第14話 アブナイ露出狂は意外な大物だった噺
20歳前と言った外見の女性は、全身黒のコーディネート、かなり露出も多く、布の面積の狭いビキニスタイルに、前腕を覆う手袋と、膝までのロングブーツという出で立ち、肩当て付きのマントを纏っているが、抜群のスタイルの良さは隠せていない。
お尻にまで届く黒髪はストレートヘアで、どこかで結ぶような事はしていない。
「なんだアブナイ奴か?」
「お主、かなり失礼だぞ。よいか、妾はセレーヌ! 魔晶石を持つ者よ。汝の疑問、可能な限り答えてやろうぞ」
不貞不貞しい態度はウイック以上。彼の言葉通り、あまり相手にならない方が身のためなのかもしれないが、魔晶石について知っている様では無視もできない。
「おお、これは魔女セレーヌ様、なぜこのような所に?」
コーエンは、いや魔門界の人で知らない者はいない、その名は。
「魔女?」
「そう、我こそは八大魔王が一人、妖艶の魔女セレーヌ」
魔門界には八人の魔王がいる。確かに文献にはそう記されている。
「ねぇ、ウイックどう思う? そんな大物が一人で、こんな所まで来るものなの?」
口元を覆い、小声で耳打ちするミルは、そんな場合じゃないだろと耳元で大声を出し、口の動きを隠していた手で男の頬を打った後、自分のお尻を手で護った。
「いててて、全てを鵜呑みには出来んけど、あの魔力量だ。大物なのは違いない」
オイタはしたが、目線は自称魔王からは外さず、額の汗が納まらない。
「さすがは魔晶石を頂きし者だの、妾の魔力を見ただけで見抜くとはやるではないか」
なんともフレンドリーな魔王様ではあるが、ウイックから伝わる緊張がみんなにも伝わり、男以外誰も声を出す事ができなくなった。
「して何だったか? 魔界に行きたいのであったか?」
「ああ、そうなんだけどよ。そもそもここは本当に魔門界なのか?」
緊張したままだが、口調はいつも通りの無礼講。けれどこの場はウイックに任せるのが一番のようだ。皆の意見は一致した。
「間違いないぞ」
「俺達の伝承では、もっと重い雰囲気の世界のはずなんだが」
「あのむさ苦しい頃の話か。確かに以前はそんな雰囲気だったのぉ」
魔女セレーヌは椅子を人増分取り出し、屋外で座談会を始める。
突然現れたメイド達、ウイック達はお茶のお持て成しを受け、三日続けてのお茶会がスタートした。
「どうじゃ、こういうのは青空の下、のどかな雰囲気で行う方が楽しいであろう?」
至極のお茶とお茶菓子のケーキ。しかし魔女の持て成しを簡単に受け入れていい物か?
腰は下ろしたものの、出された物に手を伸ばすことはできそうにない。ミルは居心地の悪い空気をお茶で緩和したいが、今は生唾を飲み込むのが精一杯だった。
「お主らの世界を真似たのだがな。我ながらよくできたと誇りに思っておるのだよ」
「この景色を魔女様がかよ?」
「おおっ! 他の魔王も巻き込んでな。妾は温泉郷なるものを作りかったのじゃよ」
魔門界にも大きな山はあり、自然に沸き上がる温泉も少なくないが、ジメジメして味も素っ気もない風景では気分が高揚しない。
「初めて大海洋界に赴き、堪能した温泉は、絶景の中にあった。あれは今でも忘れられなくてな」
先ずはその湿っぽい空気を変えるべく、発明させたのが魔物門。
魔界から湧き出る瘴気、その気に当てられ狂乱化する魔物達を、別世界に追い出す事で、実はこんなに美しかった魔門界の大自然は時間を掛け、ゆっくりと元の姿を取り戻した。
「ちょっと待て、その尻拭いを俺達の世界に押しつけたのか?」
「なに、お主らの世界は他の四世界よりもずっと広い。しかも太陽からは天上界オーガイルの聖光気が絶えず注いでいるしな。あの光は浄化の力を持っているから、そんな大事にはなっていないであろ?」
驚きの新事実。
「そうなのか、アンテ?」
「ああ、うん。そうだよ。けど光の届かない深い森とか、夜に魔物門が出現した場合は浄化されないけどね」
上位の魔物が通れる魔物門も、日光だけで浄化するのは難しい。
「やっぱり、ろくでもないじゃないか!?」
「何を言う、精霊界ラクーシュも過ごしやすい地だと聞いておる。なぜ我らの世界ばかりが暗く陰鬱な地であるのだ。少しくらいはお情けを受けたところで罰は当たらんだろう」
目に涙を浮かべて訴えられては、これ以上攻めてはいけないのでは。と言う気にもなってくる。
「な、なるほどな。言い分は分かった。しかしあんたは庶民的な考え方をするんだな。魔女様、かなり
ウイックが無造作にお茶に手を伸ばすのを、ミルは止める事ができなかった。
一気にカップを空にすると、メイドにおかわりを要求するウイック。毒の類は入ってなさそうだが……。
「他の魔王にも魔門界には不干渉でいる盟約を結ばせて、その代わり魔界で疲れた体を、この地で癒す事を許したのだ。見ろ、妾の計画はそうして完遂できたのだ」
魔門界の整備は、低級の魔物の中から、知能のある程度高い、ゴブリンやノームを元にして、
「つまりさっきのおっさんも、元は魔物だったってことか」
「ここにもお主達の世界同様に、冒険者と呼ばれる者達も存在しておる。なるべく魔門界から魔物が出ていかんように、警備をするようにと考えたのじゃが、こちらの方はあまり成果を上げておらん。その辺は本当に迷惑を掛けておると謝罪させてもらおう」
話を聞けば聞くほどに、イメージから掛け離れていく魔門界。
全てどころか、何一つ信用できないが、筋道だけは一本通っているので、判断が非常に難しい。
「なるほど、大体分かった。けど俺達には魔女様の話を確かめる方法がない。ここじゃあ俺の目的も果たせそうにないしな。そこでだ」
話の展開を注視するミルは、他の三人がお茶に口を付けている事に気付いていない。喉の渇きがひどい、緊張で手足にも痺れを感じる。
「俺達を魔界に連れて行ってもらえないか?」
一言の相談も無しにトンでもない事を決めてくれたものだ。
だがしかし文句は言えない。ここに来るまで二度、ウイックに付いていくと宣言したばかり、もしここで反対しても、ただ置いて行かれるだけだろう。
流石にみんなの様子が気になり隣のイシュリーに目を向けると。
「えっ?」
ウイックの話はちゃんと聞いていたのだろうか? ミルを除く少女達は皆、お茶にお菓子を楽しみ、メイドを交えて談笑している。
「貴方達!? ちゃんとウイックの話聞いてたの?」
「聞いてたわよ。でもどんな結論でもウイックが選んだ道に進むだけの事だもの。待っている間に寛ぐく
らいはいいでしょ」
マニエルの意見は尤もな話だ。ここまで来て、あたふたしてもしょうがない。……のだけれど。
「それにウイックがいれば、どこに行ったって護ってくれるでしょ?」
覚悟の仕方も人それぞれだが、不安ばかりが募る。
「よかろう。そなたらを魔界に招こう。妾もそちらの方がより楽しめそうだしな」
座っていたはずの一同は、いつの間にか立たされており、辺りも突然に真っ暗となり、
魔力も一気に膨れ上がり、瘴気が気分を陰鬱にしてくれる。
立ち位置も変わっており、ウイックはセレーヌと正対し、まるで臨戦態勢が整ったかのようだった。
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