第2話

「夏海! 授業始まるよ!」

 大学に入って知り合った友人が自分を呼んだ。食べるのが遅くてやっと食べ終わった私は、

「あ、うん」

 と慌てて返事をする。すると視界に一人の男子が入ってきた。

「?」

 なんだろう、よく知っているのに、知らないような……?

「夏海?」

「あ、ごめん、うん、今行く」

 その男子とすれ違うようにして食堂の席を立つ。

「!?」

 え? この人。

「古賀君?!」

「おう」

 よく知っている人……古賀君は髪を赤色に染めていて、雰囲気ががらりと変わっていた。

「夏海!」

「は~い」

 驚いた。知らない人みたいだった。それに、一緒の大学だったんだ! なんだか頭が整理できないでいると、

「今の人知り合い?」

 隣を歩く田口裕美が聞いてきた。

「う、うん。高校が同じだったんだ」

「ふーん。なんだか怖い感じの人だね」

「うーん、そうだね」

 確かに今の古賀君は不良っぽさを感じるような容姿になっていた。

 煙草といい、なんだか自分の知らない古賀君が急激に増えていって私は混乱していた。

「裕美、夏海、遅いよ!」

「ごめん」

「ごめん」

 大学に入ってから同じクラスの9人と行動するようになった。高校の時は4人だったから、その倍以上の人数。それぞれ授業が異なるときもあるが、昼食は一緒に食堂でとっている。裕美は大学に入って初めて友達になった女子だった。ぼんやりしがちな私の世話をよく焼いてくれる、姉さん肌の友人だ。

(だけど、裕美は私より仲がいい友達がいる)

 9人一緒の授業のときが正直私は苦手だった。長椅子の時はいい。でも、2人でかけるタイプの椅子のとき、自分の隣がいつも空いていることに私は気づいていた。自分で裕美の隣に座ってしまえばいいのかもしれない。でも、いつもそれができずに遠慮し ていると最後に残されてしまうのだ。

(本当にそれだけなのかな? 私に問題があるのかな)

 不安になる。

 高校生の時はなかった不安。

 授業も皆同じ。服も同じ制服。好きな話題が一緒で、話し出すと時間がいくらあっても足りなかった。いつも3人が身近にいてくれるという安心感。ある意味それが特別だったのだろうと思う。いや、特別というより、人生においては異質な時間なのだろう。枠にはめられた中での個性だけを求められる時間。

 大学の生徒は出身地も様々だし、授業は選択を自分でしなければならないし、バイトなどで社会につながる機会も増える。中学、高校と違う、けれど社会人には満たない自由と責任が大学に入ると得られた。けれど、私は それになかなかついていけていなかった。バイトもまだ決めていない。それだけじゃない。自分が何をしたいのか、誰といたいのか、それすらもぼんやりと輪郭を持たず、流されているだけのような気がした。

 そもそもなぜその9人に属するようになったんだっけ? 思い出せない。友達ってそういうものかもしれないし、でもそれでいいのかわからない。

 今日も私の隣は空いたままだ。

 私はどうして選ばれないのだろう……?

「夏海、次の授業だよ?」

「あ、うん」

 無意識に笑って返事をしている自分を見ないふりをした。

 風も緑に染まるような五月晴れ。でも、その後には梅雨が来ることを知っている。

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