14 叛乱-3-

「よく分からないが、まずいぞ……」

 カイロウは気付かれないようにその場を離れた。

 なぜ連中が押しかけてきたのかを推測する暇はなかった。

 分かるのは彼らがおそらく自分を捕まえるためにやって来たのだということ。

 でなければあのような蛮行に及ぶハズがない。

 彼は人目を避けて裏路地から裏路地へ移動した。

 今夜の集会を警戒してか、人の多い場所には警官が配置されている。

 顔を見られるのは危険だ。

(リエ君と連絡をとらなければ……!)

 建物の陰に隠れ、懐から無線機を取り出す。

「リエ君、聞こえるか?」

 しばらくすると雑音に混じって彼女の声が聞こえた。

『どうかしましたか? えっと……使い方ってこれで合ってますよね?』

「ああ、合ってるよ。それより厄介なことになった。役人共が私の家に乗り込んできたんだ」

『どうしてそんなことに?』

「分からない。とにかく予定変更だ。少し早いが例の場所に行ってくれ。話はそこでしよう」

 個人での無線利用は法で禁止されている。

 傍受される可能性を考え、手短に通話を終える。

 リエは才女だから狼狽せずに適切な行動をとってくれるだろう。

 彼はさらに慎重に動いた。

 身を小さくし、建造物の隙間を縫うように移動する。

「さあ、祈りましょう! 私たちの輝かしい未来のために!」

 途中、信者の一団に出くわした。

 公道だというのに即席の祭壇を設え、幹部のひとりが聴衆に呼びかけている。

 集会はここで行なうようだ。

 辺りには露店の準備をしている者もおり、地方の小さな祭りの様相を呈している。

 既に人だかりができていて、身を隠すのに適していた。

 挙動が不審にならない程度に俯き、雑踏に紛れる。

 目立つ格好でもないから役人の目に留まることもない。

 そうして時に人垣を利用し、時に狭い通りを渡り歩き、普段の倍ほどの時間をかけてようやく目的地にたどり着く。

「ドクター、無事だったんですね!」

 その姿を認めるなり、リエが小声で叫んだ。

 まばらとはいえ周囲には民家が建っている。

 どこで誰が見ているか分からない。

「ああ、どうにかね。家にいたら危なかった」

「話はしてあります。行きましょう」

 念のため尾行されていないことを確かめ、2人は工場の中へ。

 背を向けていたデモスは、今はじめて彼らに気付いたように振り返った。

「ああ、待ちくたびれたぞ。時間というのは大切なのだ。時というのは……金より重い場合もある。そうだな、たとえば今がそうだ」

「すみません。ちょっとトラブルがありまして」

「事情があるなら追及はせんが……しかしだな、面識のないお嬢さんと、その、同じ空間にいると……間が持たないものだな。

儂があと50年若ければ、そうだな、口説いておったかもしれん。ああ、たしか昔に撮った写真がどこかに――」

「すみません、それはまたの機会に――」

 リエは30分ほど前に到着していて、カイロウが来るのを待っていたという。

 客人だからということで簡単に彼女をもてなしたデモスだったが、初対面で会話もなく互いに気まずい時間を過ごしていたらしい。

 その空気に耐えかね、リエが様子を見に外に出た際にちょうど彼がやって来たのだった。

「気を遣わせてしまったようですね。お詫びをしたいところですが生憎、持ち合わせがないんです」

「儂はそういう金は受け取らんが……んん? おお、そうするときみが言ったトラブルとはそれのことか」

 リエは肩をすくめた。

 この老翁はどうも苦手だった。

 話し方が回りくどくて、よく分からない。

 寡言なカイロウとは正反対だ。

「ところで例の物は?」

 長々と話をしている暇はない。

 カイロウは急かすように問うた。

「儂らでお嬢さんが乗ってきた車に積み込んでおいた。分量にはいささかの狂いもない」

 リエはデモスに向き直って深々と頭を下げた。

「ありがとうございます。私のことを信じてくださって」

「いや、いや、疑う理由などない。ここに彼の名義で燃料を確保していることは……儂らしか知らん。ああ、つまりだ。

きみは彼と親しい、間柄ということだな。うん、あるいはそれ以上の、男女の付き合いかな?」

 デモスは意地悪そうな笑みを浮かべたが、

「私はただの助手ですよ」

 リエは真顔で返した。

「ふむ、そうか……それは残念だったな」

 デモスは憐れむような目でカイロウを見た。

「彼女の言うとおりですよ。私たちはそういう関係ではありません」

「まあ、きみらはまだ若い。可能性くらいは、あるだろうな」

 老翁は大儀そうにため息をついた。

 その時、入り口の鐘を叩く音が聞こえた。

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