第4話

 ーー嫌なことはしなければいいーー

 

 古賀君の言葉が蘇る。

(それができたら苦労しない。

……それに具体的に嫌なことってあげられないよ)

 情けないなあと自分で思いながら空を見上げる。今日もまだ五月晴れ。

(嫌なこと……)

 私は授業中ぼんやりと考え続けた。

(取り残されること、かな、さしずめ)

 取り残されたくないなら何をしたらいいだろう。まずは。

 私は中学、高校とやっていた書道を大学でもやることにした。部活かサークルか迷ったが、部活にした。サークルより縛りは厳しいが、サークルの自由な雰囲気より自分には合っている気がした。

 筆を握ると落ち着いた。入ってよかったと思えた。言葉を交わす知り合いもできた。

(うん、一歩前進かな)

 それから塾講師のバイトを始めた。子供に理解してもらえることの難しさを痛感する時間だが、これも悪くない気がした。こちらが学ばされる。自由になるお金が手に入ることも魅力的だった。

「……」

 でもやっぱり隣の席が空いている。一番気になることなのに、どう解決すればいいかわからない。

 それだけではなかった。

 日頃ドラマや雑誌などを見ない私は皆の会話についていくことができなくなっていた。

「えっと、それ何?」

 私の言葉に裕美は最初軽く説明をしてくれていた。しかし、段々と面倒くさそうな顔をするようになり、私は分からなくても訊けなくなっていった。ドラマを見たり雑誌を読んだりして会話についていけるようにするべきなのだろうか。そうは思ってもなかなかできないでいると、次第に会話に入れなくなっていき、9人の中でますます孤立していった。まさに取り残された形だ。

 もともと友達を作るのが得意ではなかった。でも、中学、高校では一緒に取り組む行事があった。それで仲良くなることができた。でも、大学にはそんな行事はなかった。



(取り残されるのは嫌なのに )

 一緒にいる意味はあるのだろうかと思いはする。でも、一人ぼっちになりたくない。そういう思いからすがるように8人の後をついて行くしかなかった。

 食堂からでて、皆についていこうと走り出した時、軽く肩が男子に触れた。

「ごめんなさい!」

 その男子の目も見ないで謝罪をして、とにかくついていこうとする私に振ってきたのは、

「よぉ。田辺さん、前見て走ってる?」

 という声だった。

「……古賀君っ」

「危ないよ?」

「う、うん。ごめんなさい。でも私急いでるから」

 走り出す。せっかく古賀君が話しかけてくれたのに、皆について行かなきゃという焦りの方が勝っていた。

「……なんだかなあ」

 古賀君が呟いた言葉も耳に入っていなかった。


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