティさんを抱え乗り込むと、あろう事か『ＵＳ―３不死鳥』が勝手に離陸してしまったのです。