第3話 獣王の神殿でまったりお茶する噺
「てててて、なにしやがるお前、ミルよ。俺が何かしたのか?」
あとを付いてきていたミシェリーが驚きのあまり腰を抜かすが、何事もなかったように起きあがるウイックが抱き起こしてくれた。
「ありがとう。大丈夫なの?」
すっかり仲良しになった二人は、3人の座るソファーのところまで行き、イデアを挟んで三人掛けの椅子に腰を落とした。
「ひでーじゃねぇかよ、ミル」
「ご、ごめんなさい」
素直に謝って貰ったので、今回は水に流す事にして、後から来た二人にもお茶とフルーツが出されて、談話は再開された。
「どうだった、この子の実力?」
我が子の成長を気にする母に、ウイックは正直に答えた。
「おお、大したもんだな。なんで免許皆伝にならないのか、分からないくらいだよ」
立ち上がり、傍らに来るウイックに頭を撫でられて、まるっきり子供扱いされているのを、満更でもないミシェリーは上機嫌で胸を張る。
「この子は技は極めたものの、経験値がまだまだ足りてないの」
娘を褒められて満更でもないのは母親も同じだが、まだ履修を認めるわけにはいかないのも事実だった。
「経験値かぁ」
「さっき貴方が額にナイフを刺して倒れた時も、驚きも隠せないほどに動揺してたでしょ」
練習と分かっていれば実力を十分発揮できるが、実戦になり、想定外の事が起きると途端に萎縮してしまう。そこを治すにはとにかく実戦を積ませるしかない。イデアはそう考えている。
「貴方達の冒険に同行させられれば、この子の経験値もグッと上がるのでしょうけど」
三人とのレベルが違いすぎる。それを理解しているイデアは、今は冒険者ギルドに頼んで、ミシェリーが同行できるパーティーを探して貰っているのだそうだ。
「そう言えば、聞きそびれていたけど、イデアさんはウイックとはどういったお知り合いなんですか?」
この問いに焦ったのはウイック。席に座り直して飲んでいたお茶を吹き出してしまう。
「もう、汚いなぁ」
真正面に座っていたミルが間一髪の所を避ける事に成功。まだ噎せているウイックに抗議する。
「ミル、てめぇ人のプライベートに首突っ込むな!」
「えぇー、だって気になるじゃない。ねぇ、イシュリー」
「はい! 気になって、しょうがないです」
力一杯ミルに同意するイシュリーの真っ直ぐな視線に、ウイックは目を背けて「好きにしろよ」と吐き捨てた。
「私とウイックのお母さん、マーリア=ランドヴェルノとは幼馴染みなの」
「ランドヴェルノって、もしかして伝説の錬金術師の!?」
冒険者ギルドに出入りする人間なら誰しもが知っている。今の冒険者が使う人気の既成武具は、そのほとんどがランドヴェルノ製の物だ。
安価な物は工房にて大量生産されているが、高価な業物は、今でもランドヴェルノの技術を継承した職人が仕立てていて、今から注文すれば、受け取りは三年以上後になると噂されている。
「ウイックと名前違うけど、あんた隠し子かなんか?」
「ランドヴェルノは旧姓だよ。いや、数年前に離婚したから、俺の方が旧姓を使ってる事になるのかな」
素っ気なくそっぽを向いたのに、ウイックは丁寧に説明をしてくれた。
「マリアとはね、幼い頃から私のお姉さんみたいな存在でね。四歳も年下なのに頼りになる子だったのよ」
お互い子供もあって、仕事も忙しい身ではあるが、今でも時間を見つけては、顔を合わせている。
「獣王は忙しいと言うより、いつ訪問者がいるか分からないから、ここから離れられないと言うだけなんですけどね」
イシュリーはなぜ、自分がこんなに早く獣王の座を受け継ぐ事になったのか、その説明を始める。
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