第9話

 秋風を感じるようになった。空が高く青く、雲が鱗模様を描いている。

 一人で昼食をとるようになって、四か月が経っていた。

 来年になれば学科の選択がある。自分のやりたい科に入って、そこで本当の友達を作りたいなと思っていた。隣に座ってほしいではなくて、隣に座りたい友達を。


「田辺さん見っけ」

「古賀君」

「俺もここで食べようかな」

「どうぞ。何のもてなしもできませんが」

 古賀君は神出鬼没で私の前に突然現れては言葉をかけてくれた。私はそんな古賀君にとても救われた。祐司も声をかけてくれたけれど、やっぱり好きな人からの言葉の方が嬉しい。当然のことだ。

 私は古賀君と大学内の亀のいる池の前で隣同士に座ってパンをかじった。

「最近、力の抜けた自然な顔してるよ」

 古賀君がそう言った。

「そうかも。一人になってよかったと最近は思えるよ。楽になったっていうのかな?」

「いいんじゃない?」

「うん。

でもね、満足はしていないの。やっぱり本当の友達は欲しいなって思うんだ」

「祐司サンの他にも?」

「そう、祐司の他にもね。

私、隣の席が空いているのが気になって仕方なかったの。でも、そうじゃないんだよね。本当に嫌なら誰かの隣に座ればよかったんだよね。でもできればその誰かは友達がいいな、と思って」

 私がゆっくりと考えを言うと、古賀君はふーんと楽しげに返事をした。

「成長したんじゃない?」

「そうかもです。古賀君のアドバイス 、結構きつかったけど、効きました」

「それはよかった」

 古賀君は長い足を延ばして伸びをするようにして返事をした。なんだか機嫌のいい猫のようで、可愛く見えた。だから私も笑顔になった。

「やっぱり笑顔がいいよ、田辺さんは。

じゃあ、隣が空いてるなら俺が座ろうかな」

「え?」

「隣人だし? 座ったらその中途半端な丁寧語やめてくれる?」

「はあ」

 私は意味が分からず気の抜けた返事をする。

「友達じゃない隣ね」

 んん?? ますます意味が分からなくなった。

「わかんない? じゃあ、言葉変えよう。恋人ってのに」

「えええ!?」

 私は思いっきり声をあげてしまった。心臓がはねた。一気に動悸が激しくなる。

「声、大きいって」

「いったい私のどこが……」

 慌てて言うと古賀君がいたずらっ子のように笑った。

「……花に話しかけるところが、かな」

 私は恥ずかしさに頬が熱を持つのを感じた。

「もう! からかってるんでしょう!?」

 古賀君は楽しそうに笑ってる。

「そう思う? そんなことないよ?」

 私はなんだか力が抜けて、ぷいと横を向いた。

「そういう冗談は好きじゃありません」

「ほら、また丁寧語」

「そ、それは無効です。か、彼女じゃないんだし」

 自分で言ってちょっと悲しかったけれど仕方ない。

「それじゃ、彼氏にはしてもらえないってこと? ほんと? 残念だな。常に隣にいたいのに」

 古賀君はちょっと悲しそうに言った。

(ほ、本気なのかな!?)

 私はちょっと混乱して 、小さく頭をふった。そして、勇気を絞ることにした。

「え、いえ、その……ほ、本気ですか?」

 私の言葉に古賀君は屈託なく笑った。

「ああ、本気だけど?」

 私は目をうろうろさせる。いいのかな。本当にいいのかな。いいんだよね?

「そ、それなら、よろしくお願いします」

そういって、ぺこりと頭を下げた。

「また丁寧語になってるよ? 早く直せよな。

これからよろしく」


 この日から古賀君は私の特別な隣人になった。


           了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

隣人 天音 花香 @hanaka-amane

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ