第13話 思いも寄らない魔門界での出来事の噺
出発前の一悶着を終え、一同は魔物門を潜り、異空間を暫く歩く。
「出口が近いね」
先頭を歩くアンテが光の先を指さす。
大海洋界に伝わる文献には、魔門界は昼なお暗く、瘴気が蔓延し、生きとし生けるものの理性を狂わせるとなっている。
「本当に大丈夫なの?」
「ここでそんな事を言っても、しょうがないだろミル」
この空間に入る前にさんざん話し合ったのだ。ミルの心配は皆が重々承知しているが、もう引き返す事もできない。
「出るよ」
空間を抜けるとそこは……。
「ここが魔門界か、こっちも昼間なんだな」
天を仰げば青い空に白い雲、太陽は天辺に近いが日差しは柔らかい。
辺りは小さな黄色い花が群生する畑の中心。
「場所って、間違ってないよな」
「魔物門の繋がる先は魔門界。と言うのが常識だよウイック」
「俺も文献の内容は知ってるよアンテ。けどどう見ても、その文献通りの世界じゃあないよな。ここは」
一目でバンセイアのある高原とは違うのは分かる。
かなり拓けた平野部で、遠くまで見通せる草原が拡がっている。
「大丈夫かマーニー」
ミルの心配していた大元、マニエルは魔門界で瘴気を浴びて、しかしながら竜人化することはなかった。
「ここが魔門界だと確認する方法が必要だな」
周りには獣の姿もないので、まだ結論づける事はできないが、魔物門が魔門界に通じていると言う事すら疑われる。
「これじゃあ確認のしようがないな」
「そうだね。マーニーに付けた腕輪で瘴気がカットできるかは後だね。先ずはここがどこかを確かめないと」
マーニーの両方の上腕に填められた、アンテの発明した魔力遮断ベルトが、ちゃんと稼働するかが第一の目的だったが、そこは当てが外れ、では第二の目的、現在地確認をするために辺りに目を向ける。
「そうね、あんたの発明に頼らなくていいなら、それに越した事ないわ」
マーリアが側にいなくなってから、どうもマニエルのアンテに対する態度がおかしい。
それは他の三人にもすぐ伝わるが、その辛辣さはそんな簡単ではない、何か問題があるみたいなのだが。
「何、お前ら喧嘩でもしてるのか?」
兄として、親友として、できたら仲良くしてもらいたいのだが。
「喧嘩って言うか、一方的に嫌われてるみたいなんだ」
「何かしたのか?」
アンテの三歳年上の姉ララクララと四人、幼い頃から一緒だった。
いつも控えめのアンテは皆の行動を後ろから、逆らうことなく付いてくるタイプ。
無理に引っ張り回す三人、特に一番年上のララクララの暴挙ぶりは、ウイックとマニエルも恐れていたほどだが、どんな事にもアンテは黙って従っていた。
「どうも身に覚えがなくてね。聞いても教えてくれないし、大人達の前では普通に接してくれるから、暫く様子を見ようと思ってんだ」
結局理由は分からないまま、それでもマニエルはいつも通り、アンテはそう感じたそうだ。
「ねぇ、あそこって、道じゃあない?」
ミルが見つけたのは人の手で整備されたような一本道。
「あれって、人か? いや魔門界なら魔人か?」
道沿いにある畑を耕しているように見える人影を、今度はウイックが見つけて、一同はそちらに向かう事にした。
「あれ、本当に魔人かぁ?」
畑が近くなってハッキリと人の姿を見て取れるようになると、あまりに自分達に似すぎていて、魔門界に来たつもりのウイック達の不安がまた膨らんだ。
「あの、ちょっといいですか?」
ウイックの隣に並び、先頭を歩いていたアンテが声を掛ける。
「なんだ、あんたら見掛けない顔だな」
言葉が通じる。ランドヴェルノ製の翻訳機が使えているということは、つまり大海洋界のどこかで使われている言語であるのは違いない。
「ちょっと聞きたいのだが、ここは魔門界で合ってるのか?」
ウイックは直球で疑問をぶつけ、最初はキョトンとしていた男は、若者達を訝しんで順番に眺めると。
「ああ、あんたら魔物門に迷い込んだ別世界人なんだな?」
男は一行を一人一人見比べて、何か納得した様子で。
「ここは魔門界で間違いないさ」
ウイックの問いに答えた。
「迷い込んだわけではないが……、そうか、魔門界で間違いないのか。思ってた風景とかなりかけ離れているから驚いたぜ」
「あんたらみたいに、魔物門に迷い込んだ連中は、みんなそう言うよ」
畑仕事をしていた男はコーエンと名乗った。年は41歳らしいが、禿頭や顔の皺は、もう少し老けた印象を覚える。
「あんたらの世界の
「魔界?」
「魔界と魔門界は別物だ。裏世界と言っていい」
表面世界が魔門界、大海洋界に干渉してくる魔物門を生み出しているのは魔界、なぜか魔界からの出口は大海洋界になるが、大海洋界から入った者が出てくるのはこの魔門界になるそうだ。
「ウイック、これって?」
「ああ、アンテ。俺が行きたいのは魔界であって、魔門界ではない」
何故二重構造になっているのかはコーエンは知らなかったが、貴重な情報はもらえた。
「ついでに、魔界への行き方って知ってるか?」
「そいつも俺は知らねぇよ。噂はあるみたいだけどな」
これはどうしたものか?
まさかこんなにややこしい事になるとは思っていなかった。
魔力も存在しない世界で、魔晶石の事を調べられるはずもない。
もっと情報が必要なのだが、見渡す限り、家がポツポツ点在しているだけの、どうやらこの辺りは農村地帯のようだ。
他の人を見つけて聞いても、コーエンが教えてくれた以上の話は聞けるとは思えない。
「主らの質問なら私が答えてやってもよいぞ」
今まで全く気配を感じなかった背中越しに、その声は突然に投げ掛けられた。
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