第5話
「その後どうよ?」
書道部の部室に行こうとしている私に声をかけてきたのは祐司だった。祐司はたま会うとこうやって気さくに声をかけてきてくれていた。
「うん……。今から部活に行くところ」
「部活入ったんだ?」
「うん。
塾講のバイトも始めたよ」
「そーなんだ? でもなんだかあんまり楽しそうじゃなさそうだけど?」
「うん……」
私はちょっと躊躇う。
「部活やバイトは楽しいよ」
「それで?」
「……」
黙ってしまった私の頭を祐司が軽く叩いた。
「なんだよ、中学の夏海の方が元気だったぞ?」
「そうかも」
思わず苦笑する。
「そう、笑え笑え。どんよりしていると運気も逃げてくぞ」
「確かに……そうだね。ありがとう」
今度は苦笑じゃない笑顔が出た。
「そうだ、 もしかして悩みってあいつのことじゃないよな?」
「え?」
「今日、昼ご飯の後、食堂前で古賀からいちゃもんつけられてただろ?」
「ええ?! いちゃもん?」
突然の言葉に唖然とする。
「そんなんじゃないよ?」
「あいつには気を付けた方がいい。つるんでる奴らもなんだか怖そうな奴らばかりで悪目立ちしてるんだ」
古賀君がそんなことになっているなんて。確かに雰囲気は変わったけれど……。悪目立ち……。確かにあの容姿だと目立つかもしれないけれど、でも中身まで変わっちゃったのかな。
(違うと思う)
「大丈夫だよ。古賀君は高校が一緒だったんだ」
「そうなのか? でも、気をつけるにこしたことはないと思う」
「う……あ!」
頷こうとして、私は驚きのあまり言葉を発した。噂をすれば影。タイミングが悪いことにちょうど祐司の後ろを古賀君が通ったのだ! そして。
「誰に気をつけろって?」
驚いた祐司があわてて後ろを振り返る。
「げ」
「げ?」
古賀君は面白そうに祐司を見ていた。
「古賀……」
「田辺さん今帰り?」
唐突に古賀君が私に声をかけた。それは親しい人に対するような口調で私はどきりとした。
「……いえ、部活にいくところです」
「そ。まあ、頑張って」
手をひらひらさせて自転車置き場の方へ向いた古賀君。
「おい、なんなんだよ」
祐司が声を荒げた。
「何が?」
「お前、昼も夏海に声をかけてたじゃねーか」
「? 夏海?」
「田辺夏海」
「ああ。田辺さん。昼ね。田辺さんが前見てなかったから」
そうだったんだ。なんだか嬉しくなった。それなのに、私はグループの女子についていくのに必死で古賀君の気遣いに気づきもしなかった。
そうだ、古賀君は優しい人なのだ。
初めて古賀君を意識した時のことを覚えている。掃除時間に女子が花瓶を割ってしまったとき、黙々と花瓶のかけらを片付け出したのが古賀君だった。危ないからと女子には触らせなかったのも。ぶっきら棒でどこか近寄りがたい雰囲気を持っていた古賀君。でも本当は優しい人なんだと気が付いたときからこの想いは始まったのだ。
「なんでそんなに夏海に構うんだよ?」
なんだか変な展開になってきたような気がする。
「祐司、やめてよ」
古賀君にまで面倒くさい女だと思われたくなかった。
古賀君は先ほど同様、面白そうな顔で祐司を見ていた。
「別に特に構ってるつもりはないけど?」
古賀君の言葉に急に私の心は萎む。当たり前のことだけれど悲しい。
「でも、まあ、隣人だから?」
古賀君が付け加えた。
「隣人?」
祐司がますます怪訝そうな顔になる。
「そ。ね? 田辺さん」
「う、うん」
「じゃあ」
それだけ言って古賀君は今度こそ自転車置き場の方に歩いて行った。
「どういうこと?」
「そのままだよ。新しいマンショ ンに引っ越したんだけど、隣が古賀君なの」
「マジで!? ますます気をつけろよ!」
「だから、悪い人じゃないんだってば」
「いや、やっぱり怖かったもん、さっき」
「うーん、飄々としているからかな。
私部活行かなきゃ」
「そうか、じゃあな! 本当に気をつけろよ!」
(……)
隣人。特別な言葉ではないけれど、どこか優しい響きがした気がして、私はちょっと微笑んだ。
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