第3話

「夏海?」

 不意に 声をかけられ、振り返り、私は 懐かしい姿に破顔した。

「祐司!」

 中学生の時、学校も塾も同じクラスだった男子橋本祐司だった。

「うわー、久しぶりだね!! 大学同じだったんだね」

「ほんと久しぶりだよな」

「うん……」

 なんだか祐司と会えてほっとしている自分がいた。

「なんだ、疲れてないか?」

「うーん、そうかも」

「ふーん?

夏海学部は?」

「文学部。祐司は?」

「俺は工学部

サークルは?」

「うーん、まだ決めてないんだ」

「そうなんだ? 中学の時、書道してなかった?」

「うん、高校の時もしてたよ」 

「なんでそれじゃ入んないの? 俺はテニスに入ったよ」

「ふーん」

 祐司は大学が合っているようでとてもいきいきとしていた。私はそんな祐司が羨ましかった。

「バイトは?」

「それもまだ」

「なんだ、ただ授業だけ受けてるのか? 勿体ない!」

「……そうだね」

 確かに自由も得ているはずなのにそれをちっとも活用できていない自分がいる。勿体ないと思う。でも、たくさんの選択肢を一 気に出されたら戸惑ってしまうのだ。

「お、俺そろそろサークルいくわ」

「うん」

「またな!」

「うん」

(祐司は楽しそうだな。でも私は……)

 自分に納得ができないまま、この日も私は自転車で家へ帰った。




「そうなんだ~。うん、またね」

 携帯を切って私はため息をつく。高校の時からの親友の一人、新田希≪にったのぞみ≫と近況を話したところだった。希は県外の大学の薬学部に行った。忙しいが充実した毎日を過ごしているようだった。県外だし、不安もあるだろうに楽しくやっている希に安心し、それと同時に置いてけぼりをくらったような気持ちになった。

 ベランダの戸を開ける。

「皆楽しそう。私は何をしてるのかな」

 花に水をやりながら話しかける。

「田辺さんは何をしてるんだって?」

 隣から声が聞こえてきた。

(やだ。また聞かれてたんだ、古賀君に。恥ずかしい……)

 頬がかあっと熱くなる。

「田辺さん大学楽しくないの?」

「 ……わかりません」

 答える声が涙声になった。

 あ、また煙草の臭いだ。……大好きな古賀君さえ私の知らない人になっていってる。それが悲しかった。ううん、知らない古賀君ではなくて、知らなかった古賀君というのが正しいかもしれない。

「自分のことなのにわかんないの?」

 あっけらかんと古賀君は言ってくる。

「っ。なんで古賀君にそんなこと言われないといけないんですか?」

 思わず言い返してしまった。

「だな」

 しばらく無言が続いた。なんだか気まずかった。なのに古賀君は部屋に入ろうとしなかった。古賀君が吐く煙が上に上にと上がっていくのが見える。

「自分が楽しいことをしたらいいよ」

 古賀君が言 った。

「……それがよくわからないんです……」

 私の言葉に古賀君はしばらく黙った。そして、ふーっと煙をはいた。

「……そしたら、嫌なことはしなければいい。

ごめんね、泣かせて。じゃあね」

 古賀君はそういうと部屋に入っていった。

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