第28話 秘術vs法術、続く正面衝突の噺

 ウイックは理力制御のために付けているブレスレットを両腕から外すと、集中力を高めてパワーを一気にMAXまで持ち上げる。


「ぞくぞくしますわね。まさかこれほどとは……」


 肌で感じる。秘術士の内の高まりを、法術士は身震いしながら興奮した。

「手加減できねぇかもしれねぇ。遊び気分は無くせよ」


「ご安心ください。ワタクシにも新しい、貴方対策がございますので」


 徐に服を脱ぎ出すエルラム。


「ごめん遊ばせ、更衣室がございませんので、ここで着替えさせて頂きますね」


 下着姿になると、ウイックがワンドを取り出したように、何もない空間から取り出したのは、二の腕までの袖の短い薄手のシャツと、ショーツよりも布面積は広いが、おへそに届かず、太股も隠せない小さなパンツ。


「ぶるまぁと言うそうですよ」


 求めていない情報までくれると、ロリータゴシックドレスよりは動きやすそうだが、どうにも戦闘向きには見えない装いに、衣装チェンジが完了する。


「この世界は精霊力はたっぷりですけど、法術に使われる妖力が薄いんですよ」


 精霊界ラクーシュにあるのは精霊力が主で、エルラムが使用する法術に必要な妖力はほとんどない。技を行使するのにかなりの制限を受けてしまっている。


「この服は霊冥界と他の世界を繋げて、妖力を受け取ることができ、しかもワタクシの術を増幅までしてくれますの」


 これで条件としては同じになったと、エルラムは自信満々に言ってのける。この力があればウイックの不死身も追いつかないほどにダメージが与えられるとも……。


「では、バトル再開ですわ」


 着替えるために閉まった翼を広げ、再びエルラムは大空へ舞い上がる。


「空なんぞ飛びやがって、術を当てようにもトンでもねぇスピードだしよ」


 秘術の中には“飛翼ひよく”と言う、翼を生み出して飛び回る。エルラムが今使用している“フライングフェザー”と同じ技があるが、なぜかウイックは使用した事がない。


 使えないのか避けているのかはともかく、同じように飛ぶ事は出来ないので、対空には飛び道具となる秘術便りとなる。


 だがウイックにも秘策はあった。


 今度はエルラムに同様の技がない“転移てんいの秘術”で、瞬間移動を使ってエルラムのいるところまで跳び、バックを取って直接攻撃を狙う。


 目を離したりはしていない。


 瞬き一つをしたかしないかくらいのタイミングで、死角に出ると“氷弾ひょうだんの秘術”で、無数の拳大の氷を生み出し、高速で撃ち出した。


「なんの冗談ですか? ワタクシが“フレイムカーテン”を最初から発動させているのはご存じですよね?」


 火系の防御術に阻まれて、氷は全て霧と化す。蒸気が霧散した向こうには既にウイックの姿はなく、再びエルラムの背後に回って、今度は光を収束させて大砲のように光弾を放つ、“光束こうそくの秘術”で隙をついた。


 エルラムは急降下で回避するが、その先には“石槍せきそうの秘術”が生み出した針山が待ち構えていた。


 少女が“ハンマーナックル”と詠唱すれば、鋼鉄の如き拳で尖った岩石を叩き割る。

「なんですの。この多彩な攻撃の切り換えの早さは?」


 回避や防御が難しい攻撃を受けているわけではないが、反撃に移る余裕がない。


 ぶるまぁのお陰でエネルギーの枯渇はないが、間違いなくウイックは自分の何倍とも言える理力を消費しているはず。このラッシュをどうして続けられるのかも気になるが、いつまで凌げば攻撃に転じられるものか。


「ウ、ウイックさん」


 彼に本気の攻撃を望んだのは己だが、少し取り付く島が持ちたい。思わず無意味に声を掛けると、律儀に返事が返ってきた。


「どうした、降参か?」

「えっ?」


 聞こえてきたのは五カ所からの声。


「ああ、そう言う事でしたか。身断? でしたかその術。五対一で戦っていたのですね、ワタクシは」


 五人のウイックから矢継ぎ早の攻撃、しかし元は一人の秘術士が実行可能な戦術とは到底考えられない。


「不死身の体といい、莫大な理力量といい、本当に底の知れない人ですね。貴方は」


「お前もまさかここまで捌ききられるとは思わなかったぞ。なんちゅう身体能力してんだよ。本気で剣術だけでミルとやり合えんじゃあねぇのか?」


 お互いに決定打を見つけられず、体力勝負となれば、秘術士の方に分がありそうだが、いくら攻撃しても当たらなければ意味はない。


「これ以上の消耗はお肌によくありませんね」


 エルラムはまた何もない空間“エアロポケット”から、新たなアイテムを取り出した。


「一気にケリを付けさせて頂きましょう」


 法術士はボール状のアイテムに妖力を込めて起動させた。

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