第11話 圧倒的戦力差に怯える余裕もない噺
海底都市までは四半日を要する。
それは水圧に気を配り、乗員乗客の安全を第一にしての用心からだが、今回は緊急を要する。
それでもどれだけ急がせても、やはりそれなりの時間が掛かる。
セイラの話によれば、ソフィーリアに援軍を出せる距離にある都市は二つ、キラーヴィとセファーランス。
それぞれが軍を動かしてくれたなら、ともすれば既に沈静化しているかもしれない。
だがその願いは、楽観が過ぎたようで、激戦は継続中だった。
地上は既に日が落ち、瞬く星のみが煌めく暗闇の世界。
その瞬く物もない深海は、感覚器官の発達していない
のはずが、海底都市ソフィーリアのある海底には、光を放つプランクトンが広く滞留しており、屋内でロウソクを灯す程度の明るさが、そこにはあった。
『ウイック、準備はいい?』
潜水服に着替えたアンテとウイック、交戦地帯から少し距離を取り、ハッチを開いて外に出る。
魚人軍後方部隊の位置を確認し、アンテが合図をする。
ウイックの最大攻撃術式、“
クレバーネの花の成分で安定した魔晶石。
花の成分を分析して、アンテと悦楽のビシャナが作ってくれた制御装置のお陰で、理力の充填、圧縮、制御を気易くこなす事ができ、間を置かずもう一発を放ったところで、魚人軍は一時後退した。
その機に乗じて、亀甲船は海底都市に着岸、アーチカ姫を先頭に、人魚の首相と面談する事となった。
「大分慣れてきたみたいだね。ウイック」
「ああ、溺れる心配がないってのがいいな。安心してジタバタできる」
水に慣れるのと、泳げるようになるのとはイコールにならないが、怖がらなく居られたなら、秘術士のウイックは十分戦える。
浅い海では自由に泳ぎ回って見せたマニエル。
さっきウイックが魚人を退けさせた後に外に出てみたが、この深海でも人魚と同等の泳ぎができた。
問題は近接戦闘を主体にする二人と、飛び道具が使えないアンテの機動力の確保。
「よく来てくれました、伯爵。それと姫殿下」
ソフィーリア代表のカンパーニ=フェニーナ。
ブルーの鱗と長い直毛の金髪、なによりデカイ胸に目がいく。真っ赤なビキニが、振り子のような動きにあわせて、大きく揺れ動く。
「状況は?」
姫様に戦況報告をすると、皇女殿下は、海底都市首相と同じ様に眉を顰める。
「我々の戦力は八百余りありました。これまでの被害は百を超えています。負傷者も三百に及び、半数がやられた事になります」
まさかの大苦戦を強いられているのは、予想外の敵との物量差による。
「一万三千!?」
魚人の大群が攻めてきたとは聞いていた。
しかしその圧倒的戦力差で、よく持ち堪えたものだ。
「先ほどの秘術攻撃のお陰で、恐らく3~400匹は葬られたと思われますが、差はまだまだあります」
それだけの差があると、亀甲船の存在だけで云々は通用しない。
「その点は大丈夫。あの船は元々潜水艦だからね。攻撃力も持っている。十分戦力になるよ」
ずっと潜行艇として定期便に利用してきたが、アンテの見立でそれは嘗て、戦闘兵器として作られた物だと判明。
この会見の場にいないアンテは今、船員に艤装の説明と、操作のレクチャーを行っている。
「それでも状況は厳しいな。これではこちらから行動を起こす事はできないぞ。敵がどのタイミングで、どう仕掛けてくるかは分からんが、こちらは戦闘態勢を崩さずに、様子見だな」
アーチカ姫殿下が陣頭指揮を執る事となり、残った人魚と、治療を終えた人魚の配置を確認する。
ウイック達はアンテのいる港へ向かった。
こちらの五人とカザリーナは、単独行動が許されている。
「それじゃあイシュリーとミルの潜水服にも追加補助が?」
「うん、間に合わせだから、ウイックのプロテクターの部品を使ってね。二人分がやっとだけどね」
アンテはバックパックの機能を使えば、水中でも不自由がない。
ミルとイシュリー、接近戦が求められる二人の為の機能を追加、これが今できる全てだ。
「カザリーナさんは亀甲船で戦闘指揮をお願い、海賊流の海戦術を期待するよ」
アンテは地上のベンレッタ出航後、使用を可能とした艤装の全ての指揮機能を、艦橋で制御できるようにした。
これで本来、その砲門の一つ一つに船員が付く必要があったのを、カザリーナが一人で、艦橋から操作する事ができる。
海賊としてはおとなしめの彼女は、意外な事に海賊船では、砲手を任されていると聞き、お願いする事にした。
それぞれがそれぞれにできる事を調えたが、はやりこの乱戦、戦いの要は秘術士という事になるだろう。
人魚の中にも30名ほどの術士はいるが、中でも牽制役のウイックの働きが要となると予想される。
どうにか船外活動もできるようになったものの、不安要素があまりに大きい。
『亀甲船に肉薄する敵はミルとイシュリー、それと僕で対処するとして……』
「ウイックの事は任せといて」
亀甲船の大きさから言って、三人は周囲に散って護衛に付く必要がある。
それでも足りないほどなのに、ウイックの面倒までは手が回らない。
『よろしくお願いするよ』
海底都市ソフィーリア防衛軍、第2後衛部隊副隊長のセイラ。
首相命令でこちらの補佐に回されたらしいのだけど、援護を専門とする彼女は、ウイックのお守りとしては正に適任と言える。
これで魚人の大群相手に、どこまで太刀打ち出来るかは分からないが、やれる事はやった。
鍛冶師に会いに行っていたミルが戻ってきて、亀甲船は出港した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます