14 叛乱-2-

 町は妙な賑わいを見せていた。

 ただの通行人も信者も、どこか浮かれているようだ。

 集まっているのはクジラ教を信じている者ばかりではない。

 だが今夜、何かが起こる。

 そう予感し、あるいは期待している者は大勢いた。

 この閉塞した社会で、生活は安定していない。

 瑞々しい農作物は実らず、栄養のある魚介を獲ることもできない。

 大した娯楽もなく、人々の大半はクジラの恩恵に縋ってしか生きていくことができない。

 だから彼らは内心では変革を求めていた。

 生活が豊かになりますようにと、祈り念じた。

 あるいは貧者はこんな世界など、なくなってしまえばいいと呪った。

 もちろん、ただ大騒ぎできればいいと考えている人間だっている。

 さまざまな想い、期待、希望が渦巻く町並みを見つめ、カイロウは思う。

 こんな世の中に、これ以上クジラが何をしてくれるというのか。

 家族を引き裂き、我が物顔で空を漂い、国に良いように利用されているあのクジラが。

 同時にそれに踊らされている人々を憐れにも思う。

(いつまであんなものにすがっているつもりだ)

 どうやらクジラ教の布教活動は順調に蔓延しているらしい。

 それならそれでかまわない。

 信者が増えればそれだけ集会の規模は大きくなる。

 カイロウは時計を見た。

 時刻は16時ちょうど。

 まだ少しだけ猶予がある。

 彼は一度自宅に戻り、小箱に収めていた金貨を持って行くことにした。

 今後娘と生活するための資金でもあるが、いくらか懐に入れておけば何かの役に立つかもしれない。

 そう思い付き、人通りの多い道を避けて自宅のある方向へ歩き出す。

 民家が立ち並ぶ入り組んだ細道を抜けたところで、カイロウの足はぴたりと止まった。

 自宅の前に数人の役人がいた。

 物々しい雰囲気は明らかに行政職員ではなかった。

 武装していることは遠目にも分かる。

 その中のひとりが工具のようなものを取り出した。

「なん――!?」

 彼はあやうく声をあげそうになった。

 役人はドアの錠前めがけて工具を振り下ろした。

 鈍い音が周囲に響き渡る。

 二度、三度、それが繰り返され錠が悲鳴をあげる。

(いったい何がどうなっているんだ……?)

 目の前で起こっていることが理解できなかった。

 連中はなぜドアを壊そうとしているのか。

 後できちんと弁償してくれるのか。

 そもそも壊したところでどうしようというのか。

 あれこれと考えて、出た答えはひとつだった。

 今すぐここから立ち去ることだ。

 抗議しようという気にはならない。

 彼らは周囲を威嚇するように銃をちらつかせている。

 家人が姿を見せたら声を発する前に撃ち抜かれるかもしれない。

 そもそも訪問したのであればノックするべきだ。

 留守だと分かれば後日出直すなり、呼び出し状を投函するなりすればいい。

 あれは明らかに罪人を引きずり出すやり方だ。

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